19 / 27
第10話 ペモティス・ファミリー ②
しおりを挟む
オライが悲鳴をあげた。
「やめてってば!」
(殺される!?)
有珠斗は本能的に逃げ出そうとして、無意識に全身に力をこめた。すると体中に紫の火花が散り、激痛が走った。
(っ、、、痛~~~~~~~~!!なんだこの最悪の魔法は!だめだ逃げられない、言葉で弁明せねば!)
「僕は神子じゃない!あの化け物とも戦ったじゃないですか!自分が放った化け物と戦うのっておかしいでしょう!」
サマエルは鼻で笑う。
「あの戯れが『戦った』だと?薔薇の樹術は敵に棘を打ち込んでから、棘を毒化させるなり爆発させるなりして内部から破壊するのが常套だ。敵に棘を打ち込みながら何もしないやつを初めて見たぞ」
「棘!?そんな便利なことができるんです!?教えてくれたらやったのに!『樹術』っていうんですかあの植物動かすやつは。僕いまのところあれしかできないんですが」
オライが必死に叫ぶ。
「ウストはなんも知らないんだよ!ウストは神子に家族を皆殺しにされたファウストの直系子孫だ!ウストの『心臓』は神子に奪われた魔女の心臓じゃなくて、正真正銘、生まれつきの心臓だよ!ウストは生まれつき魔女の心臓を持ってるんだ!」
再びしん、としずまった。
またまた長い沈黙が下りる。
バフォメットが唸り声めいた音を出す。
「オライ……。三百年前に死んだ最後にして最大の魔女、我が一族の祖ワルプルギスには二人の息子がいた。長男ファウストと、次男メフィストフェレス。魔女の心臓は長子にのみ受け継がれるから、ワルプルギスの心臓を受け継いだのはファウストだった。だがその血脈は失われた。百年ほど前、ワルプルギスの心臓ごと、ファウストの一族はこの世から忽然と消えた。その行方は誰も知らない」
「ファウストの一族はずっと異世界に隠れてたんだって!でも神子に見つかったからこっちの世界に戻ってきたんだって!」
「……………………………………………」
「分かるよ、信じられないよな、俺も異世界らへんは半分くらいしか信じてないよ!でもウストが神子じゃないってのは信じる!こんな感じのいいやつが、神子のわけないよ!神子は全員、禍々しい!ウストはちっとも禍々しくない!」
有珠斗の胸が熱くなる。出会ったばかりの有珠斗をこれほど信じてくれて、オライはなんて優しい少年だろう。
サマエルは根強い不信のまなざしで問う。
「ではなぜ、断罪の獣はこいつを殺さなかった?」
「神子の体液だよ!神子の体液の匂いをかいで、断罪の獣はウストを神子と勘違いしたんだ!ウストは神子の体液を全身に浴びてびしょぬれになって、その後風呂に入ってないんだ!」
「なんかすみません……」
言われてみれば不潔だな、と有珠斗は恐縮する。
「ではなぜこいつは、魔女の心臓を三つも持っている!こいつからは心臓三個分の波動を感じるぞ!」
「一個はウスト自身の心臓、一個はウストのお父さんの心臓、一個はウストのお父さんが殺した聖統神子の心臓だ!」
言ってオライは、有珠斗のズボンのポケットに手を突っ込んで、二つの巨大ルビーを取り出した。
オライは赤く輝く二つの貴石を、サマエルに掲げて見せる。
サマエルはぐっ、と言葉に詰まった。
座長以下、皆が息を飲む。
バフォメットが狼狽しながら言う。
「これは一体、どういう」
オライがにっと笑う。
「どう?やっと真面目に話を聞く気になった?ほら、サマエル兄ちゃん、拘束を解いてあげて。みんなでちゃんと、まずはウストの話を聞こう!」
サマエルは不機嫌そうな顔で逡巡していたが、根負けした様子で、有珠斗に突き付けていた杖を持ち上げた。
杖がようやくひっこみ、ずっと面前に銃口を向けられていた心地だった有珠斗はほっと安堵する。
「わかった。話だけは聞いてやる。だがまだ拘束は解かな……」
サマエルが言いかけた時。
二つに切断されて干物のように伸びていた化け物、「断罪の獣」が急に飛び跳ねた。
(生きてた!?)
