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第10話 ペモティス・ファミリー ①
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「やった……」
有珠斗はわけがわからないながらも、とりあえず目の前の脅威が取り除かれたことに安堵する。
パチパチと拍手の音が聞こえた。座長バフォメットが客席の奥から拍手しながらやってくる。
「さすがであるぞ、我が自慢の息子たち。よく強敵を倒した」
ラミアが空中ブランコから、オライが足場の台から、飛び降りた。
どちらも高さ十数メートルはあるはずだが、二人とも軽やかに音もなく着地して、有珠斗は驚かされる。
干からびた化け物の周囲に、ペモティス・ファミリーの面々が集う。
ラミアが片方の肩のあたりで一つに結んだピンク色の長い髪をかきあげた。
「倒すべき相手はまだもう一体いるよ。僕だけ初めましてかな、ウスト君」
有珠斗より若干背の高いラミアは、そう言って妖艶にほほ笑んだ。間近で見ると一層、美貌がまぶしい。性別を超越するレベルの美男は存在するんだなぁ、と思いつつ、有珠斗は頭を下げる。
「はじめましてラミアさん。さきほどの演技素晴らしかったです。もちろん他の皆さんも」
条件反射的にあいさつをしてしまってから、はたと気づく。
「ってもう一体!?もう一体いるんですかあんな化け物が!」
有珠斗は焦ってテント内を見回す。しかしテント内は静かで、もう何物も潜んでいないように思われた。
ヴィネが黒い三日月刀の刃のないほう、反りの部分で自分の肩を叩きながら、呆れたように笑う。
「そりゃ、あんたのことに決まってんだろう」
オライがむくれる。
「だからウストは神子じゃないって!」
「神子……」
そういえば魔法に驚きすぎて気が回らなかったが、さっきからこの兄弟の会話内で有珠斗は神子扱いされていなかったか。
有珠斗は今更ながら慌てて否定する。
「違います、神子じゃありませんよ僕は!魔法を使ったからって言うなら、あなたたちだって魔法を使っ……」
バフォメットが有珠斗の言葉をさえぎって、無駄に美声なバリトンボイスを朗々と響かせた。
「我々は旅芸人一座、ペモティス・ファミリー!インチキとイカサマで日銭を稼ぐ身!タネも仕掛けもございまーす!」
「ずるい!絶対ずるくないですかそれ!?」
「今の問題は我々ではございません!ウストさん、あなたが何者か、ということです!」
「僕はただの高校三年生、メフィストフェレスの子孫を頼れと言われてこの異世界にやってきただけの日本人です!」
しん、とテント中がしずまった。
違和感を覚えるほど長い沈黙が下りる。
バフォメットが、黒眼鏡のブリッジを指であげる。
「いま、メフィストフェレスの子孫、と申しましたか」
「は……」
はい、と答えようとした瞬間、舞台の上で黒い影が跳躍した。
と思ったら、有珠斗は床にばんざいの姿勢でひっくり返った。
透明人間に柔道技をかけられ一本取られたのかのごとく、有珠斗はあおむけに倒れている。
突然のことに有珠斗は呆然と天井を見つめる。
(なぜ僕は床に倒れ……というか体が動かない!?)
あおむけ状態で硬直する有珠斗の傍ら、一瞬前まで舞台の上にいたはずのサマエルが立ち、有珠斗の鼻先に杖の先端をつきつけていた。
今しがた見た黒い影は、サマエルの姿だったようだ。
サマエルは殺気をはらむ目で有珠斗を見下ろす。
「拘束の術をかけた。無理矢理動こうとすれば激痛が走るぞ。魔法でも発動しようとすれば、全身の骨が折れるような痛みに見舞われる」
「ちょ、えぐすぎでしょう!なんですかその術!?」
思わず突っ込みをいれてしまったが、口だけは拘束されていないようで、普通に話せた。
「貴様が神子であることは最初から分かっていた。問題は貴様のような『心臓持ち』、聖統神子が俺たちに近づいてきた理由だ。覆面審問官が公演内容の不道徳具合を確かめに鑑賞に来ることはよくある。だが聖統神子が覆面審問官なんぞやるわけがない」
「やめてよサマエル兄ちゃん!時間なくてまだちゃんと話してないことがあるんだよ!ウストは神子じゃないってば!」
オライが叫ぶ。だがサマエルは一層、機嫌を悪くしたようだった。杖の先の紫水晶をぐっと有珠斗に近づけた。今にも稲妻を発生させそうで、有珠斗はぞっとする。
「貴様がどんな言葉を使ってオライを篭絡したのかは興味ない。貴様は俺たちの正体に気づいた勘のいい聖統神子だな。確証を得るために断罪の獣を放って俺たちに魔法を使わせたか。わざわざそんなことをするということは、ターラ教本部にはまだペモティス・ファミリーが怪しいとは知らせていないのだろう。ターラ教は疑わしきは皆殺しを信条とするから、怪しいと聞けばとうに俺たちを殺すための魔女狩り兵を派遣しているはずだ。貴様がまだターラ教本部に伝えていない理由にも興味はない。重要なのは……」
口をつぐんで、有珠斗を睨む。サマエルが飲み込んだ言葉は、ラミアが引き継いだ。
「つまり、ウスト君を殺せば口封じ完了だね」
