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23.秘めた想い②
しおりを挟む「レオンがそんなことを思っていたなんて、何も気づかなかった。でも、メイネにピアスを贈ったでしょう……」
「あれは、出入りの商人が来た時に、たまたまメイネが一緒にいたんだ。実は、フロルに何が似合うと思うかと聞いて、一緒にいくつか選んでもらった。自分も好きなものを選んでいいかと言うので、勝手に選べと言った。まさか、それを茶話会に付けてくるなんて思わなかった」
「じゃあ、肩に付けていた宝石は……」
「いつも付けていた紫水晶の飾りが欠けてしまったんだ。まさか、フロルの瞳を象った品が欠けたままで、茶話会に出られるわけがない。あの日付けていたのは、……昔、フロルと一緒に選んで買った品だ」
そんなことがあっただろうか。フロルが必死で考えると、弟の誕生祝を選ぶ時に一緒に自分のものも選んでくれたのだとレオンが言った。
「レオンにはこれが似合う、とフロルが言ってくれたのが嬉しくて、ずっと大切にしていた」
静かなレオンの言葉に、フロルの瞳から涙がこぼれた。
レオンはあの日初めて、フロルに手を振り払われて呆然とした。フロルに拒否されて、自分のやってきたことが、どれだけ独りよがりだったかがわかったのだ。メイネには、もう自分に近づくなと言い渡して部屋に引きこもった。誰が何を言ってきても会わずにいたら、段々、霧が晴れたように頭の中がすっきりしていく。
何かがおかしいと気づき、宮廷魔術師を呼んで体を調べてもらうと、魅了魔法にかかっていることがわかった。魅了をすっかり抜くためには、思った以上に時間がかかった。
「知らず知らずのうちに、メイネの言いなりになっていたんだ。会うたびに魅了を繰り返しかけ続けられていたのだろうと、宮廷魔術師が言った。頭の中ではちゃんとフロルのことを思っていたはずなのに」
メイネの目的は、王太子に近づいて伴侶となることだった。伯爵家からでは、王太子妃の座は望めない。しかし、自分が魅了を使い王太子に近づけば、いずれ伴侶になる機会はあると考えたのだ。
「メイネはフロルに似せた香りをわざと身に着けていた。オメガの魔力は弱いのに、魅入られていたのは、そのせいだ。魅了が解けて、会いたいと思うのはフロルだけだった。……だが、もう全てが遅かった」
公爵が国王の前で婚約破棄を願い出た時、フロルはもうレオンを見ようともしなかった。そして、竜がフロルを連れて行ってしまった。レオンに残されたのは絶望だけだ。父王に言われるまま、塔に幽閉されて死ぬのも悪くないと思った。
──大切なものは、もう二度と、戻ってこないのだから。
フロルはレオンに握られた手をそのまま自分の口元に運んだ。そっとキスをすると、レオンは瞳を瞬いた。
「……僕は、何も見えていなかった。独りよがりなのは、僕も一緒だ。レオンの為と言いながら、自分の役目ばかりを追っていた」
「俺は、いつも一生懸命なフロルが好きだ。フロルのおかげで、どんな時も頑張ろうと思えたんだ。フロルが望むなら、立派な王になりたかった。……こうして会いに来てくれるなんて、もう思い残すことはない」
レオンがフロルを見る瞳は静かなままだ。フロルが誰よりも大事に思う存在がここにいる。
「こんなところで最期を迎えるわけにはいかないよ。レオン、一緒に逃げよう」
「フロル?」
「ねえ、レオン。僕たちは、たくさんの遠回りをしたんだよ。でも、これからは大丈夫。たくさんたくさん話そう。そして、また一から始めよう」
「……まさか、フロル。俺を許してくれるのか?」
フロルはゆっくりと頷いた。どうしてあんなにレオンとメイネが一緒にいたらつらかったのか、ようやくわかった気がした。
(レオンに好きな人ができたら応援しようと思ったのに、少しもできなかった。……それは)
「……僕も、ずっと、レオンが好きだったんだと思う」
「フロル」
レオンが、これ以上君に触れたらどうなるかわからない、と呟いてそっと手を離した。フロルは、自分から進んでレオンの胸に飛び込んだ。レオンは目を見開き、恐る恐る手を差し出して、フロルの細い体を抱きしめた。
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