魔道暗殺者と救国の騎士

空月 瞭明

文字の大きさ
上 下
57 / 71

[番外編] 最後の仕事(10)

しおりを挟む
 ワイバーンの大きな翼を再びはためかせて、魔の森奥深くにまで二人は入り込んでいた。
 サギトの指定した大きな沼地のほとりに立つ。

「そっか、魔物だよなグレンデルって。沼の底に住む巨人だったか。人が襲われたって報告を見たことがないから忘れてたな」

「基本、住まいの沼から外に出てこないからな。ちょっと可哀相だが狩らせてもらおう。とても強いぞ。お前の得意分野だろう、化け物と戦うのは」

「よし、任せておけ」

「でも消し炭にするようなのはなしだ。欲しいのは髄液だ。脳漿とも言う。脳みそと背骨を綺麗に残してくれ」

「そうか面倒だな狩りってのは。俺、殺すために殺したことしかないからな。綺麗にってどの程度だ」

「傷つけない、折らない、壊さない、潰さない、ふっ飛ばさない、溶かさない」

「う……。わかった!」

「じゃあ呼び出すぞ。あいつは騒音が嫌いなんだ」

 サギトが掲げた手の先に闇が生じ、そこから一羽のオウムが出てきてサギトの手に止まった。頭が赤でとさかが黄色、腹が青で背が緑。一見すると、普通のオウムだが。

「耳を塞いでおけ」

 警告をしてからオウムを空にほうり、自身も耳を塞ぐサギト。
 沼の上空を旋回するオウムが、くわっと口を開ける。

「オ・キ・ロオオオオオオオオオオオオオ!!」

 凶器のごとき大音量が放たれた。

 グレアムがあわてて指を耳につっこむ。

「こ、こりゃすげえ……」

「オキロ、バケモノオオオオオオオオオオオオ!アタマでッカち・ノウみそコイシ!ひがナいちニチネテルだけ!おマエのそんざいいぎガ、ワカラネエ!オキロオキロオキロ、でかイのオキロオオオオオオオオオ」

 耳を塞いだままグレアムが尋ねる。

「……あれはサギトが言わせてるのか?」

 耳を塞いだままサギトが首をかしげる。

「悪い、お前が何を言ってるのか全然聞こえない」

 オウムの恐ろしいまでの不快音が止んだ後、しばらくして。
 沼の水面に波紋が広がった。波紋はやがて、泡立つような波へと変わる。
 グレアムが口角を上げた。

「来るな」

「うれしそうに言うな」

 サギトは指を弾く。オウムが闇に消えた。
 沼の底から巨大な影が浮上してくる。轟音のような雄たけびと共に、水柱が立ち上がった。

 水柱の中に、巨人グレンデルの上半身が出現した。

 巨人は咆哮しながら、頭上をきょろきょろと見回している。騒音の主を探しているのだろう。
 髪のない大きな頭は少し前にとがっていて、魚に似ている。離れた目玉もまん丸で魚そのものだ。
 青白い皮膚はぬるぬるとして、なまずの肌を思わせる。その裸体は筋肉が盛り上がり、怪力の持ち主であることをうかがわせる。

 騒音の主を探していたグレンデルの視点が、沼のほとりにたたずむ二人の人間の上で固まった。

「グオエエエエエエ!!」

 意味不明な叫び声をあげながら、丸太のように太い右腕を振り上げ、振り下ろした。その腕には飾り袖のようにひれがついている。

 サギトは自らの周囲に透明な防御球を展開しながら飛びすさり、グレアムは巨大な拳を剣で受け止めた。

「いい反射神経だな、魔道剣士」

「サギトもなっ」

 グレアムは剣一本で大重量の拳を支える。グレンデルがうなり声をあげながら、拳を剣にめり込ませてくる。
 グレアムの額から汗が噴出す。体ごと押されそうになるのを、両足で踏ん張り、こらえていた。

「おまけに馬鹿力ときた」

 言いながらサギトはグレンデルの両眼に手をかざし、念を送る。
 青い血を撒き散らしながら、巨人の両眼が潰れた。
 同時に、拳が燃え上がる。グレアムの剣が灼熱の炎をもたらす、火の魔剣と化していた。
 実際のところただの平凡な剣なのだが、グレアムが持てばそれは魔剣となる。

 両眼を潰され、拳を焼かれたグレンデルは、悲鳴のような叫び声をあげながらその身をのけぞらせた。沼は大しけのように波立ち、森の魔獣たちが恐怖し逃げていく鳴き声が四方から聞こえてきた。
しおりを挟む
↓第9回BL小説大賞奨励賞いただけました
忘れられた王子は剣闘士奴隷に愛を乞う
感想 92

あなたにおすすめの小説

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

記憶喪失の僕は、初めて会ったはずの大学の先輩が気になってたまりません!

沈丁花
BL
__ 白い世界と鼻を掠める消毒液の匂い。礼人の記憶はそこから始まる。 小学5年生までの記憶を無くした礼人(あやと)は、あるトラウマを抱えながらも平凡な大学生活を送っていた。 しかし、ある日“氷王子”と呼ばれる学年の先輩、北瀬(きたせ)莉杜(りと)と出会ったことで、少しずつ礼人に不思議なことが起こり始めて…? 過去と今で揺れる2人の、すれ違い恋物語。 ※エブリスタで“明日の君が笑顔なら”という題名で公開している作品を、内容がわかりやすいタイトルに改題してそのまま掲載しています。

パラレルワールドの世界で俺はあなたに嫌われている

いちみやりょう
BL
彼が負傷した隊員を庇って敵から剣で斬られそうになった時、自然と体が動いた。 「ジル!!!」 俺の体から血飛沫が出るのと、隊長が俺の名前を叫んだのは同時だった。 隊長はすぐさま敵をなぎ倒して、俺の体を抱き寄せてくれた。 「ジル!」 「……隊長……お怪我は……?」 「……ない。ジルが庇ってくれたからな」 隊長は俺の傷の具合でもう助からないのだと、悟ってしまったようだ。 目を細めて俺を見て、涙を耐えるように不器用に笑った。 ーーーー 『愛してる、ジル』 前の世界の隊長の声を思い出す。 この世界の貴方は俺にそんなことを言わない。 だけど俺は、前の世界にいた時の貴方の優しさが忘れられない。 俺のことを憎んで、俺に冷たく当たっても俺は貴方を信じたい。

もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《 根暗の根本君 》である地味男である< 根本 源 >には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染< 空野 翔 >がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

騎士団で一目惚れをした話

菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公 憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

顔も知らない番のアルファよ、オメガの前に跪け!

小池 月
BL
 男性オメガの「本田ルカ」は中学三年のときにアルファにうなじを噛まれた。性的暴行はされていなかったが、通り魔的犯行により知らない相手と番になってしまった。  それからルカは、孤独な発情期を耐えて過ごすことになる。  ルカは十九歳でオメガモデルにスカウトされる。順調にモデルとして活動する中、仕事で出会った俳優の男性アルファ「神宮寺蓮」がルカの番相手と判明する。  ルカは蓮が許せないがオメガの本能は蓮を欲する。そんな相反する思いに悩むルカ。そのルカの苦しみを理解してくれていた周囲の裏切りが発覚し、ルカは誰を信じていいのか混乱してーー。 ★バース性に苦しみながら前を向くルカと、ルカに惹かれることで変わっていく蓮のオメガバースBL★ 性描写のある話には※印をつけます。第12回BL大賞に参加作品です。読んでいただけたら嬉しいです。応援よろしくお願いします(^^♪ 11月27日完結しました✨✨ ありがとうございました☆

処理中です...