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84.騎士の求婚
しおりを挟む「ザウアー部隊長が言ったんだ。騎士ならば、一度心を捧げた相手を放っておきはしない。お前はそれでも、騎士の端くれかと。殴られた後、もう一度ユウの手紙をじっくり読んだ。手紙には、涙の滲んだ痕があった。少しだけ空いた場所も。ユウは、書きたかったことが他にあったのかもしれないと思った」
凪いだ湖面のような碧の瞳が俺を見る。あの日、書けなかった言葉が甦る。
……待ってて。
書いたらきっと、ジードは待っていてくれる。何年経っても忘れないでいてくれる。そう思ったら、無理だった。二度と戻れないのに待っててほしいなんて、決して書けるわけがない。でも本当は、家族に全部話して、もう一度こちらに戻りたかった。
ジードはエリクに殴られた後、部隊長たちの元に行って頭を下げた。ユウに会いたい。向こうの世界に迎えに行きたい。でも、どうしたらいいのかわからない。どうか力を貸してくれと。エリクたちがテオの元に向かい、エルンの魔術師に連絡をとってもらったが、いい返事は帰ってこなかった。
――自分の世界に帰った者の行方を探すのは、ひどく難しい。彼らは戻るつもりがないから、こちらに何も残さないし、自分も残せとは伝えない。
「話を聞いたスフェンが、自分の魔力を籠めたペンダントをユウが持っているかもしれない。それなら跡を追えるかもと言ったんだ。俺は、自分の贈った琥珀の気配を探ったけれど、たどれなかった。全く情けないな」
琥珀はジードの絶望を感じて色を変えた。死んだようになった石に胸が痛む。
ジードの願いを聞いたレトがゼノに、ロドスがラダに頼んでくれた。二人は研究所の仕事の合間に、あちこちに声をかけて俺の世界に繋がる方法を探した。新たな魔道具を作り、スフェンの魔力を増幅させる。俺の元に少しでも近づき、繋がるために。
ジードは何度も帰還術を行う魔術師に手紙を書き、とうとうエルンまで頼みに行った。根負けした魔術師が一度だけならと請け負った。
涙が止まらなかった。たくさんの人たちが俺が戻る為に手を貸してくれた。王宮で聞こえたのは、皆の声だったんだ。
「あ……りがと」
ジードの唇が俺の涙を吸って、唇に触れる。優しいキスがしょっぱくて、それなのにとても甘く感じる。
「この部屋の花は皆、戻って来たユウへの贈り物だ。何とか花瓶を探し出して、片端から入れておいた」
「ああ、だから……」
こんなに、ちぐはぐなのか。
思わず、泣きながら笑ってしまった。
「ユウがさっき、窓辺で触れていた薔薇は……、王太子殿下からだ」
「そうなんだ。テオによく似合うな」
咲き誇る見事な白薔薇は、テオのように毅然としている。窓際を見ると、ジードが眉を寄せた。
「……薔薇が好きなら、今度贈る」
「うん? ありがとう」
「だから、ユウ。俺の隣で、……笑っていてくれないか」
「俺はジードが側にいてくれたら、いつでも嬉しいよ」
「……そうか。いや、そうじゃなくて」
ジードは、隣に座っていた俺に向き直って、真剣な目になる。
「ユウの母君に約束したんだ。絶対、ユウを幸せにしますと」
そう言えば、母がジードと話していた時に何か言っていた。
――いいえ、後は直接自分で聞きなさい。
「ジード、母さんと二人で話していたことが、俺にはよくわからなかったんだ。何て言ってたの?」
ジードはまるでこの世の終わりみたいな顔をしている。うまく言えないけれど、思いつめた顔とでも言えばいいんだろうか。眉間に皺が寄り、口元は引き結ばれている。顔も青ざめているように思う。
「ユウ、ここでユウの母君と話したことを答えると、俺はザウアー部隊長に殴られる位じゃすまない気がする」
「何でエリク? エリクに怒られるようなことなの? 俺からもエリクに謝るよ。俺のことを心配してくれたから、ジードと揉めるようなことになったんだろう?」
これ以上、ジードとエリクの仲が悪くなるのは申し訳なかった。何とかしなくては。
「いや……、ああ、もう。仕方ない。ユウ、聞いてくれるか」
ジードは、俺の両手をぎゅっと握った。
「エイランでは異世界からの客人が王宮を出るには、二つの方法がある。国王に認められた後見を受けるか、もう一つは……」
ジードがごくりと唾を飲む。
「婚姻だ……。ユウ、俺と、結婚してほしい」
……は?
今、なんて言った?
呆然としたまま目を瞬いていたら、ジードがきっぱりと言った。
「ユウが好きだ。この先何があっても必ず幸せにする。母君にも約束したんだ。だからどうか、うんと言ってくれ」
馴染みのない言葉が耳の奥に何度もこだまする。
……結婚。
俺は生まれて初めて、とびきりイケメンな騎士にプロポーズされたのだった。
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