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第2話 不破 有珠斗 ③

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「魔法……?」

「私の力不足を許してほしい。母さんも、お前の弟たちも守ることはできなかった。最後の手段、自らの心臓に毒を仕込んで食わせる『心毒化』でしかあの神子みこを仕留めることはできなかった。だがお前だけは守ることができた。お前の心臓も」

「待って下さい父さん!一体、何を言っているんですか!?」

 父は宙に片手を伸ばし、聞いたことのない言語で呪文のようなものを唱えた。
 空間が歪み、大きな光の輪が出現する。
 有珠斗は息をのんで、その幻想的な光の輪を見つめる。

「帰るのだ、有珠斗。あの光の先へ。我らが故郷へ」

「故郷……ですって?」

「我々は、最後の魔女ワルプルギスの子孫、魔男まだんの一族。ワルプルギスの最初の息子、ファウストの血脈として、代々、長子がワルプルギスの心臓を受け継いできた。魔女狩りから逃れ、この異世界で身を隠してきたが、ついに神子みこどもに嗅ぎつけられた。もはやここは安住の地ではない」

 わけのわからないことをしゃべり続ける父は、音もなく有珠斗に近づくと、有珠斗の胸のあたりに手をあてた。
 物質としての感触はないが、異様に熱かった。
 有珠斗は自分の心臓がドクドクと早鐘を打つのを感じた。
 父は有珠斗を見つめて言った。

「お前に施した封印を解く。これよりお前は魔男となる」

 父の手が青白い光を放った。

「あつっ!」

 父の手が強烈な熱源と化した。心臓が焼かれるようだった。

「これでお前は魔法の使い手となった。だがその力は未完成。本来、女が持つべきこの力を完成させるためには『夫』が必要だ……」

「お……!?」

「故郷に戻り、ワルプルギスの傍系一族……メフィストフェレスの子孫を頼れ」

「待って下さい!父さんがなんの話をしているのか、全然分かりま……」

 言いかけて有珠斗ははっとする。父の姿が薄れ、消えようとしていた。

「もう時間切れだ、有珠斗。お前は素晴らしい息子だった。私の自慢の息子だった」

「嫌だ、行かないで!死なないで父さん!」

 消えゆく父は悲しそうに首を振り、光の輪をまっすぐ指さした。
 その指に引きずられるように、有珠斗の体は光の輪へと吸い込まれていく。
 体が気体になったかのようだった。
 有珠斗はなすすべもなく、光の輪へと飲み込まれていく。
 最後に見たのは、父が風に吹かれる砂塵のように、消失する姿だった。

 気がつけば、有珠斗は見知らぬ森の中にたちすくんでいた。
 呆然と周囲を見渡した。生まれ育った家もなく庭もなく、見たこともない森の中にいる。土の匂いと緑の匂い、ひんやりとした外気。
 有珠斗は半狂乱になって、森の中を走った。途中で何度も草や根につまづきながら。

(なんなんだこの悪夢は!醒めろ醒めろ、早く目覚めるんだ僕!)

 どこかにこの夢の出口があるはずだと、出口を探して必死に走った。
 三十分ほど走り続けたが出口は見つからなかった。
 たどり着いた森の小道で、荒い息をつきながら、有珠斗は「ある可能性」を思いつき、愕然とした。

 これが夢ではなく、現実である可能性だ。

 恐るべき思いつきに打ちのめされていた時、声を掛けられた。

「おいおい、邪魔だぞ兄ちゃん、殺されてえのか」

◇ ◇ ◇
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