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番外編 晴れた空に
3.(終)
しおりを挟む『運命の番』という特別な繋がりがアルファとオメガを結び付けている。それは自分には決してわからない世界のものだ。
例え、誰よりも長い間お側近くにいたとしても。
「友永」
「はい」
「世界にアルファとオメガだけじゃなくてよかった」
「え?」
「ベータがいるから、世界は閉じなくてすむ」
「千晴様……?」
それ以上何も言わず、千晴様は志堂様との仲直りの方法を考え込んでしまわれた。
『友永、お前は誰よりも優れたベータになれ。千晴様をお守りするために』
幾度となく繰り返された父の言葉が耳の奥に浮かぶ。
自分が千晴様の従者となる一年前に、不幸な事故は起きた。幼くして番と出会った志堂様は千晴様の項を噛み、千晴様は衝撃で記憶を失くされた。芙蓉のご当主方だけでなく父の後悔は深い。
ベータであっても、アルファに劣らぬほどの能力を身につけよ、と父は言った。それがこの先、お前の主を守るのだからと。
父や兄に倣って、日々修練に励んできた。知らず知らず疲労がたまっていくと、いつだって千晴様の方が先に気づく。
「無理はダメなんだぞ、友永」
「はい、千晴様」
「お前はぼくを守るんだろう。だったら、その前に、まず自分を大事にするんだ」
一回り小さな手の主は真剣に、労わるようにこの手を包む。
……えらいな、友永は頑張ってるんだな。
続けて千晴様が呟く言葉と柔らかな手の温もりに、たちまち心も体も回復したものだった。
千晴様に今日はもういいからと言われて、早目に帰宅することにした。安井の家は、芙蓉家からは目と鼻の先にある。
ふと、夕暮れの庭を見ると、モミジの木の下に珍しい客を見た。
「志堂様?」
こちらを見て頷く彼は、正に今、千晴様が頭を抱えている相手だ。家まで来られるとは、初めての喧嘩に志堂様も気が気ではないのだろう。
「千晴様の元にご案内します。その木に何か?」
「いや、久々に来たら、何だか呼ばれているような気がしたんだ」
「……呼ばれるとは。モミジの木の主にですか?」
「そう、白蛇に」
「ご存知だったのですね」
千晴様から聞いたのかと思ったが、志堂様は当主夫人から聞いたと言う。
「俺はこの庭の守り主に嫌われている。何度も威嚇されたことがあるんだ」
「私は子どもの頃に一度見たきりです。蛇が苦手なので助かってはいますが」
「ここの主は千晴を気に入っているから、従者も気にかけて大事にしているんだろう。俺は昔、千晴を傷つけたから、簡単には許してもらえない」
……どこまで本気で仰っているのか。
答えあぐねていると志堂様は苦笑いをされた。
「どうやら、今日は君に助けられたようだ」
志堂様と一緒に樹上を見ると、白い影が動いてすっと葉陰に消えた。思わず目を見開く。木の上にはもう何も見えず、志堂様の静かな声が続いた。
「芙蓉の守り主は富をもたらすと言われている。富とは縁だ。人と人を繋ぐ」
「それならば、志堂様と千晴様のご縁は、ずっと続いておられます。ヌシの守る庭に、縁のない者は入れないでしょう」
「……芙蓉夫人と同じことを言う。俺は、千晴をあきらめられなかった。どんなに細い縁でも、ずっと繋がっていたかった」
どんなに、細い縁でも。
志堂様は今日まで、どれほど必死に千晴様への心を繋いでこられたのか。
「おーい! 友永ー! 明日の朝は少し早く行こう」
軽い足音が聞こえて、庭に大きな声が響く。
志堂様と同時に振り向くと、千晴様がぎょっとして目を丸くした。
「な、なんで一星が?」
「千晴と顔を合わせて話がしたくて来たんだ」
千晴様は黙り込み、志堂様は千晴様を見つめる。流石に自分がこの場にいるのは邪魔というものだ。音を立てないように、そっと離れようとした時だった。
「……友永!」
「はいっ」
「一星と話がある。だから」
「承知しました。これで失礼します」
千晴様は、途端に首を横に振る。眉が寄せられて、縋るような瞳が目に入った。
「一緒に来て」
「は?」
「……友永がいた方が、落ち着いて話せる」
千晴様の小さな声から、緊張が読み取れる。少しだけならと言えば、ほっとしたように息を吐かれた。志堂様も頷かれたので、屋敷の中に向かうお二人の後をついていく。
見上げれば、夕空には星々がいくつも姿を現していた。彼らは葉陰に消えたヌシのように白く輝いている。
『ぼくたち、これからずっと一緒にいるから! 見てて!』
遠い日の言葉が、自分の行く先を照らす。
──例え、アルファとオメガのような特別な繋がりはなくても。
あなたのお役に立つことができるなら、天の定めた役割の通りにお側にいよう。
晴れ渡る空のような主へと続く道。目には見えなくても確かに何かがあるように思えて、小さな背を追いかけた。
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とても楽しく読みました!
心が温かくなる物語ですね(*˘︶˘*).。.:*♡
友永視点のエピソードもあり、凄く良かったです
そして、新たな疑問が
主とは一体…
ゆきなお様
お読みいただき、ありがとうございました!ご感想、とても嬉しいです!
この話は初めて書いたオメガバースで、優しい話にしたいなあと思いました。
楽しんでいただけてよかった。友永も喜んでいますヾ(´∀`*)ノ
あ、主はですね。芙蓉家の庭のモミジの大木に住んでる白蛇です。
白蛇は神様のお使いなので…芙蓉一族を大切に守っております。
いつか一星も気に入ってもらえるといいなと思いつつ…。ちょっと遠そうです。
お読みくださり、本当にありがとうございました。
桜のカードを渡した彼を幸せにしてあげて
ほしいです切な過ぎます(TдT)
彼を笑顔にしてくれる誰かとの話を是非
是非ともお願いしますm(_ _)m
HALU様
お読みいただき、ご感想までありがとうございます!
桜のカードの彼にお心を寄せてくださって嬉しいです🌸
ちょっと彼の話の予定はないんですよ…申し訳ありません。
きっと彼のことを大事にしてくれるいい人と幸せになると思います。
HALU様の優しいお心に感謝申し上げます。ありがとうございました^^。
楽しかったです。オメガバース、オメガの肩身が狭い(それはそれでキュンキュンきます)お話も多いけれど、こちらは安心して読めました。で、友永目線の番外編読んでみたいです^_^
応援しています!
perezoso様
ご感想ありがとうございます!楽しんでくださって、とても嬉しいです♡ヾ(´∀`*)ノ
オメガバースは確かに胸がぎゅっと痛くなるようなお話も多いですよね。そこがまた魅力でもありますが。
ちょうどバレンタイン後のホワイトデーの話を書いていたので、投稿します。短めですが、読んで頂けたら嬉しいです。友永目線の番外編もちょっと考えてみますねー!