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52.ピールの活躍

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「あ、あの! 魔林の中で二小隊が行方不明だって聞きました」
「何でそんな話を知っている?」

 ゾーエンの顔が急に険しくなった。そうだ、これは国王や王太子でなければ知るはずのないことだった。

「すみません。王太子殿下から聞きました。俺たちは王都から魔林に向かう途中だったんです」

 俺は自分たちが応援部隊と共に魔林に向かっていたことを話した。ゾーエンは黙って話を聞いた後に、深くため息をつく。

「それでは、貴方は異世界からの客人で、王太子殿下はただ今、馬車ごとミウドールにさらわれたままだと?」
「はい。テオたちがどうなったかは、わからないんです。俺は一人だけ馬車から落ちてしまったので」
「……オルンの上に落ちたのがよかったのか、よくぞ無事だったとしか言いようがない」
「あの……、部隊長?」
「ゾーエンで構いませんよ、客人殿。貴方は王宮で正式に迎えられた御方だ。正直、魔力もなく騎士でもない。この世界のことすらろくに知らない者が魔林に来るなんて、正気の沙汰とは思えませんが」

 きつく睨みつけられて、びくりと体が震えた。言われていることはもっともだ。最前線に立つ者から見たら、「来てみたかった」なんて言葉じゃすまないだろう。スフェンも同じことを言っていた。

「……ただ、貴方には返しきれないほどの恩がある」
「恩?」

 ゾーエンは頷き、腰に付けた小さな鞄の中から革袋を取り出した。中から取り出されたのは、見慣れた品だった。

「ピール!」

 大きな掌の上には、きらきらと輝くスロゥと緑のリュムがある。王都でレトたちと散々作り続けた品だった。

「ちゃんと届いてたんだ……」
「増産出来たからと大量に送られた物資が、私たちの命を繋いでいます」

 怒りを含んでいたゾーエンの瞳が柔らかくなる。王立研究所からの指示の通り、騎士たちは自分の魔力に合わせてピールを食べるように、各自工夫していたという。

「特に助かったのは、魔力が切れそうになった時です。魔獣との戦いで疲弊した時に、千切ったピールを口にして、なんとか生き延びた者は多い」
「そうなんだ……」

 以前、研究所でラダが言っていた。これは騎士たちの役に立つことが出来ると。本当に役に立ったよ、と王都に戻ったら教えなきゃ。

「魔林に入った者は皆、このピールを携帯しています。何とか駐留地まで戻ってくれればいいのだが」 
「あの! さっきの話なんだけど。知りたいことがあるんだ。ジ、ジード・センブルクは無事?」
「ジード? そういえば、客人とセンブルクが親しいと聞いたことがあります。あれは本当だったのですね」

 俺がこくこくと頷くと、部隊長の眉がひそめられた。

「センブルクとは連絡が取れていません」
「そんな……」

 待ってくれ。テオが言っていたのはいつだった? こんなところで、何週間も前から行方が知れないってことなのか?
 辺りを見れば、どこまでも緑が広がっている。今座っているのと同じような木が何本も生えているが、大半はもっと下の方にあった。木々の間を飛んでいく魔獣たちには大きいものも小さいものもいて、あちこちから咆哮のような声が上がる。

「ジ、ジードは! もう……魔獣に?」

 ドクドクと胸の音が早くなって、目の奥が熱くなる。

「ちょっと! 客人殿、誤解しないでください。センブルクは最初に魔林の中でいなくなった二小隊には入っていません。彼は私の直属の部下です。私たちが魔林に入ったのは三日前で、バズアが最も繁殖しているとわかった場所に行く途中でした。突然、バズアを餌にしている魔獣の群れに出くわしてバラバラに逃げたんです」
「じゃあ、まだ……」
「ええ、簡単に殺さないでください! 私たちは常日頃から魔獣相手に戦っている。そう簡単にやられはしませんよ。……ただ、今の魔林は以前とは違いすぎる。確かに何が起きてもおかしくはない」

 俺はゾーエンの言葉に頷いていた、そうだ、簡単にジードが死ぬはずがない。この魔林の中で、見たこともないものを見すぎて、俺の感覚はだいぶおかしくなっている。

 ゾーエンが第三騎士団の駐留地に帰還すると言うので、俺も一緒に行くことになった。完全に足手まといなのに、気にするなと言ってくれる。

「貴方を置いていけるわけがない。魔林は夜の方が危険です。出来るだけ昼間に移動しますよ」
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