魔道暗殺者と救国の騎士

空月 瞭明

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[番外編] 最後の仕事(6)

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 グレアムがうろたえる。

「な、なぜですか?」

「発生したのは忌人の集まる域外集落なんだ。ただでさえ国から疎んじられてるところだよ。伝染病が発生したなんて知ったら、国は集落ごと焼き払うだろ!感染してない住人もまるごと閉じ込めて皆殺しにするだろう!」

 域外集落とは、人の居住地域とみなされていない、魔物の多発する荒野に点在する集落のことだ。
 農耕に適さない痩せた土壌、常に魔物の脅威と隣り合わせの危険な環境。
 それでもそこに住まざるを得ない、あぶれ者たちが身を寄せ合って暮らしている。

 たとえばそう、忌人とか。

 グレアムは眉間にしわを寄せる。

「そんなこと俺がさせません!」

「いいや、国はやる!絶対だ、賭けてもいい!」

 いつも愛想笑いを顔に貼り付けているようなフォスターが、むき出しの憎悪を表出させていた。サギトは初めてフォスターの本音を見たような気がした。
 フォスターの気持ちは、サギトには痛いほどよく分かった。

 グレアムは言葉に詰り、拳を固める

「うっ……。分かりました、国には絶対に言いません。でもどうか協力させてください!国家の歯車なんかじゃない、ただ一人の騎士として」

 フォスターはグレアムを疑わしげな目で睨めあげる。

「あんたを信用しろっていうのか?国のお偉いさんであるあんたを」

 サギトがフォスターの肩に手を置いた。

「フォスターさん、あなたの言ってることは正しい。ええ、国はきっと集落を焼き払おうとするでしょう。でも、グレアムは信用できます。……多分、俺よりも信用できる」

 そう言ってサギトは微笑した。
 フォスターはいぶかしむように口を曲げ、サギトに問いかける眼差しを送る。

「まだ公表されてませんが、もうすぐ忌人差別禁止法が制定されます。グレアムが国に掛け合って制定の運びとなりました。こいつは、そういう男です」

「忌人差別禁止法だって?」

 フォスターはグレアムをまじまじと見つめた。グレアムは照れたように頭をかいている。
 サギトは言葉を繋げた。

「早く行きましょうその集落に。寸分も時間が惜しい」

 フォスターはしばらく躊躇ったのち、うなずいた。

「……分かった、そうだな、ここでうだうだしてる場合じゃねえ。サギトさんが信じろと言うなら信じようじゃないか、この騎士様を」

 グレアムは安堵したように息をつくと、宙に手を伸ばした。グレアムの手の先の空間に真っ黒な穴があき、そこからワイバーンが現れた。

「おわっ」

 フォスターが仰け反ってその巨体を見上げる。
 グレアムが「失礼」と言って、フォスターの小さな体を抱えてワイバーンに飛び乗った。フォスターを自分の前に座らせる。
 サギトも風魔法を使ってひらりと飛び乗り、グレアムの後ろにまたがった。

「こ、こんなのに乗ってくのかい!?」

 ワイバーンが頭をもたげ空を見上げる。その大きな翼をはためかせた。巨体は宙に浮かび舞い上がり、あっという間に王都をはるか下に見る。

 上空にてグレアムがフォスターに言う。

「その集落の場所、決して誰にも言わないと誓います。どうか案内して下さい」

「ふん、もう信じるしかねぇや。裏切ったらただじゃおかねえからな!」

「分かってます!」

「魔の森ゲルニアとタンラン山の狭間の北端あたりだ!」

「ありがとうございます!行ってくれワイバーン!」

 上空で風に乗り、ワイバーンは目的地めがけて空を駆けていった。

※※※
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忘れられた王子は剣闘士奴隷に愛を乞う
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