魔道暗殺者と救国の騎士

空月 瞭明

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[番外編] 最後の仕事(18)

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 サギトはグレアムに抱き上げられたまま、脱衣所から、湯気の立ち上る風呂場へと入る。グレアムはサギトを抱きかかえたまま、風呂場の椅子に腰を落とした。
 自分の股の間に、サギトを座らせる。

 サギトは逃れようともがくが、腰のあたりにしっかりと腕を巻きつかれて身動きできない。

「ま、まさか本当に俺を洗う気か」

「うん」

 グレアムが桶でサギトの体にザーッと湯をかけて来た。ちょうどいい湯加減だ。正直、気持ちがいいと思ってしまった。
 でも洗われるのはごめんだった。

「嫌だ、俺は赤ん坊じゃない!」

「王子様だぞ」

「だからなんなんだその設定は!」

 グレアムが泡立てた石鹸をサギトの体に擦り付けて来た。冷たくぬめる石鹸がサギトの腹や胸に円を描く。太ももを上下する。
 サギトは羞恥のあまり頭がパニックになりそうになる。思わず大声で叫んだ。

「やめろっ!ほんとに!嫌だッ!」

 グレアムの手がピタリと止んだ。

「……」

 沈黙。
 ちょっと言い方がキツかっただろうか、と心配になりながら、サギトは背中にいるグレアムの顔を、振り向いて見上げた。

 唇を噛みしめ眉を下げ、今にも泣きそうな顔で、グレアムはサギトを見下ろしていた。サギトは目を泳がせる。

「そ、そんな顔しても、ダメだ、ぞ……」

「……」

 グレアムはますます泣きそうな顔で、じっとサギトを見つめる。無言で。

(ああ、もうっ!)

「か、体は嫌だ、が……。か、髪ならいい……」

 グレアムはにわかに笑顔を取り戻した。

「分かった!任せておけ!」

(こいつはっ!)

 あっさりした豹変に、うまいこと手の平で転がされてるような気がしながら、サギトはもう観念して抵抗するのをやめた。
 まぁ髪くらいならいいか、と。人に髪を洗われたことなどないが。

 グレアムがサギトの髪に湯をかけ、泡たっぷりの手でサギトの頭皮を揉むように洗い出した。
 後頭部、頭頂部、前頭部、側頭部。
 頭全体をグレアムの手がマッサージするように揉んでくる。

(む……)

 髪を洗われることの予想外の気持ちよさに、サギトは驚かされた。
 グレアムの指遣い、力加減、その全てが心地よかった。今まで経験したことがないくらいに。

 湯気の充満する風呂場の温もり、そして、背中を包むグレアムの肌の温もり。
 それがサギトの身も心も温めていく。

 だんだん、意識が遠のいていった。うつらうつらと。

「……サギト?」

 どこか遠いところでグレアムが呼びかけているのが聞こえたが、サギトには答えられなかった。

 やがて体全体がふわふわした泡に包まれる心地がした。
 誰かの手がサギトの全身を滑っていく。
 でもそこに不快感はなく。

 ただ、とても大事な誰かに心から慈しまれていることを、実感した。

 それからまた抱き上げられ、抱かれたまま、温かい湯に沈められる。

 全身をとっぷりと気持ちのいい温度に浸される。
 頼もしい何かにしっかりと支えられながら。

 サギトはいよいよ心地よく、自分は天国にいるのだろうか、と。そんなことを思った。

 ※※※


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(作者コメント)

な、なんかすみません…
次話がエロです!
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↓第9回BL小説大賞奨励賞いただけました
忘れられた王子は剣闘士奴隷に愛を乞う
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