どろどろモンスター改め、しわしわモンスターと化した半身の断罪の獣は、しかし驚異的な回復力と跳躍で、近くにいたオライに飛びついた。
醜い口をくわとあけ、オライの首に牙を立てる。
オライの首筋から血が噴き出す。
「うあああああああ!」
オライの悲痛な悲鳴が響いたその時、有珠斗は魔法を行使するべく脳で信号を送ろうとした。
瞬間、サマエルの拘束の術が発動し、紫の火花が有珠斗の身を締め上げた。
全身の骨がハンマーで砕かれるような激痛が、有珠斗の魔法行使を押しとどめようとする。
(くうっ!!い、痛くない痛くない痛くない、すごい痛いけど痛くない!)
有珠斗は無理矢理、魔法発動の信号を送る。
(はじけ、飛べええええええええええ!)
化け物の内部に刺さったままの、大量の「薔薇の棘」が、仕掛けられた超小型爆弾のように、爆発する。
化け物は粉々に砕け散った。
噛みつかれていたオライを傷つけることなく、棘の仕込まれた体だけを粉砕し芥子粒にする。
(優秀な魔法だ……)
だが拘束の術を強引に突破した反動で、有珠斗の意識が遠のいていく。
遠のく意識の中で、オライの泣き声が聞こえた。
「ウスト!?ねえウスト!」
サマエルの焦った声も。
「馬鹿な、拘束を突破して魔法を発動しただと!?」
全身の骨を砕かれる激痛の中、有珠斗は「よかった」と思う。
オライは無事だ、他の皆も。
化け物をやっつけた。今度こそ助けることができた。
両親と弟三人は殺されてしまったけど、今度こそ。
——よかった。
◇ ◇ ◇
「やめてってば!」
(殺される!?)
有珠斗は本能的に逃げ出そうとして、無意識に全身に力をこめた。すると体中に紫の火花が散り、激痛が走った。
(っ、、、痛~~~~~~~~!!なんだこの最悪の魔法は!だめだ逃げられない、言葉で弁明せねば!)
「僕は神子じゃない!あの化け物とも戦ったじゃないですか!自分が放った化け物と戦うのっておかしいでしょう!」
サマエルは鼻で笑う。
「あの戯れが『戦った』だと?薔薇の樹術は敵に棘を打ち込んでから、棘を毒化させるなり爆発させるなりして内部から破壊するのが常套だ。敵に棘を打ち込みながら何もしないやつを初めて見たぞ」
「棘!?そんな便利なことができるんです!?教えてくれたらやったのに!『樹術』っていうんですかあの植物動かすやつは。僕いまのところあれしかできないんですが」
オライが必死に叫ぶ。
「ウストはなんも知らないんだよ!ウストは神子に家族を皆殺しにされたファウストの直系子孫だ!ウストの『心臓』は神子に奪われた魔女の心臓じゃなくて、正真正銘、生まれつきの心臓だよ!ウストは生まれつき魔女の心臓を持ってるんだ!」
再びしん、としずまった。
またまた長い沈黙が下りる。
バフォメットが唸り声めいた音を出す。
「オライ……。三百年前に死んだ最後にして最大の魔女、我が一族の祖ワルプルギスには二人の息子がいた。長男ファウストと、次男メフィストフェレス。魔女の心臓は長子にのみ受け継がれるから、ワルプルギスの心臓を受け継いだのはファウストだった。だがその血脈は失われた。百年ほど前、ワルプルギスの心臓ごと、ファウストの一族はこの世から忽然と消えた。その行方は誰も知らない」
「ファウストの一族はずっと異世界に隠れてたんだって!でも神子に見つかったからこっちの世界に戻ってきたんだって!」
「……………………………………………」
「分かるよ、信じられないよな、俺も異世界らへんは半分くらいしか信じてないよ!でもウストが神子じゃないってのは信じる!こんな感じのいいやつが、神子のわけないよ!神子は全員、禍々しい!ウストはちっとも禍々しくない!」
有珠斗の胸が熱くなる。出会ったばかりの有珠斗をこれほど信じてくれて、オライはなんて優しい少年だろう。
サマエルは根強い不信のまなざしで問う。
「ではなぜ、断罪の獣はこいつを殺さなかった?」
「神子の体液だよ!神子の体液の匂いをかいで、断罪の獣はウストを神子と勘違いしたんだ!ウストは神子の体液を全身に浴びてびしょぬれになって、その後風呂に入ってないんだ!」
「なんかすみません……」
言われてみれば不潔だな、と有珠斗は恐縮する。
「ではなぜこいつは、魔女の心臓を三つも持っている!こいつからは心臓三個分の波動を感じるぞ!」
「一個はウスト自身の心臓、一個はウストのお父さんの心臓、一個はウストのお父さんが殺した聖統神子の心臓だ!」
言ってオライは、有珠斗のズボンのポケットに手を突っ込んで、二つの巨大ルビーを取り出した。
オライは赤く輝く二つの貴石を、サマエルに掲げて見せる。
サマエルはぐっ、と言葉に詰まった。
