魔道暗殺者と救国の騎士

空月 瞭明

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[番外編] 最後の仕事(15)

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 二人の作業は明け方まで続いた。
 調合し、完成したら最も重症な患者に投与し、の繰り返し。そうして一人、また一人、と患者の薔薇の水疱は消えていった。

 ちょうど夜が明ける頃、ついに全員に特効薬が行き渡った。

 最後の一人に薬を飲ませ、サギトは立ち上がる。
 澄んだ早朝の光の中、夜を徹して病と戦い続けた二人は無言で見つめあった。
 どちらも騎士服は着崩れて、汚れて、すっかりくたびれ果てた姿だ。
 
 ひとつの戦いを終えた二人の騎士は、しかと抱き合った。
 互いを抱擁し、互いをたたえる。

「お疲れさん。やっぱりサギトは世界一の薬屋さんだ」

「お前こそ、いい助手だった。……いや、いい騎士団長だった。やはりお前は、人の上に立つ男だな」

 自分一人ではとても成し遂げられなかったろう、とサギトは思う。この頼もしい男がそばにいてくれてよかった。弱い自分を導いてくれてよかった。

 よき友だと改めて思う。

 サギトは何度目かの涙を流しながら、深い呼吸と共に言葉を漏らす。

「子供の頃に夢見た光景だ……」

「そうだったんだな、これがサギトの夢だったんだな……」

 グレアムの目尻にも雫が光る。グレアムはサギトの頭をなでつけ、濡れた頬に口付けをした。サギトはくすぐったそうに微笑んだ。

 二人は隔離小屋から調合小屋に戻り、最後の仕事に取り掛かった。
 住人全員分の特効薬の作り置きだ。万一、この集落の住人が全員感染しても皆に行き渡るように。花爛病は一度感染して治癒すれば、二度と感染することはない。住人の数だけ作ればもう安全なはずだ。
 さらに数時間をかけて三百人分の特効薬を作り終え、二人は調合小屋から外に出た。

 外では小さな体の住人たちが、大きな拍手で迎えてくれた。
 村長が進み出て、その体を深々と折り曲げた。サギトは恐縮する。

「い、いや、もう昨日十分、感謝はいただきましたから。小屋の中にある特効薬、また発症者が出たら役立ててください」

「本当に、なんと礼を言ったら良いのか。御代おだいもちゃんと支払いますので。一括で、とはいかないが、月々少しづつ払わせてください」

「御代……?」

 とサギトは一瞬きょとんとし、ああ薬の代金のことを言っているのか、と気づいた。サギトは首を振る。

「まさか、お金なんていりません」

 村長は驚いた顔をする。

「え?な、なぜですかい」

 なぜ、と言われてサギトは考え、グレアムを見て答えを思いついた。

「私は今は騎士ですから。民の税で食っていて、民を守るのが仕事ですから。……だろ?騎士団長」

 突然話を振られて、グレアムが吹き出した。

「おお、その通りだ新米騎士!完璧な答えだ!」

「そんな、でも……」

「いや、本当に、結構ですから」

 サギトが言い、グレアムもうんうんと首を縦に振った。

「そうです、公僕は存分にこきつかってください!働かない騎士はただの税金泥棒ですから!」

 一瞬の間をおいて尖り耳たちは声を立てて笑った。

「国のお偉いさんなんていけ好かないと思ってたが、あんたは面白いなグレアムさん!あんただけは好きになったよ、さすが英雄だ!」

 一人からそんな風に評されグレアムは照れたように頬を指でかく。

「あ、ど、どうも」

 サギトはくすりと笑う。

「相変わらず人たらしだな」

「ははは……」
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忘れられた王子は剣闘士奴隷に愛を乞う
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