転・精・者/邪神の生贄 ~地獄みたいな異世界で、僕は憧れの彼に会う~

空月 瞭明

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43話 幻惑の森(6)

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 僕達が飛び出した先は、土の上だった。

 やっと花の内部から脱出できたのだ!

 すっかり服は解けて、二人とも裸ん坊になっちゃったけど。

 後ろを振り向くと、恐ろしく巨大な花がそびえていた。茎はなくて地面から直接花が生えている。
 巨大な茎なしチューリップに見えないことも無い。けど、その内部構造はとてつもなく複雑怪奇。

 僕はしみじみとつぶやいた。

「僕達の赤ちゃん、立派に育つといいねえ」

「いやただの植物系モンスターだけどな」

「レンがお母さんだね」

「ぶん殴るぞ」

 ひえー。

 と、そこで、僕はむちゃくちゃ大事なことを思い出した。

「ワン太っ!!」

 ああどうしよう、ワン太はどうなったんだろう、まさかあのまま、妖樹的なものの養分に!?

「レン、ワン太を助けに行こう!」

 レンはふむ、と顎をさすると、指を二本、口に入れて、ピーと口笛を吹いた。
 すると。

「アオーーーーーーーン!」

 ワン太の雄たけびが聞こえた!
 しかも結構、近い場所から。

 そしてガサガサっと音がして、木々の間から銀色に輝く立派なフェンリルが飛び出してきた。

「ワン太あああああああ!」

 僕はワン太の首に腕をまわしてしがみつき、レンはワン太の頭をわしゃわしゃ撫でた。

「さすがフェンリル。植物系モンスターごときに負けなかったか。ウマは無事か?」

「ワウっ」

 と短く答えるワン太。

「そっか、とっくに逃げて森を抜けたか、それでいい。出口んとこで待ってるかな」

 す、すごい、レン、ワン太と会話してる!?そうか、魔獣を服従させると、意志の疎通もできるようになるんだ。
 いいなあ、魔法。

 その時、木々がなんだかざわめきだしたような気がした。
 無音だった森に、葉擦れの音が拡がり始める。

 レンが舌打ちした。

「騒ぎすぎた、森を起こしちまったな。ワン太、俺達二人、乗せて突っ走れるか?」

「ウオン!」

 きりっとした顔で体勢を伏せるワン太。

「よし!乗れヨウ!」

「う、うんっ」

 レンと僕はワン太の背中にまたがって、そのふっさふさの毛にしがみついた。

 ワン太は地面を蹴って、走り出す。

 森の木たちが枝や根っこを鞭のように僕達に振るってきた。

 ワン太はそれらを見事に避けて走り抜ける。
 突然盛り上がった根っこのハードルを大ジャンプで飛び越え、目の前に迫る丸太を噛み千切って粉砕し。

 銀色の獣は、夢のように綺麗で悪夢のように恐ろしい森を、悠々と駆け抜けて行った。
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