53 / 71
[番外編] 最後の仕事(6)
しおりを挟む
グレアムがうろたえる。
「な、なぜですか?」
「発生したのは忌人の集まる域外集落なんだ。ただでさえ国から疎んじられてるところだよ。伝染病が発生したなんて知ったら、国は集落ごと焼き払うだろ!感染してない住人もまるごと閉じ込めて皆殺しにするだろう!」
域外集落とは、人の居住地域とみなされていない、魔物の多発する荒野に点在する集落のことだ。
農耕に適さない痩せた土壌、常に魔物の脅威と隣り合わせの危険な環境。
それでもそこに住まざるを得ない、あぶれ者たちが身を寄せ合って暮らしている。
たとえばそう、忌人とか。
グレアムは眉間にしわを寄せる。
「そんなこと俺がさせません!」
「いいや、国はやる!絶対だ、賭けてもいい!」
いつも愛想笑いを顔に貼り付けているようなフォスターが、むき出しの憎悪を表出させていた。サギトは初めてフォスターの本音を見たような気がした。
フォスターの気持ちは、サギトには痛いほどよく分かった。
グレアムは言葉に詰り、拳を固める
「うっ……。分かりました、国には絶対に言いません。でもどうか協力させてください!国家の歯車なんかじゃない、ただ一人の騎士として」
フォスターはグレアムを疑わしげな目で睨めあげる。
「あんたを信用しろっていうのか?国のお偉いさんであるあんたを」
サギトがフォスターの肩に手を置いた。
「フォスターさん、あなたの言ってることは正しい。ええ、国はきっと集落を焼き払おうとするでしょう。でも、グレアムは信用できます。……多分、俺よりも信用できる」
そう言ってサギトは微笑した。
フォスターは訝しむように口を曲げ、サギトに問いかける眼差しを送る。
「まだ公表されてませんが、もうすぐ忌人差別禁止法が制定されます。グレアムが国に掛け合って制定の運びとなりました。こいつは、そういう男です」
「忌人差別禁止法だって?」
フォスターはグレアムをまじまじと見つめた。グレアムは照れたように頭をかいている。
サギトは言葉を繋げた。
「早く行きましょうその集落に。寸分も時間が惜しい」
フォスターはしばらく躊躇ったのち、うなずいた。
「……分かった、そうだな、ここでうだうだしてる場合じゃねえ。サギトさんが信じろと言うなら信じようじゃないか、この騎士様を」
グレアムは安堵したように息をつくと、宙に手を伸ばした。グレアムの手の先の空間に真っ黒な穴があき、そこからワイバーンが現れた。
「おわっ」
フォスターが仰け反ってその巨体を見上げる。
グレアムが「失礼」と言って、フォスターの小さな体を抱えてワイバーンに飛び乗った。フォスターを自分の前に座らせる。
サギトも風魔法を使ってひらりと飛び乗り、グレアムの後ろにまたがった。
「こ、こんなのに乗ってくのかい!?」
ワイバーンが頭をもたげ空を見上げる。その大きな翼をはためかせた。巨体は宙に浮かび舞い上がり、あっという間に王都をはるか下に見る。
上空にてグレアムがフォスターに言う。
「その集落の場所、決して誰にも言わないと誓います。どうか案内して下さい」
「ふん、もう信じるしかねぇや。裏切ったらただじゃおかねえからな!」
「分かってます!」
「魔の森ゲルニアとタンラン山の狭間の北端あたりだ!」
「ありがとうございます!行ってくれワイバーン!」
上空で風に乗り、ワイバーンは目的地めがけて空を駆けていった。
※※※
「な、なぜですか?」
「発生したのは忌人の集まる域外集落なんだ。ただでさえ国から疎んじられてるところだよ。伝染病が発生したなんて知ったら、国は集落ごと焼き払うだろ!感染してない住人もまるごと閉じ込めて皆殺しにするだろう!」
域外集落とは、人の居住地域とみなされていない、魔物の多発する荒野に点在する集落のことだ。
農耕に適さない痩せた土壌、常に魔物の脅威と隣り合わせの危険な環境。
それでもそこに住まざるを得ない、あぶれ者たちが身を寄せ合って暮らしている。
たとえばそう、忌人とか。
グレアムは眉間にしわを寄せる。
「そんなこと俺がさせません!」
「いいや、国はやる!絶対だ、賭けてもいい!」
いつも愛想笑いを顔に貼り付けているようなフォスターが、むき出しの憎悪を表出させていた。サギトは初めてフォスターの本音を見たような気がした。
フォスターの気持ちは、サギトには痛いほどよく分かった。
グレアムは言葉に詰り、拳を固める
「うっ……。分かりました、国には絶対に言いません。でもどうか協力させてください!国家の歯車なんかじゃない、ただ一人の騎士として」
フォスターはグレアムを疑わしげな目で睨めあげる。
「あんたを信用しろっていうのか?国のお偉いさんであるあんたを」
サギトがフォスターの肩に手を置いた。
「フォスターさん、あなたの言ってることは正しい。ええ、国はきっと集落を焼き払おうとするでしょう。でも、グレアムは信用できます。……多分、俺よりも信用できる」
そう言ってサギトは微笑した。
フォスターは訝しむように口を曲げ、サギトに問いかける眼差しを送る。
「まだ公表されてませんが、もうすぐ忌人差別禁止法が制定されます。グレアムが国に掛け合って制定の運びとなりました。こいつは、そういう男です」
「忌人差別禁止法だって?」
フォスターはグレアムをまじまじと見つめた。グレアムは照れたように頭をかいている。
サギトは言葉を繋げた。
「早く行きましょうその集落に。寸分も時間が惜しい」
フォスターはしばらく躊躇ったのち、うなずいた。
「……分かった、そうだな、ここでうだうだしてる場合じゃねえ。サギトさんが信じろと言うなら信じようじゃないか、この騎士様を」
グレアムは安堵したように息をつくと、宙に手を伸ばした。グレアムの手の先の空間に真っ黒な穴があき、そこからワイバーンが現れた。
「おわっ」
フォスターが仰け反ってその巨体を見上げる。
グレアムが「失礼」と言って、フォスターの小さな体を抱えてワイバーンに飛び乗った。フォスターを自分の前に座らせる。
サギトも風魔法を使ってひらりと飛び乗り、グレアムの後ろにまたがった。
「こ、こんなのに乗ってくのかい!?」
ワイバーンが頭をもたげ空を見上げる。その大きな翼をはためかせた。巨体は宙に浮かび舞い上がり、あっという間に王都をはるか下に見る。
上空にてグレアムがフォスターに言う。
「その集落の場所、決して誰にも言わないと誓います。どうか案内して下さい」
「ふん、もう信じるしかねぇや。裏切ったらただじゃおかねえからな!」
「分かってます!」
「魔の森ゲルニアとタンラン山の狭間の北端あたりだ!」
「ありがとうございます!行ってくれワイバーン!」
上空で風に乗り、ワイバーンは目的地めがけて空を駆けていった。
※※※
5
↓第9回BL小説大賞奨励賞いただけました
忘れられた王子は剣闘士奴隷に愛を乞う
忘れられた王子は剣闘士奴隷に愛を乞う
お気に入りに追加
1,226
あなたにおすすめの小説

