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55.ユウの餌付け
しおりを挟む魔林を蛇型の魔獣で移動するようになって、早くも五日が経った。俺は少しずつウーロに乗るのに慣れていった。俺たちを乗せてくれるウーロは、人との意思の疎通がしっかりできる。飛び蛇たちは温厚な性格のものが多くて、人の行動に合わせてくれるそうだ。初日に俺がダウンしてからは、ゾーエンの速度を落とせと言う要求も聞いてくれていた。
朝起きると、俺は樹上から下りて来たウーロにぽいっと、手元にあったものを投げた。ウーロがくわっと大きく口を開けてパクリと飲み込む。ごくんと丸飲みした後、蛍光グリーンの体がうっすらと黄色く光る。続けて二個投げると、ウーロはすぐに口を開け、次々に飲み込んだ。
「今朝のご飯は終わり!」
右手を上げると納得したように、少し太い木の枝に移動して巻きついている。ピカピカと黄色に光るので、居場所がわかって便利だ。ゾーエンが感心したように言う。
「……すごい。すっかり慣れましたね」
「まさかウーロが食べ物で手なずけられるとは思わなかったな。俺、生き物を飼うのは好きだったけど、蛇はよくわかんないし」
「魔力のある私たちは、迂闊にオルンのような植物魔獣には近寄れません。魔力がなければ意思は通じないと思っていました」
ウーロは果実を食べるけれど、好物なのはオルンのような茸の形の植物魔獣だ。飛行の合間に見つけると、まっしぐらに向かっていく。何度も急な動きに振り落とされそうになって、ゾーエンがぼやいた。
「食べ物をとる時以外は、ちゃんと話を聞いてくれるのに」
そうか、魔獣だって生き物なんだから腹を満たすために動く。それなら腹が減った時用に食べ物があればいいんだ。
「じゃあ、餌があればいいんだよね。ちょっと試してみたいことがある」
魔林にはあちこちに茸の魔獣がいた。平たい茸は、魔力のあるものを傘の部分の中央に投げ込むと、捕食するために縁がめくれて丸くなる。
洗面器ぐらいの平たい形の茸を見つけたので、ゾーエンに飛んでいた虫型の魔獣を捕まえてもらった。虫を傘の中央に落として様子を見ていると、すぐに縁がめくれて虫を包み込んだ。ぴたりと口が閉じてから、地表から伸びた茸の茎を切り落とす。そのまま開いてしまうかと思ったが、傘の部分は固く閉じたままだ。
「ウーロ! おいで!」
大きなボールのようになった茸を投げる。樹上からするりと下りた魔獣があっという間に茸を飲み込んだ。見る間に膨らんだ体が黄色く光る。
「何で黄色?」
「丸ごと魔獣の魔力を取り込んでいるからですね。消化されると、元の色に戻ります」
それから俺たちは、茸型魔獣を見つけてはウーロの餌にするようになった。ただし、ゾーエンのように魔力がある者が茸を持つと、魔獣の出す魔力に酔う。自然に、餌やりは俺の役目になった。何となくウーロは俺の言葉を聞いてくれている気がする。「ご飯だよ」「もう終わり」ぐらいなんだけど。
後、たまに長い舌でべろりと舐めるのは勘弁してほしい。食べられそうで怖いから。
ゾーエンから朝食用の果実を受け取って食べていると、小さな魔獣たちが何匹も近くを走っていく。
今日は朝から魔林の様子が変だった。昼型の魔獣たちは総じて陽が昇ると賑やかに活動を始め、夜型の魔獣は巣で休む。ところが、陽が昇っても魔獣たちの咆哮も戦う声も聞こえない。ざわざわと何かがずっと蠢めくような、落ち着かない空気の気配だけが伝わってくる。
「ねえ、ゾーエン。今日は何か変じゃない?」
「ええ、ユウ殿。空気がおかしいです。魔獣たちも、ごく小型のものしか動いていない」
ウーロの様子も変だった。食事の後、ゾーエンが呼びかけてもいないのに、木を上ったり下りたりしている。普段は食事や移動の時以外はまったりのんびりしているのに。
突然、空気がぐらりと揺れた。
「え?」
「ん?」
幾つもの魔獣の叫び声や咆哮が聞こえる。地を走る魔獣たちの数が一気に増えていく。
「ユウ殿! 地上は危険です。木の上に登りましょう!」
ゾーエンがウーロに一声かけると、ウーロが樹上から素早く下りてくる。俺たちを背に乗せて、一際太い木の上にするすると上った。頂上付近の枝に座れば、魔林が一望できる。
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