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[番外編] 最後の仕事(23)
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「うわああああっ!なんなんだお前ら、凶暴すぎるだろう!」
小さな悪魔たちが、嵐のようにグレアムに襲い掛かっていた。
鳩、とも言う。
大量の普通のキジバトが、グレアムが手にした焼き菓子に群がっているのだ。
グレアムは頭の先から足元まで、羽ばたく鳩につかまれ、つつかれ、鳩まみれである。
「だ、大丈夫か……」
サギトの声音はしかし、気遣いより笑いに震えていた。
ここは王立公園内、木立にかこまれた広場である。午後四時過ぎの日差しは暖かくそよぐ風は涼やか。人出はまばら。二人とも今は騎士服ではなく普段着なので、目立つ心配もなく気楽にしていられた。さすがの「グレアム様」も普段着だと本人と気づかれないようだった。
居心地のいい空間だった。
目の前の大惨事はともかく。
サギトも鳩に焼き菓子を与えていたが、こちらの鳩たちはお行儀よく、しゃがむサギトの手のひらをつついていた。
しかもサギトのほうにいるのは何故か全部、孔雀鳩ばかりだった。全身が真っ白で扇のような尾が美しい。
一羽、サギトの肩にちょこんととまっている。暴れて羽ばたかないし、サギトに甘えて懐いているような、ほほえましい光景である。
グレアムが歯軋りしながら言う。
「くっ……可愛い……天使かよ……。でもずるい……違いすぎる……」
「ん?」
「さ、さては術使ってるなサギト!」
「使ってない、わかるだろう」
「じゃあなんで俺はこんな悲惨な状態でしかも普通の鳩ばっかり寄ってくるんだ!」
「さあなあ」
「もうあっち行け!もう餌はないってば!サギトばっかりずるい!」
グレアムは手を振り回してしっしと鳩を追い払う。
「子供かお前は」
しゃがんだままグレアムの顔を見上げ、サギトは吹き出す。
むすっとした顔のグレアムの頭にとまる、三羽のキジバト。
その姿が妙におかしく、サギトは声を立てて笑い出してしまう。
「あはっ、あははははは」
体を折って、腕で腹をかかえて笑った。笑って腹筋が痛い、という経験を久しぶりにした。子供の頃以来かもしれない。
ようやく笑いがおさまり、笑いすぎて濡れてしまった目元をぬぐいながらグレアムを見ると、惚けたようにサギトを見つめていた。
もう鳩からは解放されていた。鳩たちは餌のなくなったグレアムをようやく見限ってくれたようだ。
「悪い、笑いすぎた。いなくなってよかったな鳩」
謝りながらも、まだ声が笑ってしまっている。
グレアムがいきなり、そんなサギトの目の前にしゃがみこんで、両手をぎゅっと握った。真剣な目でサギトを見てつぶやく。
「よくやった鳩……。俺は鳩の仕事を褒めたい……。お前達は大いなる偉業を達成した……」
「な、なんだ」
「路上ではだめかもしれないが、公園では許されるはずだ。……デートだから」
「なんの話だ?」
グレアムが、どきりとするほど優しい目をした。その顔が傾き、近づいてくる。
サギトは思わず目をつむった。
唇に唇が触れる。
その瞬間、鳩たちが一斉に飛び立った。羽ばたきのカーテンが二人の行為を隠してくれる。
グレアムの温かい唇がサギトの唇を柔らかく食み、濡らされる。
グレアムの顔が離れ、サギトを見つめた。
深いキスではないのに、サギトはとてもドキドキした。
グレアムも照れたように微笑む。
「……デートって、楽しいな」
そうか、デートだからドキドキするのか。
サギトはこくりとうなずいた。
「すごく楽しい……」
サギトが顔を紅潮させながらそう言うと、グレアムは心底うれしそうに破顔した。サギトの額にまた唇を落とし、手を取って立たせた。
「じゃあ次はボートな!」
小さな悪魔たちが、嵐のようにグレアムに襲い掛かっていた。
鳩、とも言う。
大量の普通のキジバトが、グレアムが手にした焼き菓子に群がっているのだ。
グレアムは頭の先から足元まで、羽ばたく鳩につかまれ、つつかれ、鳩まみれである。
「だ、大丈夫か……」
サギトの声音はしかし、気遣いより笑いに震えていた。
ここは王立公園内、木立にかこまれた広場である。午後四時過ぎの日差しは暖かくそよぐ風は涼やか。人出はまばら。二人とも今は騎士服ではなく普段着なので、目立つ心配もなく気楽にしていられた。さすがの「グレアム様」も普段着だと本人と気づかれないようだった。
居心地のいい空間だった。
目の前の大惨事はともかく。
サギトも鳩に焼き菓子を与えていたが、こちらの鳩たちはお行儀よく、しゃがむサギトの手のひらをつついていた。
しかもサギトのほうにいるのは何故か全部、孔雀鳩ばかりだった。全身が真っ白で扇のような尾が美しい。
一羽、サギトの肩にちょこんととまっている。暴れて羽ばたかないし、サギトに甘えて懐いているような、ほほえましい光景である。
グレアムが歯軋りしながら言う。
「くっ……可愛い……天使かよ……。でもずるい……違いすぎる……」
「ん?」
「さ、さては術使ってるなサギト!」
「使ってない、わかるだろう」
「じゃあなんで俺はこんな悲惨な状態でしかも普通の鳩ばっかり寄ってくるんだ!」
「さあなあ」
「もうあっち行け!もう餌はないってば!サギトばっかりずるい!」
グレアムは手を振り回してしっしと鳩を追い払う。
「子供かお前は」
しゃがんだままグレアムの顔を見上げ、サギトは吹き出す。
むすっとした顔のグレアムの頭にとまる、三羽のキジバト。
その姿が妙におかしく、サギトは声を立てて笑い出してしまう。
「あはっ、あははははは」
体を折って、腕で腹をかかえて笑った。笑って腹筋が痛い、という経験を久しぶりにした。子供の頃以来かもしれない。
ようやく笑いがおさまり、笑いすぎて濡れてしまった目元をぬぐいながらグレアムを見ると、惚けたようにサギトを見つめていた。
もう鳩からは解放されていた。鳩たちは餌のなくなったグレアムをようやく見限ってくれたようだ。
「悪い、笑いすぎた。いなくなってよかったな鳩」
謝りながらも、まだ声が笑ってしまっている。
グレアムがいきなり、そんなサギトの目の前にしゃがみこんで、両手をぎゅっと握った。真剣な目でサギトを見てつぶやく。
「よくやった鳩……。俺は鳩の仕事を褒めたい……。お前達は大いなる偉業を達成した……」
「な、なんだ」
「路上ではだめかもしれないが、公園では許されるはずだ。……デートだから」
「なんの話だ?」
グレアムが、どきりとするほど優しい目をした。その顔が傾き、近づいてくる。
サギトは思わず目をつむった。
唇に唇が触れる。
その瞬間、鳩たちが一斉に飛び立った。羽ばたきのカーテンが二人の行為を隠してくれる。
グレアムの温かい唇がサギトの唇を柔らかく食み、濡らされる。
グレアムの顔が離れ、サギトを見つめた。
深いキスではないのに、サギトはとてもドキドキした。
グレアムも照れたように微笑む。
「……デートって、楽しいな」
そうか、デートだからドキドキするのか。
サギトはこくりとうなずいた。
「すごく楽しい……」
サギトが顔を紅潮させながらそう言うと、グレアムは心底うれしそうに破顔した。サギトの額にまた唇を落とし、手を取って立たせた。
「じゃあ次はボートな!」
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