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。


もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない
バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《 根暗の根本君 》である地味男である< 根本 源 >には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染< 空野 翔 >がいる。
ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない??
イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

パラレルワールドの世界で俺はあなたに嫌われている
いちみやりょう
BL
彼が負傷した隊員を庇って敵から剣で斬られそうになった時、自然と体が動いた。
「ジル!!!」
俺の体から血飛沫が出るのと、隊長が俺の名前を叫んだのは同時だった。
隊長はすぐさま敵をなぎ倒して、俺の体を抱き寄せてくれた。
「ジル!」
「……隊長……お怪我は……?」
「……ない。ジルが庇ってくれたからな」
隊長は俺の傷の具合でもう助からないのだと、悟ってしまったようだ。
目を細めて俺を見て、涙を耐えるように不器用に笑った。
ーーーー
『愛してる、ジル』
前の世界の隊長の声を思い出す。
この世界の貴方は俺にそんなことを言わない。
だけど俺は、前の世界にいた時の貴方の優しさが忘れられない。
俺のことを憎んで、俺に冷たく当たっても俺は貴方を信じたい。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

騎士団で一目惚れをした話
菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公
憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

顔も知らない番のアルファよ、オメガの前に跪け!
小池 月
BL
男性オメガの「本田ルカ」は中学三年のときにアルファにうなじを噛まれた。性的暴行はされていなかったが、通り魔的犯行により知らない相手と番になってしまった。
それからルカは、孤独な発情期を耐えて過ごすことになる。
ルカは十九歳でオメガモデルにスカウトされる。順調にモデルとして活動する中、仕事で出会った俳優の男性アルファ「神宮寺蓮」がルカの番相手と判明する。
ルカは蓮が許せないがオメガの本能は蓮を欲する。そんな相反する思いに悩むルカ。そのルカの苦しみを理解してくれていた周囲の裏切りが発覚し、ルカは誰を信じていいのか混乱してーー。
★バース性に苦しみながら前を向くルカと、ルカに惹かれることで変わっていく蓮のオメガバースBL★
性描写のある話には※印をつけます。第12回BL大賞に参加作品です。読んでいただけたら嬉しいです。応援よろしくお願いします(^^♪
11月27日完結しました✨✨
ありがとうございました☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる