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63.二人の朝
しおりを挟むふっと目覚めた時には、温かい腕の中にいた。包み込まれるような心地よさに、一瞬、自分がどこにいるのかわからなくなる。テントの隙間からは冷えた朝の空気が流れ込んできた。夜明け前、空が白み始める時間を伝えてくる。
目を瞬いていると、逞しい腕が伸びて、自分をぎゅっと抱きしめた。
「おはよう、ユウ」
「……ジード」
ジードが唇に、ふわりと口づける。続けて頬や瞼にも続く。顔中に優しくキスをされて、思わず笑い出してしまった。
キスしすぎだろ! と体をよじると、逃がさないとでも言うように腕に力が籠もり追いかけてくる。ジードの方がずっと体が大きいんだから、俺が逃げられるわけがない。キスのおまけが続いた。
「ふ、ふふ。……くすぐったい」
「……夢じゃない」
「夢?」
「ユウを抱きしめる夢を何度も見た。……今日は本当にここにいる」
ジードが眩しそうに俺を見る。大きな手が俺の頬を撫で、とろけそうな顔で微笑む。嬉しくなって、俺も同じようにキスを返した。ジードの唇に、鼻に、瞼に。もっと、と思ってジードの首に手を回すと、綺麗な背中がびくりと震えた。
「……ユウ、そこまでにしてくれ」
「えっ?」
「もう起きないと……まずい」
顔を上げたジードが、頬を赤くして俺を軽く睨む。首を傾げると、ジードが黙って腰をすり寄せてきた。腿に硬くなったジードのものが当たり、俺は思わず手を離した。
「ご、ごめん」
「……うん」
俺たちは互いに顔を赤くしたまま起き上がった。俺の体は綺麗になっているし、部屋の中に乱れた様子はない。きょろきょろしていると、片づけておいたとジードが言う。俺が眠ってしまった後、魔力を使ってくれたらしい。
「昨夜のままじゃ、困ると思って。ユウの体にも、回復するよう力を注いだ」
「……あ、ありがと」
「いや、無理をさせてしまったから」
昨夜のことを思い出して、一気に頬が熱くなる。ふと、何かが頭をかすめた。
昨夜って、そういえば。何か、忘れてるような……?
「あっ! レト!!」
一体どんな顔をして会ったらいいのか。レトは昨夜、戻って来たんだろうか。
隠す必要はないけれど、昨日のことを考えたら流石に気まずくて恥ずかしい。二人で何となく黙ったまま、テントを出た。
たくさんのテントから少し離れたところに大きな焚火があり、その周りで食事をとるとジードが言う。食事の準備は騎士たちが交代で行うそうだ。焚火に近づくと、何人もの騎士が朝食用のお茶を飲んでいた。
「ユウ様!」
「……れ、レト!」
談笑している騎士たちの中にレトがいた。にこにことこちらを見ながら、手を挙げている。レトは俺たちの前に走って来て、ぺこんと頭を下げた。
「お二人とも、昨夜はすみませんでした」
「えっ?」
「ユウ様がお戻りになって気が緩んだのか、お邪魔した先でぐっすり寝てしまって。気がついたら朝になっていました。失礼しました」
「……う、うん」
「今、パンをいただいてきますね!」
朝食を受け取りに行ったレトに代わって、当番の騎士たちが俺たちにお茶を渡してくれる。ジードと並んで座り、熱いお茶を飲んだ。
「……ジード」
「……ああ」
……レトは、大人だ。
何もかも知って、きっと俺たちが気まずくないように気遣ってくれる。レトの優しさが胸の奥に静かに沁み渡る。朝一番のお茶と同じぐらい、俺たちの心を温めてくれた。
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