魔道暗殺者と救国の騎士

空月 瞭明

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[番外編] 最後の仕事(10)

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 ワイバーンの大きな翼を再びはためかせて、魔の森奥深くにまで二人は入り込んでいた。
 サギトの指定した大きな沼地のほとりに立つ。

「そっか、魔物だよなグレンデルって。沼の底に住む巨人だったか。人が襲われたって報告を見たことがないから忘れてたな」

「基本、住まいの沼から外に出てこないからな。ちょっと可哀相だが狩らせてもらおう。とても強いぞ。お前の得意分野だろう、化け物と戦うのは」

「よし、任せておけ」

「でも消し炭にするようなのはなしだ。欲しいのは髄液だ。脳漿とも言う。脳みそと背骨を綺麗に残してくれ」

「そうか面倒だな狩りってのは。俺、殺すために殺したことしかないからな。綺麗にってどの程度だ」

「傷つけない、折らない、壊さない、潰さない、ふっ飛ばさない、溶かさない」

「う……。わかった!」

「じゃあ呼び出すぞ。あいつは騒音が嫌いなんだ」

 サギトが掲げた手の先に闇が生じ、そこから一羽のオウムが出てきてサギトの手に止まった。頭が赤でとさかが黄色、腹が青で背が緑。一見すると、普通のオウムだが。

「耳を塞いでおけ」

 警告をしてからオウムを空にほうり、自身も耳を塞ぐサギト。
 沼の上空を旋回するオウムが、くわっと口を開ける。

「オ・キ・ロオオオオオオオオオオオオオ!!」

 凶器のごとき大音量が放たれた。

 グレアムがあわてて指を耳につっこむ。

「こ、こりゃすげえ……」

「オキロ、バケモノオオオオオオオオオオオオ!アタマでッカち・ノウみそコイシ!ひがナいちニチネテルだけ!おマエのそんざいいぎガ、ワカラネエ!オキロオキロオキロ、でかイのオキロオオオオオオオオオ」

 耳を塞いだままグレアムが尋ねる。

「……あれはサギトが言わせてるのか?」

 耳を塞いだままサギトが首をかしげる。

「悪い、お前が何を言ってるのか全然聞こえない」

 オウムの恐ろしいまでの不快音が止んだ後、しばらくして。
 沼の水面に波紋が広がった。波紋はやがて、泡立つような波へと変わる。
 グレアムが口角を上げた。

「来るな」

「うれしそうに言うな」

 サギトは指を弾く。オウムが闇に消えた。
 沼の底から巨大な影が浮上してくる。轟音のような雄たけびと共に、水柱が立ち上がった。

 水柱の中に、巨人グレンデルの上半身が出現した。

 巨人は咆哮しながら、頭上をきょろきょろと見回している。騒音の主を探しているのだろう。
 髪のない大きな頭は少し前にとがっていて、魚に似ている。離れた目玉もまん丸で魚そのものだ。
 青白い皮膚はぬるぬるとして、なまずの肌を思わせる。その裸体は筋肉が盛り上がり、怪力の持ち主であることをうかがわせる。

 騒音の主を探していたグレンデルの視点が、沼のほとりにたたずむ二人の人間の上で固まった。

「グオエエエエエエ!!」

 意味不明な叫び声をあげながら、丸太のように太い右腕を振り上げ、振り下ろした。その腕には飾り袖のようにひれがついている。

 サギトは自らの周囲に透明な防御球を展開しながら飛びすさり、グレアムは巨大な拳を剣で受け止めた。

「いい反射神経だな、魔道剣士」

「サギトもなっ」

 グレアムは剣一本で大重量の拳を支える。グレンデルがうなり声をあげながら、拳を剣にめり込ませてくる。
 グレアムの額から汗が噴出す。体ごと押されそうになるのを、両足で踏ん張り、こらえていた。

「おまけに馬鹿力ときた」

 言いながらサギトはグレンデルの両眼に手をかざし、念を送る。
 青い血を撒き散らしながら、巨人の両眼が潰れた。
 同時に、拳が燃え上がる。グレアムの剣が灼熱の炎をもたらす、火の魔剣と化していた。
 実際のところただの平凡な剣なのだが、グレアムが持てばそれは魔剣となる。

 両眼を潰され、拳を焼かれたグレンデルは、悲鳴のような叫び声をあげながらその身をのけぞらせた。沼は大しけのように波立ち、森の魔獣たちが恐怖し逃げていく鳴き声が四方から聞こえてきた。
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忘れられた王子は剣闘士奴隷に愛を乞う
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