本当にあなたが運命なんですか?

尾高志咲/しさ

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番外編 君に出会う日

1.🌸

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🍬バレンタインの番外編を書いたのでホワイトデーも書きました🍬
 
 
「早すぎる!」
「何がです? 千晴様」
「何でこんなに早く次のイベントが来るんだ。い、一か月後なんて、そんなにすぐ腕が上がるわけないじゃないか!」

 ぼくが震えながら叫ぶと、友永はああ! と言って納得したように頷いた。

「なるほど、ホワイトデーですね。千晴様の仰る通りですが、別にお返しをなさらなくても構わないでしょう」
「え?」
「僭越ながら、お返しの御心配をなさっていたのかと。千晴様も志堂様もバレンタインはお互いにチョコを贈られたのですから、相殺でよろしいのでは?」

(──相殺?)

「た。たしかに……」

 友永の言うことは一理ある。ロマンチックなイベントにしっかり付き合うくせに、合理的なことを言う男だ。

 宝珠高校はバレンタインはお祭り騒ぎだが、ホワイトデーは静かなものらしい。
 同級生の瀬戸に言わせれば「もう勝敗は決してるからな!」とわかりやすい説明が返って来た。なるほど、バレンタインは可能性でホワイトデーは結果か。
 ホワイトデーに盛り上がるのは、無事、恋人同士になった者たちだけということだ。

 ぼくは昼休みに中央廊下を歩いていた。一星が堂々と認めているので、最近はもう誰に隠すこともなく、ぼくたちは一緒にお弁当を食べている。今日は天気もいいし風も穏やかだから、外のベンチで食べる約束をした。
 昇降口で靴を履き替えてから中庭に向かうと、欅の木の陰に人の気配がする。すらりと背の高い彼が見つめる先にいるのは、一星だ。

 ……一星のこと、見てる?

 ぼくは、はっとして、その場に立ち止まってしまった。

 木の影にいた彼は、身動きもせずに一星を見ている。何だか見てはいけないものを見ている気がして、胸がざわざわした。どうしよう。これは、そ知らぬふりをして、さっと歩いて行った方がいいだろう。
 そう思っていたら、くるりと木陰の人物が振り返った。目が合った彼は、さらさらと流れる栗色の髪に吸い込まれるような明るい茶色の瞳をしている。
 整った顔立ちに見惚れていると、眉間にぐっと皺を寄せられた。

「あっ! ごめ……」

 彼はプイと顔を背けた。校舎に向かって、さっと歩いて行ってしまう。
 謝る必要はなかったのかもしれないけれど、きっと嫌な思いをさせたのだろう。まるで、こっちがずっと覗き見をしていたみたいだ。

「千晴?」

 名を呼ばれて振り向くと、一星が手を挙げる。とぼとぼとベンチまで歩けば、心配そうな顔をされた。隣に座った途端、一星がぼくの顔をじっと覗き込む。

「どうしたの? 元気がないね」
「いや、一星は人気だなって……」

 何かあったのかと、一星は目で尋ねてきた。

「さっき、木陰から一星を見てた人がいたんだ。だから」

 ちょっと気になって、という声がどんどん小さくなる。すっと手が伸びてきて、頬に温かい手が当てられた。胸がドクンと高鳴って、一星がにっこり笑う。

「俺は千晴しか見てないから」
「……な……んで、そういう……こと」

(さらっと言っちゃうんだよ。どんどん顔が熱くなるし、何言っていいんだかわかんなくなるし)

 うつむいていたら、広い胸の中にぎゅっと抱きしめられた。

「ちょっ! 何してんの!」
「少しこうしてたら、千晴は落ち着くでしょ?」
「逆だよ! こんなの、全然落ち着かない!」

 はいはい、と言いながら一星は少しも気にせず、ぼくをぎゅーぎゅー抱きしめた。文句を言っているのに、いつのまにか体から力が抜けていく。胸の中で大人しくしていたら、そっと体を離される。もう大丈夫だね、と一星が微笑んだ。

「今日はね、千晴の好きなもの作ってきた。わけっこしよう」
「あ! オムにぎりだ。嬉しい」

 一星のお弁当箱の一段目には、一口大の丸いおにぎりが整然と並ぶ。綺麗に焼かれた薄焼き卵でくるりと巻かれているのはチキンライスだ。見ただけで、お腹がぐぅと鳴る。

「毎日お弁当作るの、大変じゃない?」
「慣れてるから。それに、アルファは大事なオメガに自分で食べさせたいものなんです」
「食べさせたい?」
「うん、給餌は愛情表現だからね。はい、どうぞ」

 口元に運ばれたおにぎりをぱくりと頬張ると、とても美味しかった。
 きゅうじって、こういうの? と口をもごもごさせながら聞けば、一星はくすくす笑う。ぼくはいつのまにか、食事に夢中になっていた。

 ごちそうさま! と礼を言うと、一星は蕩けるように微笑む。ぼくの落ち込んだ気持ちは、すっかり消えていた。

 しかし、その後の数日間、ぼくは落ち着かない日々を送ることになった。

 ──視線を感じる。

 廊下で立ち話をした後や、図書室で本を選んでいる時。自販機で飲み物を買った時にも感じた。誰かにじっと見られているような気がする。ふっと視線の先を見ても、誰もいない。

「……自意識過剰なのかな」
「千晴様?」
「いや、最近誰かに見られている気がして」

 帰り道にぽつりと漏らすと、友永は首を傾げて小声になった。

「おかしいですね。お目障りになる者は一通り除いたはずですが」

(除くって何だ。さりげなくお前は何をしてるんだ)

 最近は呼び出しも嫌がらせもなくて平穏な学校生活を送っていた。てっきり一星がぼくと付き合っていることを公言しているからだと思っていたけれど、それだけではなかったらしい。ぬくぬく安心している場合じゃなかった。

「友永、ここは学校だ。ほどほどに」
「心得ました」

 一瞬、猛禽のような目をした男に、ぼくの背はぴんと伸びた。
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