ずっと、君しか好きじゃない

尾高志咲/しさ

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8.昼食会の混乱②

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 フロルは何とか声を振り絞った。

「……レオン。きょ、今日は、一緒に食事をする日だったんだ」
「あ、ああ。……そうだったな」

 レオンは、さっと目を逸らした。逸らした先には四阿の小卓があり、様々な食べ物が置かれている。目にしたフロルの胸はずきずきと痛んだ。

「僕とは一緒に過ごしたくないのかもしれないけど……。これ以上昼食を共にしないなら、父や兄が黙ってはいない。婚約者同士の不仲を、はっきりと皆が知ることになるから。それがまずいことは、君にもよくわかっているはずだ」

(一生懸命言葉を選んだつもりだけど、伝わっただろうか?)

 その時、隣にいたオメガが口を開いた。

「レオン様は自由にお食事をされることもできないんですか? いくら王太子殿下だからってお可哀想です」

 シセラの王宮には厳然とした身分の差が存在する。特に身分が下位の者が上位の者に挨拶もなしに口を開くことなど許されない。礼を失した振舞いや口にした言葉に思わず手が震えたが、フロルは冷静になろうと努めた。

「僕たち二人が揃って食事をすることに意味があるんだ。王家と公爵家の間での約束事だし、昼食以外は自由にできるから」
「ふーん……。あ! そうだ。それならお二人とご一緒に、僕も食事をしたらどうでしょう? それならレオン様も堅苦しい思いをなさらないし、楽しく召し上がれるでしょう?」

(……彼は、一体何を言ってるんだろう? それに、堅苦しいだって?)

 金髪のオメガは名案だというように、満面の笑みを浮かべている。王太子と婚約者の為の昼食会に、招待もされていない者が参加できるわけがなかった。

「……俺とフロルの昼食会に、他の者が加わるのは許されないだろう」

 感情の籠もらない声でレオンが答えると、オメガはひどくつまらなさそうな顔をした。その場の空気は一気に重苦しいものに変わる。

「ぼ、僕の話は、それだけなんだ。……婚姻の儀まで、あまり時間がない。周りに不安を抱かせるのはまずいと思う」

  フロルがレオンに向かって告げると、沈黙が落ちた。

 目を合わせてもくれないレオンに動揺していると、金髪のオメガはするりとレオンに自分の腕を絡ませた。レオンは振り払うこともなく好きにさせている。

 フロルは二人の様子を見ていることができずに、きびすを返して歩き出した。胸が痛くて仕方がない。どうしてこんなにいたたまれない気持ちになるのかもわからなかった。

(仲が良かったレオンに無視同然の態度をとられていることが悲しいのか。ろくに会ったこともない者に堅苦しいと言われたことが嫌なのか。そもそも、僕のことをあれこれレオンが彼に話している事実がつらいのか……)

 誰に問うこともできずに、うつむきながら王宮の廊下を歩いていく。さして距離もない廊下が、どこまでも果てしなく続くように感じた。

「フロル様」

 明るい声に顔を上げれば、そこにはレオンの弟である第二王子ユリオンの姿があった。レオンと面差しはよく似ているが、弟王子の方が柔和な印象がある。朗らかで人好きのする彼は、臣下にも信望が厚い。

「兄上との昼食会からお帰りですか? 今日はお早いですね」
「あ……」

 上手く立ち回らねばと思うのに、言葉が続かない。口ごもるフロルにユリオン王子は優しく微笑んだ。

「よかったら、お茶をご一緒にいかがです?」
「え? いえ」
「顔色がよくありませんよ。すぐそこに私の気に入りの庭園があります。ちょうど花も盛りですし、少し休んでからお帰りになっては?」

(そんなに自分の顔色は悪いだろうか)

 心配げに自分を見る瞳は、兄のレオンとよく似ている。思わず見惚れていると、ユリオンはそっとフロルの手を取った。
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