座長以下、皆が息を飲む。
バフォメットが狼狽しながら言う。
「これは一体、どういう」
オライがにっと笑う。
「どう?やっと真面目に話を聞く気になった?ほら、サマエル兄ちゃん、拘束を解いてあげて。みんなでちゃんと、まずはウストの話を聞こう!」
サマエルは不機嫌そうな顔で逡巡していたが、根負けした様子で、有珠斗に突き付けていた杖を持ち上げた。
杖がようやくひっこみ、ずっと面前に銃口を向けられていた心地だった有珠斗はほっと安堵する。
「わかった。話だけは聞いてやる。だがまだ拘束は解かな……」
サマエルが言いかけた時。
二つに切断されて干物のように伸びていた化け物、「断罪の獣」が急に飛び跳ねた。
(生きてた!?)
どろどろモンスター改め、しわしわモンスターと化した半身の断罪の獣は、しかし驚異的な回復力と跳躍で、近くにいたオライに飛びついた。
醜い口をくわとあけ、オライの首に牙を立てる。
オライの首筋から血が噴き出す。
「うあああああああ!」
オライの悲痛な悲鳴が響いたその時、有珠斗は魔法を行使するべく脳で信号を送ろうとした。
瞬間、サマエルの拘束の術が発動し、紫の火花が有珠斗の身を締め上げた。
全身の骨がハンマーで砕かれるような激痛が、有珠斗の魔法行使を押しとどめようとする。
(くうっ!!い、痛くない痛くない痛くない、すごい痛いけど痛くない!)
有珠斗は無理矢理、魔法発動の信号を送る。
(はじけ、飛べええええええええええ!)
化け物の内部に刺さったままの、大量の「薔薇の棘」が、仕掛けられた超小型爆弾のように、爆発する。
化け物は粉々に砕け散った。
噛みつかれていたオライを傷つけることなく、棘の仕込まれた体だけを粉砕し芥子粒にする。
(優秀な魔法だ……)
だが拘束の術を強引に突破した反動で、有珠斗の意識が遠のいていく。
遠のく意識の中で、オライの泣き声が聞こえた。
「ウスト!?ねえウスト!」
サマエルの焦った声も。
「馬鹿な、拘束を突破して魔法を発動しただと!?」
全身の骨を砕かれる激痛の中、有珠斗は「よかった」と思う。
オライは無事だ、他の皆も。
化け物をやっつけた。今度こそ助けることができた。
両親と弟三人は殺されてしまったけど、今度こそ。
——よかった。
◇ ◇ ◇
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
総長の彼氏が俺にだけ優しい
桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、
関東で最強の暴走族の総長。
みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。
そんな日常を描いた話である。
【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】
彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。
「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」
【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい
おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。
生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。
地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。
転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。
※含まれる要素
異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛
※小説家になろうに重複投稿しています
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
王道学園なのに、王道じゃない!!
主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。
レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!
黒木 鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる