転・精・者/邪神の生贄 ~地獄みたいな異世界で、僕は憧れの彼に会う~

空月 瞭明

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24話 入浴(1)

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 隠れ家に戻るとレンは、風呂に入っていい?と聞いてきた。まだ日は高かったけれど。
 僕は察した。
 きっとさっき、ドルードとあんなことをしたから、体を洗いたいんだろうな、と。
 僕は顔色ひとつかえず、うなずいた。

「うん、もちろん!だいたい、レンの家なんだから僕なんて気にせず好きにやってよ」

「ま、そうなんだけど、一応な」

 僕はふとわいた疑問を尋ねた。

「あ、そうだここのお湯って一体どうやって出てるの?薪で炊いてる感じもしないし」

「ああ、火炎トカゲが落とす火炎石ってアイテムがあって、水にその石入れるとお湯になるんだよ」

 僕は押し黙る。そしてしみじみと、つぶやいた。

「すっごい、異世界感……」

 レンは何故か得意げに笑った。

「だろー?」

「はあ、そういうのだけの、普通の異世界だったら良かったのに」

 レンは吹き出した。

「なんだよ普通の異世界って。じゃ風呂入ってくるから」

「うん!」

 僕はレンが風呂から上がるまで、弓矢やナイフの練習をしようと思った。
 せっかく買ってもらったんだ。使いこなせるようにならなきゃ、レンが辛い思いをした意味がないじゃないか。

 僕は庭に出てみた。例の樹が目に入った。りんごっぽい木の実のなる樹。
 よし、と思って、弓に矢をつがえる。赤い木の実をねらって引き絞った。
 ぱんと矢から手を離す。

 矢は見事に外れて、樹の幹に突き刺さった。
 うーんなかなか難しい。
 
 幹に突き刺さった矢を引き抜きながら、僕は樹の根元に、的っぽい板が転がっていることに気がついた。
 円と真ん中に黒丸が描かれ、矢のあとが沢山ついている。
 きっとレンが自分で練習用に作ったものだ!
 意外にまめなんだなあ、と僕は感心する。

 せっかくだから使わせてもらうことにした。
 僕は弓矢の練習に夢中になった。

 矢を打ちつくしては引っこ抜いてやり直し、を繰り返した。
 なんだかだんだん、上手になって来た気がした。

 汗もかいたし僕もお風呂に入ろうかな?

 そう思って、家の中に入った。
 もうとっくに風呂を出ているかと思ったレンの姿が見えなかった。

 僕は心配になった。もしかして風呂ですべって頭をぶつけて倒れてたりしたら、どうしよう?

 家の一番北側奥にある風呂場の扉を、僕は慌てて開けた。

 レンは湯船に入って、ぼうっと天井を見つめていた。
 冷たい黒い石畳の床に、同じく黒い石でできた浴槽は、結構広い。

「レン、大丈夫!?」

「え?」

 レンが目をしばたかせて僕を見ている。それから決まり悪そうな顔をした。

「あ、わりい、長風呂しちまった。あのジジイんとこで『買い物』した後ってつい、長風呂しちまうんだ」

 あそこで買い物の後、ってつまり、体で支払った後は、という意味か。
 僕の胸が痛んだ。

 ああやっぱり、レンはああいう行為に傷ついているんだ。
 そりゃそうだ、傷つかないわけがない。
 体を売って傷つかない心なんてきっと存在しない。
 世の中の売春婦のお姉さんたちも、きっとみんなどこかで何かが傷ついている。
 体を売るっていうのは、そういう事だ。
 だって本当は、お金のための行為じゃない。愛のための行為なんだもの。

 人の心は、体を売ったら傷つくように出来ている。
 
「ごめんな、お前も入るか?出るわ」

 立ち上がって、湯船から出ようとするレンを僕は手を上げて制した。

「ま、待って!大丈夫、倒れてたらどうしようって心配になっただけ。好きなだけ入ってて」

 レンは驚いた顔で僕を見た。

「お前……。なに泣いてんだ?」

 僕は、はっとした。
 いつの間にか僕は、ぼろぼろ涙をこぼしていた。

 どうしよう、変に思われる。なんて説明しよう。
 駄目だ、あれを言ったら駄目だ、きっと絶対に困らせる。どうしよう。

「な、なんでもない。ごめんねレン。ほんと、ごめん」

 レンはふっと微笑んだ。

「俺が体で払ったってこと、気づいてんだろ」

 僕は顔を真っ赤にして、手で口を押さえた。
 ああ、駄目だ。
 もうこれ以上、嘘はつけない。
 うつむいて、こくりとうなずく。

 レンは濡れた髪をかきあげて、口の端をあげた。

「軽蔑したか?」

 僕はびっくりして、レンを見上げた。思わず声を荒げた。

「そんなわけないだろ!軽蔑なんか出来るわけないじゃないか!僕はただ自分が情けなくて、君に申し訳なくて!つ、次は、僕に支払わせてよ!僕が体で払うから!」

 レンはそんな僕に驚いた様子で、まじまじと見つめた。
 顎に手をやって、視線を横に流し、つぶやくように言った。

「じゃあ……。今、体で払ってもらおうかな。俺に」

 僕は突然言われたことの意味が理解できず、きょとんとしてしまった。
 でもゆっくり、頭の中で言葉を反芻し、赤面する。

「そ、それって……」

「服、脱げよ。風呂に入れ。ここで払ってもらう」
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