ワルプルギスの息子たち ー異世界で魔女になるためには夫が必要らしいー

空月 瞭明

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第5話 ラーヒルズの街 ②

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 ひしめく家々が途切れ、突然、視界がひらけた。城壁がすぐそこにあるので、街の北側の端だろう。
 ここがどうやら北の広場のようだ。

「ありますね、サーカステント!」

 白と赤のストライプ柄の巨大テントが設置されていた。屋根のてっぺんにも周辺にも、色とりどりの旗がはためいている。

 テントの正面入り口前には、開演を待っているらしい群衆がいた。
 その近くの柵の中には、ツノの生えた白馬がいて、ピエロがまたがっていた。

 有珠斗の知っているピエロと同じく白塗りの顔に赤い丸鼻。赤と黄色の派手な服を着て、頭は二股に分かれた道化師らしい頭巾に覆われている。頭巾の半分は赤で半分は黄色だ。

「ピエロが乗っているあの白馬、もしやユニコーンですか!?」

 有珠斗は興奮気味にたずねる。

「うん、開演までの暇つぶしのサービスだね。あのピエロ、中身誰だろ。いつもは俺がやってるんだけど」

「オライ、ピエロだったんですか!?しかしさすがファンタジー世界、やっぱりいるんですねユニコ……」

 言いかけた時、ピエロがよろけて白馬のツノをつかんだ。
 すぽっとツノが抜けて子供たちがどっと笑った。

「は!?」

 ピエロはツノを持って大袈裟に驚き、キョロキョロ周囲を気にするそぶりをしながら、白馬の頭につけなおした。
 汗を拭う仕草をして、口笛をふいてごまかす様子。
 また子供たちがどどっと笑う。

「偽物のユニコーンじゃないですかあっ!」

 有珠斗は思わず大声で叫んでしまった。
 子供たちが一斉にこちらを振り向く。
 有珠斗の顔を見て、子供たちはお腹を抱えて笑い出した。

「なに言ってんの、偽物に決まってるじゃん!」

「にいちゃん、もう大きいのにユニコーンが本当にいるって思ってたの?」

「大きいくせにばかなやつー!」

 有珠斗は顔を真っ赤にする。

「馬鹿とはなんですか、初対面の人にむかって!ファンタジー世界のくせにユニコーンもいないとかそっちのほうが変でしょう!」

 ピエロが白馬から降りてこちらに手を振った。

「よお、戻って来たな、本物のピエロ!間に合ったじゃないか、ちゃんと全部取り戻してきたか?つーか隣の変な優男は誰だ?」

 オライが手を振り返した。

「その声、ヴィネ兄ちゃんか!」

 子供たちが途端にざわめいた。

「ヴィネ!?それって怪力男のヴィネ!?」

 有珠斗はオライに尋ねた。

「お兄さんなんですか?」

 オライはうなずいた。

「うん、ペモティス・ファミリーの三男、怪力男のヴィネ、十八歳だよ!ちなみに俺は四男、道化師のオライね」

「十八歳、僕と同い年ですね」

 ヴィネと呼ばれたピエロは、ピエロの面と、道化師頭巾を脱いだ。
 中から、褐色肌のイケメンが現れる。
 ヴィネは頭をかきむしって、頭巾に隠されていた長い三つ編みをかきあげた。黒髪を一本に束ね三つ編みにしている。
 男らしい眉の下、くっきりとした二重瞼と大きな黒目。高い鼻梁と蠱惑的な唇。野生的なのに甘さもある、いかにも女性にモテそうな雰囲気だ。

 しかし兄弟にしては、肌の色も髪の色も違い過ぎる。だがそんな踏み込んだことを聞くのは、間違いなく礼儀知らずなので有珠斗は黙っていた。

 ヴィネは柵を飛び越えて出てくると、かがんで子供たちの体に両腕を回す。

「ばれちまったら仕方ない!そうだ俺が怪力男のヴィネ様だぜー」

 言いながらヴィネは数名の子供たちを軽々と持ち上げた。子供たちはたくましい腕にしがみついて、キャッキャとはしゃぐ。
 そんな姿を見て、開演待ちの群衆の中から、若い女性たちの黄色い悲鳴が上がった。

「ヴィネ優しい!あいかわらず素敵ぃ!」

「お願い結婚してー!」

 女性たちの声援にヴィネはウィンクで返した。

「お姉さんたちも素敵だぜ?」

 女性たちは卒倒する勢いで歓声を上げた。

「きゃああああああっ」

 有珠斗は自分との違いに軽くショックを受ける。

(同い年でなんたる差!僕には絶対に無理な所業だ!)

 オライが頬をふくらませてヴィネに声をかける。

「もう、ファンサービスはいいから!ちゃんと任務を果たして帰還した弟をねぎらってよね!サマエル兄ちゃんはどこにいるの?俺、十年タダ働きとか絶対に嫌だから!」

「おお、わりぃわりぃ!」

 ヴィネは子供たちを地面に下ろす。

「えー行っちゃうの?」

 派手なピエロ服を脱いで、名残惜しそうな子供たちの頭を撫でる。ピエロ服の下からは、筋骨逞しい褐色の肉体が現れた。
 身長は有珠斗より十センチくらい高そうで、体の厚みも全然違う。
 肉体美を強調するように、上半身は肩あてだけ。肩あての黒いベルトが厚みのある胸筋の上でクロスしている。下半身は腰布を巻いて足は素足にブーツだ。

「またすぐ会えるだろ、テントの中で。開演までいたずらしねぇでいい子で待ってんだぞ。ほらあっちで風船配ってるぞ!」

「ヤダヤダー!」

「あと三十分だって我慢しな!」

 子供たちのブーイングを背に受けながら、ヴィネはこちらに駆けてきた。
 目の前までやってくるとオライと有珠斗が肩に担いでいる大きな袋を眺めて感心したように言う。

「おー、すげえ量だな」

 オライがふん、と鼻息を吹いて答えた。

「そうだよ重かったよ!ウストが手伝ってくれたからよかったけど」

「そっちの変人優男はウストってんだ?」

「うん、あの盗賊団に捕まってたところを、助けてくれたんだ」

 ヴィネは一瞬、まゆを上げてからニヤリと笑う。

「でもそれお前、わざと捕まってたんだろ?」

 オライはえっ、と驚き、焦った様子で有珠斗をチラチラ見る。
 ヴィネは笑い出した。

「冗談だよバーカ」

「なっ」

 オライは苦虫を噛み潰したような顔で、ヴィネの足に蹴りを入れた。

「ヴィネ兄ちゃん、ほんっとさぁ!そんなんだからいっつも上の兄ちゃんたちに怒られるんだよ!」

 ヴィネは蹴られたすねを大袈裟に撫でる。
 
「いてて!ありがとな。かわいい弟を助けてくれて。一人で盗賊団からこいつを救出するなんて、あんた強いんだな」

 ヴィネは気さくそうな笑みを浮かべた。
 が、その眼光が心なしか鋭い気がした。値踏みするような探るような視線。

(何か警戒されている!?)

「あ、は、いえ、こちらこそ路頭に迷ってたところなんで親切にしてもらえてありがたいです」

「へえ、路頭に迷ってた?まあ積もる話は後で聞くよ。まずは盗品な。ついてきな。テントの裏、いやーな空気になってるぜ」

◇ ◇ ◇ 
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