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番外編 二人のバレンタイン
6.🍫🍫🍫🍫🍫🍫 (終)
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「食べて!」
まさに、心臓が口から飛び出しそうな気持ちだった。
沈黙が降りた後、チョコを持った自分の手が一星の大きな手で包まれる。恐る恐る顔を上げると、一星は瞳を何度も瞬いた。
「俺に?」
「うん! 一星のために作った!」
握られた手に強く力が加わる。綺麗な顔がくしゃっと歪んでうつむく。小さな小さな声が聞こえた。
「……もう、死にそう」
「え?」
「千晴がチョコを作ってくれるなんて」
「作るって言っても、と、溶かして固めただけなんだけど」
「……十分だ」
一星がぼくの手を離さないので、よろけながら隣に座る。
「あのさ、一星。開けてみて?」
一星はようやくぼくからチョコを受け取って、膝の上に置いた。長い指が丁寧にリボンを解いて、包装紙を開く。箱の中には、昨日真剣に選んだチョコが、行儀よく並んでいた。一星の口元が緩んで、見たことがないほど嬉しそうに笑う。
「ありがとう。すごく……嬉しい」
一星は、チョコを摘まんでぱくりと口に入れた。心臓がドクンと大きく跳ねた。美味しい、と言われた瞬間、ぼくは心の中で友永に感謝の言葉を叫びまくった。
「よ、よかった」
「……千晴と過ごせて、チョコまでもらえるなんて」
「友永に作り方を教えてもらったんだ。でも、教わった後は一応、一人で作ったからね」
一星は、くすくす笑っている。
きっと、ぼくが何を贈っても、失敗したチョコでも、一星は美味しいって食べてくれるんだろう。
思い切って、気になっていたことを一星に聞いてみた。
「あの、あのさ、一星。……他の人からもチョコ、もらった? 毎年、たくさんもらうんでしょ?」
「断った」
「え?」
「俺には千晴がいるから」
好きな人がいるからもらえない、と言って誰からも受け取らなかったらしい。
「そ……うなんだ」
「千晴はもらったの?」
ぼくは ぶんぶんと首を振った。そういえば、友チョコ一つもらっていない。
一星が、ほっとしたように息を吐く。ぼくは、思わず笑ってしまった。
一星みたいに大人気のアルファならまだしも、ぼくみたいに勢いだけのオメガに興味を持つ者もいないだろう。いつぞや他のオメガから平手打ちをくらったように、恨みを買う方が多そうだ。
「千晴に手を出そうとする奴がいたら……、叩きのめす」
眉を寄せて不穏なことを言う。全く顔に似合わない冗談を言うなあ、と一星の頬をふにふにと摘まんだ。
「大好き、一星」
「俺も」
互いに顔を近づけて唇を重ねると、甘くてほろ苦いチョコの味が口の中に広がった。
◇◇
翌朝。学校で会った友永は、ぼくの顔を見て、うんうんと頷いた。
「万事うまくいったようですね、千晴様」
「助かったよ、友永! あのメッセージがなかったら、どうなっていたか……」
「念には念を、と申します。お役に立てましたなら何よりです」
満足げに笑う友永に、ぼくはいつか、この恩を返そうと思った。友永にしてみれば当然のことかもしれないが、ぼくはいつも彼に助けられてる。
「友永!」
「はい?」
「友永に好きな人が出来たら、今度はぼくが応援するから! いつでも言って!」
友永はピクリと眉を寄せて、怪訝な表情を浮かべている。どう言葉を返したらいいのかと悩んでいる顔だ。
「お気持ちだけ、ありがたくいただきます」
「……お前、ぼくじゃ、全然役に立たないって思ってるだろう! これからは、もう少し頑張るからな」
「千晴様は、そのままでよろしいかと」
真剣な顔で言う友永に、ため息が出た。
(友永に世話をかけるばかりじゃいけない……。それに、来年はもう少しいいものを一星にあげられるように頑張ろう。今から頑張れば、ものすごく上達するかもしれない)
ちなみに、一星はぼくの為にチョコケーキを焼いてくれていた。シンプルでコクのあるクラシックショコラだ。ハート型のシュガーパウダーがかかっていて、とても美味しかった。
「一星には追いつかなくても」
「は?」
「ぼくも、一歩ずつ行こ!」
「お供します」
「うん!」
一星との初めてのバレンタインは、ぼくを少しだけ、大人にしてくれた。
ー----------------
お読みいただき、ありがとうございました。
またお目にかかれますように!
