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第2話 不破 有珠斗 ②
しおりを挟む 化け物は不気味な笑みを浮かべ、言葉を発した。
「見ツケタゾ、モウ一ツ。わるぷるぎすノ心臓!」
化け物は右手に持った赤い肉塊を、見せつけるように掲げた。
有珠斗はそれが何か分かり、吐き気を催す嫌悪感と憤懣に駆られた。
化け物が持っているのは、人の心臓だった。
しかも今もドクドクと脈を打っている。
視線を走らせれば、化け物が引きずる父の遺体の胸に、ぽっかりと穴が空いている。
「父さんの心臓……!」
有珠斗の震え声に、化け物は愉快そうに笑みを浮かべる。
くわ、と化け物はいきなり大口を開けた。
その口の中に、化け物は心臓を放り込む。
丸呑みにする。
鱗だらけの長い喉を、大きな塊が下っていくのが皮膚の上からもわかった。
「なっ……!」
おぞましく許し難い行為に絶句する有珠斗の前で、化け物の体が閃光を放った。そしてその大きな体が、さらに大きく膨れ上がる。
化け物は巨大化しながら、歓喜の声をあげる。
「オオオオオ!ミナギル 力!コレガ最強ノ魔女ノ 力!サラニ目ノ前ニ心臓ガモウ一ツ!コレデ俺ハ三ツノ心臓持チダ!今宵、俺ハ最強ノ聖統神子ニナルウウウウウウ!」
化け物の頭からツノが生えた。肩からも背中からも鋭いトゲのようなものが何本も生える。肉体ははち切れんばかりの筋肉でブクブクと盛り上がる。
化け物は、より凶悪で醜悪な外観へと変貌する。
有珠斗は呆気に取られながら後退った。
「最ッ強オオオオオオオオノ!神子オオオオオオオ!」
不破家の三階建ての豪邸の屋根すら超えて巨大化した化け物は、恐ろしい雄叫びをあげた。
が、その雄叫びは長くは続かなかった。
「オオオ……イ、イ、イ……?」
化け物の声が、なぜか小さくなり、何かに不思議がるように頭をかしげた。
「イ、イ、イタイ……。心臓、痛イ……」
化け物の身体中の血管が腫れて、全身に絡まる蔦のように見えた。
「イタ、イタ、イタアアアアアアア!」
その巨体が震えだす。
目から滝のように涙を流し、化け物は苦しがっている。
と、突然、弾け飛んだ。
まるで体内に仕掛けられた爆弾が爆発したかのように。
体がバラバラに吹っ飛び、大量の肉片と、透明な液体がぶちまけられた
有珠斗は、土砂降りのような化け物の体液を体に浴び、ずぶ濡れになる。
(は……?)
一体、何が起きたのか。立て続けの異常事態に、有珠斗は言葉を失う。
目の前の水たまりの中、二つの赤い石のようなものが見えた。
身をかがめ、恐る恐る手に取れば、それは手の平サイズの赤い宝石だった。
「ルビー?」
つぶやくと、聴き慣れた声が背後から聞こえた。
「結晶化した魔女の心臓だ。一つはこの神子がもともと持っていたもの、もう一つは私の心臓。それを決して神子に渡してはならない、お前が持っていなさい」
有珠斗はまなこを見開き振り向いた。
父がいた。
たった今、心臓を抉り出されて殺されたはずの父が。
「父さん!生きていたんですね!」
喜びにほころんだ有珠斗の顔は、しかし、一瞬でこわばった。
よく見れば父の体は、下半分が透けているのだ。立体ホログラム映像のように。
父、不破財閥の現会長、不破家の現当主、不破大地は悲しそうに微笑んだ。
「すまない、有珠斗。私は既に死んでいる。これは『残魂術』と呼ばれるもの。死の直後、ほんの少しの時間だけ、いわゆる幽霊となる魔法だ」
「見ツケタゾ、モウ一ツ。わるぷるぎすノ心臓!」
化け物は右手に持った赤い肉塊を、見せつけるように掲げた。
有珠斗はそれが何か分かり、吐き気を催す嫌悪感と憤懣に駆られた。
化け物が持っているのは、人の心臓だった。
しかも今もドクドクと脈を打っている。
視線を走らせれば、化け物が引きずる父の遺体の胸に、ぽっかりと穴が空いている。
「父さんの心臓……!」
有珠斗の震え声に、化け物は愉快そうに笑みを浮かべる。
くわ、と化け物はいきなり大口を開けた。
その口の中に、化け物は心臓を放り込む。
丸呑みにする。
鱗だらけの長い喉を、大きな塊が下っていくのが皮膚の上からもわかった。
「なっ……!」
おぞましく許し難い行為に絶句する有珠斗の前で、化け物の体が閃光を放った。そしてその大きな体が、さらに大きく膨れ上がる。
化け物は巨大化しながら、歓喜の声をあげる。
「オオオオオ!ミナギル 力!コレガ最強ノ魔女ノ 力!サラニ目ノ前ニ心臓ガモウ一ツ!コレデ俺ハ三ツノ心臓持チダ!今宵、俺ハ最強ノ聖統神子ニナルウウウウウウ!」
化け物の頭からツノが生えた。肩からも背中からも鋭いトゲのようなものが何本も生える。肉体ははち切れんばかりの筋肉でブクブクと盛り上がる。
化け物は、より凶悪で醜悪な外観へと変貌する。
有珠斗は呆気に取られながら後退った。
「最ッ強オオオオオオオオノ!神子オオオオオオオ!」
不破家の三階建ての豪邸の屋根すら超えて巨大化した化け物は、恐ろしい雄叫びをあげた。
が、その雄叫びは長くは続かなかった。
「オオオ……イ、イ、イ……?」
化け物の声が、なぜか小さくなり、何かに不思議がるように頭をかしげた。
「イ、イ、イタイ……。心臓、痛イ……」
化け物の身体中の血管が腫れて、全身に絡まる蔦のように見えた。
「イタ、イタ、イタアアアアアアア!」
その巨体が震えだす。
目から滝のように涙を流し、化け物は苦しがっている。
と、突然、弾け飛んだ。
まるで体内に仕掛けられた爆弾が爆発したかのように。
体がバラバラに吹っ飛び、大量の肉片と、透明な液体がぶちまけられた
有珠斗は、土砂降りのような化け物の体液を体に浴び、ずぶ濡れになる。
(は……?)
一体、何が起きたのか。立て続けの異常事態に、有珠斗は言葉を失う。
目の前の水たまりの中、二つの赤い石のようなものが見えた。
身をかがめ、恐る恐る手に取れば、それは手の平サイズの赤い宝石だった。
「ルビー?」
つぶやくと、聴き慣れた声が背後から聞こえた。
「結晶化した魔女の心臓だ。一つはこの神子がもともと持っていたもの、もう一つは私の心臓。それを決して神子に渡してはならない、お前が持っていなさい」
有珠斗はまなこを見開き振り向いた。
父がいた。
たった今、心臓を抉り出されて殺されたはずの父が。
「父さん!生きていたんですね!」
喜びにほころんだ有珠斗の顔は、しかし、一瞬でこわばった。
よく見れば父の体は、下半分が透けているのだ。立体ホログラム映像のように。
父、不破財閥の現会長、不破家の現当主、不破大地は悲しそうに微笑んだ。
「すまない、有珠斗。私は既に死んでいる。これは『残魂術』と呼ばれるもの。死の直後、ほんの少しの時間だけ、いわゆる幽霊となる魔法だ」
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