【騎士とスイーツ】異世界で菓子作りに励んだらイケメン騎士と仲良くなりました

尾高志咲/しさ

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53.魔林を飛ぶ

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 魔林を移動すると聞いた時に、俺の中では移動手段が浮かばなかった。自力で歩くか魔法での瞬間移動か、それとも何か移動するものを使うのか。

「こう言っては何ですが、ユウ殿には魔力がない。魔林では圧倒的に不利です。ここに長くいるべきではありません。そして、人を長距離移動させるような魔法は私たちの専門外です。第三に所属する者が持っているのは、主に攻撃に適した魔力ですからね」

 だから、魔獣を捕まえるのだとゾーエンは言った。俺たちは魔林から出るために、自力で移動手段を手にしなければならない。

「木々の間を飛び移っていくものを探しましょう。地上よりも危険が少ない。陽射しに反射するものがいたら教えてください」

 俺とゾーエンは背中合わせになって、同じように辺りの樹上を眺めた。じっと見ていると、木々の間にきらりと光るものがある。

「ゾーエン! あそこで何か光ってる!」
「おお! あの色はウーロだ! 丁度いい。ユウ殿、立ち上がって、出来るだけ端まで行って立ってください。落ちないように、絶対そこを動かないでください」

 俺は窪みになった場所から立ち上がって、言われたとおりに、ぎりぎりまで進んだ。あまりに高い場所で、もう感覚が麻痺している。急に後ろから熱のようなものが当てられた。体中が温かい光に包まれていく。

 その時だった。

 ものすごい速さで、きらきらした光の粒が動いていく。木から木へと飛び移り、まっしぐらにこちらへ向かうのが見えた。近づくにつれて形がはっきりしてきたが、見たことがある生き物だ。

 あれは、……蛇?

 しかも、ものすごい速さで飛び上がってくる。

 え? 

 蛇の真ん丸なオレンジの瞳とばっちり目が合った。ぱかり、と口が開く。俺の背丈ほども上下に開いた口が目の前にあった。

「ぎゃあああああ!!!」

 のまれた、と思った瞬間に、金色の光が走った。蛇が電気に打たれたように動きを止める。光に包まれ体を何度かくねらせたかと思うと、近くの太い枝にゆるゆると巻き付いていく。俺は尻もちをついた。腰が抜けたような状態になって動けない。

 何が起こったかさっぱりわからないでいると、よし! と嬉しそうな声が聞こえた。ゾーエンが、それはそれは満足そうな笑顔で俺の顔を覗き込む。

「ユウ殿! ご協力ありがとうございました! これで乗り物が確保できましたよ。ウーロに出会えるなんて運がいい」
「……これが、乗り物?」
「そうです。魔獣の中では大人しいし、こちらと簡単な意志が通じます。素早いので捕まえるのが難しいんですが、ユウ殿がオルンの上に落ちてくれたので助かりました」
「オルンって、あの茸みたいな魔獣」
「はい! オルンが表面に出していた魔力がユウ殿の体についていたので、それを増幅しました。ウーロはオルンが好物なんです」

 ああ、オルンの上に落ちて寝ていたからな。それって、俺はおとりっていうか、生餌いきえだったのでは……?

 ゾーエンが何やら蛇型魔獣の前に移動して意志を交わしている。俺の体から熱が消えたところを見ると、魔力の増幅は終わったのだろう。

 木の枝からすぐ目の前に、魔獣がくねくねと移動してくる。蛍光グリーンの平たい蛇だ。

「さあ、乗りますよ。ウーロがいれば、かなりの長距離を移動できますから」
「乗れって言われても、いったいこれのどこに……」
「首の少し後ろから背中のあたりに、ちょうど取っ手のように突き出た鱗があります。それをしっかり掴んでください」

 言われるままに、こわごわ魔獣の背にまたがる。肌はつるつるではなく結構硬い。4メートルぐらいある魔獣の背に、言われた通りの鱗を見つけた。両手でぎゅっと握ると、後ろにゾーエンが乗る。

「では、出発します。初めての人にはきついかもしれませんが、とにかく手を離さないで」

 頷いた途端にゾーエンの手から金色の光が流れる。蛇型魔獣ウーロが前方に顔を上げたかと思うと。

 空を、飛んだ。
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