まさに、心臓が口から飛び出しそうな気持ちだった。
沈黙が降りた後、チョコを持った自分の手が一星の大きな手で包まれる。恐る恐る顔を上げると、一星は瞳を何度も瞬いた。
「俺に?」
「うん! 一星のために作った!」
握られた手に強く力が加わる。綺麗な顔がくしゃっと歪んでうつむく。小さな小さな声が聞こえた。
「……もう、死にそう」
「え?」
「千晴がチョコを作ってくれるなんて」
「作るって言っても、と、溶かして固めただけなんだけど」
「……十分だ」
一星がぼくの手を離さないので、よろけながら隣に座る。
「あのさ、一星。開けてみて?」
一星はようやくぼくからチョコを受け取って、膝の上に置いた。長い指が丁寧にリボンを解いて、包装紙を開く。箱の中には、昨日真剣に選んだチョコが、行儀よく並んでいた。一星の口元が緩んで、見たことがないほど嬉しそうに笑う。
「ありがとう。すごく……嬉しい」
一星は、チョコを摘まんでぱくりと口に入れた。心臓がドクンと大きく跳ねた。美味しい、と言われた瞬間、ぼくは心の中で友永に感謝の言葉を叫びまくった。
「よ、よかった」
「……千晴と過ごせて、チョコまでもらえるなんて」
「友永に作り方を教えてもらったんだ。でも、教わった後は一応、一人で作ったからね」
一星は、くすくす笑っている。
きっと、ぼくが何を贈っても、失敗したチョコでも、一星は美味しいって食べてくれるんだろう。
思い切って、気になっていたことを一星に聞いてみた。
「あの、あのさ、一星。……他の人からもチョコ、もらった? 毎年、たくさんもらうんでしょ?」
「断った」
「え?」
「俺には千晴がいるから」
好きな人がいるからもらえない、と言って誰からも受け取らなかったらしい。
「そ……うなんだ」
「千晴はもらったの?」
ぼくは ぶんぶんと首を振った。そういえば、友チョコ一つもらっていない。
一星が、ほっとしたように息を吐く。ぼくは、思わず笑ってしまった。
一星みたいに大人気のアルファならまだしも、ぼくみたいに勢いだけのオメガに興味を持つ者もいないだろう。いつぞや他のオメガから平手打ちをくらったように、恨みを買う方が多そうだ。
「千晴に手を出そうとする奴がいたら……、叩きのめす」
眉を寄せて不穏なことを言う。全く顔に似合わない冗談を言うなあ、と一星の頬をふにふにと摘まんだ。
「大好き、一星」
「俺も」
互いに顔を近づけて唇を重ねると、甘くてほろ苦いチョコの味が口の中に広がった。
◇◇
翌朝。学校で会った友永は、ぼくの顔を見て、うんうんと頷いた。
「万事うまくいったようですね、千晴様」
「助かったよ、友永! あのメッセージがなかったら、どうなっていたか……」
「念には念を、と申します。お役に立てましたなら何よりです」
満足げに笑う友永に、ぼくはいつか、この恩を返そうと思った。友永にしてみれば当然のことかもしれないが、ぼくはいつも彼に助けられてる。
「友永!」
「はい?」
「友永に好きな人が出来たら、今度はぼくが応援するから! いつでも言って!」
友永はピクリと眉を寄せて、怪訝な表情を浮かべている。どう言葉を返したらいいのかと悩んでいる顔だ。
「お気持ちだけ、ありがたくいただきます」
「……お前、ぼくじゃ、全然役に立たないって思ってるだろう! これからは、もう少し頑張るからな」
「千晴様は、そのままでよろしいかと」
真剣な顔で言う友永に、ため息が出た。
(友永に世話をかけるばかりじゃいけない……。それに、来年はもう少しいいものを一星にあげられるように頑張ろう。今から頑張れば、ものすごく上達するかもしれない)
ちなみに、一星はぼくの為にチョコケーキを焼いてくれていた。シンプルでコクのあるクラシックショコラだ。ハート型のシュガーパウダーがかかっていて、とても美味しかった。
「一星には追いつかなくても」
「は?」
「ぼくも、一歩ずつ行こ!」
「お供します」
「うん!」
一星との初めてのバレンタインは、ぼくを少しだけ、大人にしてくれた。
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