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67.魔力と断罪
しおりを挟む――嫌だ!
手を潰されたら、もう何も作れない。
作りたいものがまだ、たくさんあるんだ。
この世界のものだって、ほんの少ししか作ってない。
「ッ! やめろ!!」
炎と化した光が大きくうねり、自分の右手に向かってくる。それは自分を喰らおうとする憎悪の塊だった。
手が炎に包まれる。
焼けつくような熱を確かに感じた。
肌が火に炙られ、痛みと衝撃で意識が遠くなる。
体が地を転がっても、手を焼く炎は消えない。
――熱い、痛い、熱い。
「ユウッ!」
辺りを切り裂くような声が聞こえて、自分の手が銀色の光に包まれる。
俺とソノワの間に一人の男が立った。彼から流れる光は他の人と違う。他の騎士たちの光は金色で熱く感じても、彼の持つ光は銀色で冷えている。その光が今、自分の痛みと熱を鎮めていく。
地に転がったまま動くことも出来ず、俺は二人を見つめていた。こちらに向けたソノワの瞳は驚愕に見開かれ、見る間に蒼白な顔色に変わる。
「……で、殿下」
俺の前に立つのはテオだ。テオの体の周りに青白い炎のような銀色の光が広がっていく。
「……これは、どういうことか。答えよ、ソノワ」
ソノワの口からは何も言葉が出ない。テオの発する凄まじい怒りに、ただ震えている。地に伏せたままの俺のところまで、彼らの怒りと恐れが入り混じった思念が伝わってくる。
「答えられぬか。……ならば、ソノワ。騎士の義務とは何か?」
テオの銀色の光が増し、あえぐようにしてソノワの口から言葉が出る。
「……しゅ、主君とッ……女神、への忠誠と……奉仕。並びに、弱者の、保護……に、ございます」
「では、其方の行為は、その全てにあてはまらぬ」
テオの言葉は、底冷えがするほど静かだった。
すっと右手が上がり、人差し指と中指が揃ってソノワの額に向けられた。
ソノワがひゅっと息を呑む。首を振ってテオの指から逃れようとするけれど、体が固まったかのように動けない。
「私は其方に命じたのだ。女神の恩寵ある客人を守れと。魔力を持たぬ身を保護せよと」
「……あ、あ」
「女神から授かった魔力を使い、我等の恩人に危害を加えるとは。己の義務を怠る者を、私は騎士とは呼べぬ」
テオの指が銀色に光り輝く。そして、いつもならそこから魔力が広がっていくのに、全く反対のことが起きた。目を大きく見開いたまま身動きできないソノワの額から、金色の輝きがテオの指先に吸い込まれていく。
「魔力無きままに生きよ」
「……う、あ……あッ!」
テオの表情は動かず、ソノワの呻き声だけが漏れる。
光が全てテオの体に収まった時、ソノワはがくりと地に膝をついた。呆然としたまま、何度も自分の手を見て、胸に手を当てる。そして、何度か手を上げ下げした。
……ああ、自分の魔力を確かめているんだ。
「うわあああああ! う、嘘だ。ない! わ……たしの、魔力が! ないッ!」
ソノワは両手を強く握りしめたかと思うと、辺りに響き渡るような絶叫を上げた。
テオは眉一つ動かさない。何人も騎士たちが遠くから走って来る。駆け付けた騎士の一人が俺の体を助け起こした。
「ドゥエはいるか!」
「はっ!」
「ソノワを連れていけ。もはや魔力は失われた。騎士として役には立たぬ」
ドゥエと他の騎士が、座り込んだままのソノワを立ち上がらせる。ソノワは、誰も見ていなかった。何度も、無いと呟きながら自分の手を見つめ、ぶつぶつと何かを呟いている。時折叫び声を上げるソノワを引きずるように、テントの向こうに騎士たちが消えていく。その姿を目で追いながら、俺は言葉もなかった。
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