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50.蜂型魔獣、来襲
しおりを挟むブゥウウウンと、まるで飛行機が間近で飛んでいるような音がする。こちらに来てから、こんな音は聞いたことがない。窓の外が暗く陰ったと思った時だった。
ガタン! と大きく馬車が揺れた。俺とレトは弾みで馬車の中の壁に叩きつけられた。痛みに呻きながら何とか目を開けると、座った姿勢のままのテオの体が銀色に光り輝いている。
「……まずい」
テオが小さく呟き、じっと窓の外を見ている。そこにブゥン! と、更に大きな音が聞こえる。もう一度ぐらぐらと馬車が揺れたかと思うと、興奮した馬の嘶きが聞こえた。
テオの体から大きな光が溢れて、俺たち三人を包み込む。
「あれはミウドールだ! このままでは、馬車ごと巣に運ばれてしまう」
「ミウドールって?」
「蜂型の魔獣だ。飛びながら狙った獲物を狩って自分の巣に運び、餌にする」
「ひっ!」
「二人とも、しっかり手を繋いで! ユウ、私の手を取って」
俺はレトと手を繋ぎ、もう片方の手で差し出されたテオの手を掴んだ。俺を中心に三人で手を繋いだ状態になった途端、体がふわりと浮いた。馬車は大きく傾き続け、俺たちの体だけが、馬車の中でまっすぐに浮き上がっている。
「これ、どうなってるの?」
「私の魔力で何とか均衡をとっている。おそらくミウドールは、馬たちを掴み上げて飛んでいる最中だろう。彼らは私たちのことは目に入っていない。馬を卵の餌にするつもりなんだ。それに、馬車は馬にぶら下がっている状態だから、いつ落ちてもおかしくない」
テオが話している間にも、大きく馬車が揺れた。扉がバタンと開いたかと思うと、突風のような風が吹きこんでくる。思わずよろけた瞬間、風にあおられた俺の手がテオからつるりと離れた。開いた扉に向かって体が一気に流されていく。
「ユウッ!」
「ユウ様あ!!」
必死でレトが手を握り続けてくれたけれど、吹き込む風の勢いが強すぎる。あっと思った時には手が離れ、俺の体は扉の外に投げ出された。
うわ、すっごい。
風が吹いて、一瞬ふわりと体が浮き上がる。
頭の上には、大きな蜂みたいな魔獣が足に二頭の馬を掴んだまま飛んでいる。そこから垂れ下がっているのは、箱みたいな馬車だ。小さな窓からレトが泣き叫んでいるのが見えた。テオが後ろでレトを掴んでいる。
レト! と言おうとした途端、俺の体は急速に下降し始めた。
何だっけ? こんなの遊園地にあったよな。ああ、そうだ。バンジージャンプ!
でもここには命綱なんてものはない。テオもレトもいないのに、落ちたら――――!
「うわああああああ!!!!!」
視界がぐるりと回って真下に広がっているのは、どこまでも続く緑だ。あれが魔林なら、すぐ近くまで来ていたってことになる。
こんな近くまで来ていたのに、ジードに会うことも出来ずに死ぬなんて嫌だ。
――……女神様。もう一度ジードに会わせてください。
たった一つのことを祈りながら、俺は緑の只中に落ちていった。
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