ヴィネが手にした刀をびゅんびゅんと振るう。
「んじゃ、さっさと殺すか!誰がやる?」
有珠斗はわけがわからないながらも、とりあえず目の前の脅威が取り除かれたことに安堵する。
パチパチと拍手の音が聞こえた。座長バフォメットが客席の奥から拍手しながらやってくる。
「さすがであるぞ、我が自慢の息子たち。よく強敵を倒した」
ラミアが空中ブランコから、オライが足場の台から、飛び降りた。
どちらも高さ十数メートルはあるはずだが、二人とも軽やかに音もなく着地して、有珠斗は驚かされる。
干からびた化け物の周囲に、ペモティス・ファミリーの面々が集う。
ラミアが片方の肩のあたりで一つに結んだピンク色の長い髪をかきあげた。
「倒すべき相手はまだもう一体いるよ。僕だけ初めましてかな、ウスト君」
有珠斗より若干背の高いラミアは、そう言って妖艶にほほ笑んだ。間近で見ると一層、美貌がまぶしい。性別を超越するレベルの美男は存在するんだなぁ、と思いつつ、有珠斗は頭を下げる。
「はじめましてラミアさん。さきほどの演技素晴らしかったです。もちろん他の皆さんも」
条件反射的にあいさつをしてしまってから、はたと気づく。
「ってもう一体!?もう一体いるんですかあんな化け物が!」
有珠斗は焦ってテント内を見回す。しかしテント内は静かで、もう何物も潜んでいないように思われた。
ヴィネが黒い三日月刀の刃のないほう、反りの部分で自分の肩を叩きながら、呆れたように笑う。
「そりゃ、あんたのことに決まってんだろう」
オライがむくれる。
「だからウストは神子じゃないって!」
「神子……」
そういえば魔法に驚きすぎて気が回らなかったが、さっきからこの兄弟の会話内で有珠斗は神子扱いされていなかったか。
有珠斗は今更ながら慌てて否定する。
「違います、神子じゃありませんよ僕は!魔法を使ったからって言うなら、あなたたちだって魔法を使っ……」
バフォメットが有珠斗の言葉をさえぎって、無駄に美声なバリトンボイスを朗々と響かせた。
「我々は旅芸人一座、ペモティス・ファミリー!インチキとイカサマで日銭を稼ぐ身!タネも仕掛けもございまーす!」
「ずるい!絶対ずるくないですかそれ!?」
「今の問題は我々ではございません!ウストさん、あなたが何者か、ということです!」
「僕はただの高校三年生、メフィストフェレスの子孫を頼れと言われてこの異世界にやってきただけの日本人です!」
しん、とテント中がしずまった。
違和感を覚えるほど長い沈黙が下りる。
バフォメットが、黒眼鏡のブリッジを指であげる。
「いま、メフィストフェレスの子孫、と申しましたか」
「は……」
はい、と答えようとした瞬間、舞台の上で黒い影が跳躍した。
と思ったら、有珠斗は床にばんざいの姿勢でひっくり返った。
透明人間に柔道技をかけられ一本取られたのかのごとく、有珠斗はあおむけに倒れている。
突然のことに有珠斗は呆然と天井を見つめる。
(なぜ僕は床に倒れ……というか体が動かない!?)
あおむけ状態で硬直する有珠斗の傍ら、一瞬前まで舞台の上にいたはずのサマエルが立ち、有珠斗の鼻先に杖の先端をつきつけていた。
今しがた見た黒い影は、サマエルの姿だったようだ。
サマエルは殺気をはらむ目で有珠斗を見下ろす。
「拘束の術をかけた。無理矢理動こうとすれば激痛が走るぞ。魔法でも発動しようとすれば、全身の骨が折れるような痛みに見舞われる」
「ちょ、えぐすぎでしょう!なんですかその術!?」
思わず突っ込みをいれてしまったが、口だけは拘束されていないようで、普通に話せた。
「貴様が神子であることは最初から分かっていた。問題は貴様のような『心臓持ち』、聖統神子が俺たちに近づいてきた理由だ。覆面審問官が公演内容の不道徳具合を確かめに鑑賞に来ることはよくある。だが聖統神子が覆面審問官なんぞやるわけがない」
「やめてよサマエル兄ちゃん!時間なくてまだちゃんと話してないことがあるんだよ!ウストは神子じゃないってば!」
オライが叫ぶ。だがサマエルは一層、機嫌を悪くしたようだった。杖の先の紫水晶をぐっと有珠斗に近づけた。今にも稲妻を発生させそうで、有珠斗はぞっとする。
「貴様がどんな言葉を使ってオライを篭絡したのかは興味ない。貴様は俺たちの正体に気づいた勘のいい聖統神子だな。確証を得るために断罪の獣を放って俺たちに魔法を使わせたか。わざわざそんなことをするということは、ターラ教本部にはまだペモティス・ファミリーが怪しいとは知らせていないのだろう。ターラ教は疑わしきは皆殺しを信条とするから、怪しいと聞けばとうに俺たちを殺すための魔女狩り兵を派遣しているはずだ。貴様がまだターラ教本部に伝えていない理由にも興味はない。重要なのは……」
口をつぐんで、有珠斗を睨む。サマエルが飲み込んだ言葉は、ラミアが引き継いだ。
「つまり、ウスト君を殺せば口封じ完了だね」
ヴィネが手にした刀をびゅんびゅんと振るう。
「んじゃ、さっさと殺すか!誰がやる?」
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