魔道暗殺者と救国の騎士

空月 瞭明

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[番外編] 最後の仕事(16)

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 和やかな雰囲気の中、二人は住人達に別れの挨拶をした。
 皆、口々に尊敬と感謝の念を伝えながら、サギトに握手を求めた。サギトは感涙をこらえながら、彼らの小さな手を一つ一つ、丁寧に握った。

 住民達と別れ、集落の土塀の入り口に差し掛かったとき。
 黒尽くめの男が待ち構えていた。
 男は黒い帽子を取って軽く頭を下げた。

「あのドラゴンみたいなのに乗って王都まで帰るんだろ?俺も乗せてっちゃくれないか」

 サギトは目を細める。

「フォスターさん……」

 グレアムはにこりとして、

「もちろん!」

 と言った。

 サギトはどうしてもフォスターに聞きたいことがあった。

「いつも買ってくれていた希少薬、格安のままこういう場所で売っていたんですね。私はてっきり……」

「高値で売りさばいてると思ってた、か?いやもちろん、半分は無印むじるし共に高値で売りつけてやったさ!それでも相場の半値くらいだから飛ぶように売れるんだ。本当、あんたには稼がせてもらってたよ」

 そう言って、愉快そうに笑う。
 「無印」というのは忌人が忌人でない「普通の人間」を揶揄して言う俗語だ。なんの特徴もない連中、というような意味だ。

 サギトは「かなわないな」と思いながら笑みをこぼした。

「あなたの商人としての才能、見習いたいですよ。忌人なのになんでそんなに繁盛してるんです?」

「おだて上手になるこったなぁ、へりくだって相手を気持ちよくさせてよ」

「ああ、私には無理そうだ。一生繁盛とは無縁でしょうね」

「ははっ、いいじゃないか、もう騎士に転職したんだから。騎士服似合ってるぜ。騎士っていうか、どこぞの国の王子様みたいだけどな」

「えっ」

 グレアムがにやにやしながら肘で小突いてきた。

「ほら、言っただろう?」

 サギトは照れて目を泳がせる。

「は、早くワイバーンを出せ、俺は眠いんだ」

「いやいや、ワイバーンの上で寝るのは危険だろう!落ちるぞ!」

 笑いながらグレアムはワイバーンを召還する。
 眠いと言いつつサギトは律儀に三人に除菌魔法をかけて、グレアムに感心された。

「忘れてた。よく気がつくな」

「当たり前だ。特効薬が作れるようになったとはいえ、王都にこんな恐ろしい病気をばらまくわけにいかないだろう」

「さすがだな。よし、じゃあ帰るか。……失礼!」

 グレアムは行きと同じようにフォスターの体をひょいと抱え、ワイバーンに飛び乗った。サギトもそれに続く。
 
 サギトは舞い上がったワイバーンから小さな集落を見下ろし、ふと思った。

 薬屋としての最後の仕事は、騎士として最初の仕事でもあったのだな、と。
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