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第25話 誓い (2)

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 リチェルは呆気にとられ、アルキバを見つめた。アルキバはつらつらと言葉を続ける。

「でも俺はヴィルターとは違う、あんたを守るだけのつもりは無い。ジルソンから王位継承第一位を奪還させてやる。俺があんたを王にする」

「ま、待て、何を急に!私の護衛だと?ヴィルターを見ただろう!そなたもああなる、大事な人を人質にとられる!」

「言っただろ、俺に親なんていねえよ」

「両親でなくとも、そなたのその……こ、恋人……や友人が人質になるかもしれない!」

「恋人だっていねえよ、って言わせんな。俺の友人って、剣闘士とかさっきの魔術師とかのことか?あいつら人質に取れると思うか?」

「うっ……。そなたの命が危ない!私なんかの味方をしたら、そなたは殺されてしまう!」

 アルキバはいたずらっぽい笑みを浮かべた。

「おいおい、誰が殺されるって?俺を誰だと思ってんだ?」

 リチェルはぐっと口を噤んだ。
 あまりの説得力に返す言葉がなかった。

 胸の内から、形容し難い熱いものが込み上げてくる。

(そなたという男は、なんて)

 退廃し堕落した、恥ずべき王子。
 こんな自分の護衛を、アルキバは買って出るという。

 哀れに思ったのだろう。
 罪にも目をつぶり、救いの手を差し伸べてくれた。

 震えるリチェルの唇から、ぽろりと言葉が零れ落ちた。

「アルキバは、優しすぎる」

 アルキバはにやりと笑った。

「どうせなら『強すぎる』って言ってくれ」

 リチェルは眩しい思いでアルキバを見つめた。

「分かっている、そなたは本当に強い男だ。私に、そなた程の男に守られる価値などないのに……」

 すると、

「ある」

 とアルキバは即答した。真剣な眼差しで。
 リチェルが目をしばたくと、アルキバはリチェルの胸に手をそっとのせた。

「ロワに聞いた。リチェルの魂は傷だらけだって。それでもよく、生きながらえたな。あんたは、最強の剣闘士が仕えるに値する強靭さを持っているんだ」

 リチェルは口をポカンとする。
 顔がにわかに熱くなった。そんなことを言われたことがないのはもちろん、自分で思ったこともない。
 褒められることに慣れてないリチェルは、気が動転して視線をさまよわせる。焦りながら次の言葉を探した。

「あ、あり、ありがとう。だが、そうだ、見返りが必要だ。ただ守ってもらうばかりでは申しわけがない。そなたにとっての見返りはなんだ」

 リチェルの質問に、アルキバは答えに窮した様子で苦笑する。

「見返りねえ。そんなもん考えちゃいなかったが、ただリチェルを放っておけないだけで……ってこれじゃ、軽薄な口説き文句みたいか?」

「口説き文句……」

 その単語を思わず繰り返すと、アルキバは焦った様子で頭をかく。

「いやま、まあ、そうだな、あんたが王になれたあかつきには、褒美の一つくらいもらっておこうか」

 リチェルは口に手を当てて、真面目に考えた。

「そなたへの褒美、アルキバが喜ぶもの……」

 思考をめぐらせ、そうだ、とあることを思いついた。
 それは素晴らしい思いつきである気がした。リチェルは瞳を輝かせた。
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