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44.魔獣バズア
しおりを挟む「エリク────ッ!!」
俺がまっしぐらに走って行くと、エリクは破顔した。エリクの前で立ち止まると、力強く手を握ってくれる。
「エリク、え、りく……」
「ユウ様、出発前は誰でも不安になるものです。ご安心ください。これからは私たちがおります」
エリクの言葉に、じわっと涙が浮かぶ。エリクがいてくれたら大丈夫だ。わらわらと第一騎士団の騎士たちが俺たちの周りに集まってくる。
「そうですよ、ユウ様! 何しろ部隊長はこの応援に参加するために、連日、団長たちと揉めまくって……」
「あっ! バカ!」
ばちっと鋭い光が騎士たちの間で炸裂した。小さな花火が爆発したみたいな光だ。
「ひえッ」
「静かにしろ。ユウ様がびっくりなさるだろう」
エリクの言葉に、俺の涙も騎士たちの言葉も引っ込んだ。
応援部隊はエリクが隊長となって率いることになった。出発までに騎士団を数回訪ねても会えなかったのは、今回の準備に忙殺されていたらしい。俺やレトと王太子殿下は馬車に乗り込み、騎士たちに囲まれて出発した。
「ところで、ユウ殿。私のことはテオと呼んでくれ」
「テオ……様?」
「いや、呼び捨てで構わない」
「それは……不敬ってやつじゃないの?」
馬車の中でいきなり切り出されて、俺は動揺した。馬車の中にいるのは、俺と王太子殿下とレトだけだ。レトは俺の世話人なので馬車の同乗が許されている。しかし、まるで置物のように黙りこくっていた。
「私が良いというのだから、構わない。それより、私もユウと呼んでいいだろうか?」
「それは全然構わないけど」
殿下……いや、テオは嬉しそうだ。王太子なんて偉い人は、なかなか名前で呼び合うなんてことないのだろう。
南部までは宿屋に泊まりながら10日ほどかかるという。その間に、俺は魔獣について学ぶことにした。
レトに尋ねていると、向かい側で本を読んでいたテオが一緒に教えてくれた。テオは、びっくりするほど博学だ。言葉だけではイメージ出来ない俺のために、手の中に実際の魔獣を浮かび上がらせてくれる。
「まずは、今回大繁殖しているバズア」
テオの右手から淡い光が出たかと思うと、目の前に小さな魔獣が現れた。
鮮やかな緑の葉に真っ赤な花。花びらには黄色の斑点がついていて毒々しい。花の真ん中は、ぽかりと空洞になっていた。
「この中心は、餌を取り入れる口だ。奥に魔獣の命ともいえる核がある。バズアは核を潰せば死ぬが、潰さなければ再び再生する。ただし、核を潰そうと迂闊に近づけば麻痺毒のある体液をかけられ、触手に絡め取られて餌にされてしまう」
しかも、植物魔獣のバズアは自分の種を撒き散らし、どんどん増えることができる。
「こんなのがいっぱいいるの……?」
テオが頷くと光の中の画像が変わった。バズアがわさわさと増えて、蔓状の触手がうごめいている。
「ぎゃっ!!」
隣に座っていたレトと一緒に飛び上がる。
「あまりに増えると魔林の均衡が崩れかねないが、大抵は他の魔獣に食べられてしまうので問題にはならない」
「ああ、それで、今度は他の魔獣が増えちゃうのか」
「そうだ。バズアは魔力が高いからな。他の魔獣が分裂して増えたり、巨大化したりするんだ」
「ひええ……」
魔力が高いってことは、つまり食べ物として高カロリーだってこと? しかし、こんなのが食べたり食べられたりしてるところに行くのか……。
「あの、さ。テオ、第三騎士団はどんな状況か知ってる?」
ジードからの手紙は届かず、どこからもはっきりした情報は入ってこなかった。でも、王様やテオなら知っているのかもしれない。
テオの眉が曇り、藍色の瞳が僅かに伏せられた。
……胸の奥から押し寄せる、この不安な感じは何だろう。
「第三騎士団についていった魔術師から、王宮には逐一報告が届いている。あまり良い状況とは言えない」
「いい状況じゃないって……」
「行方不明になった小隊がある」
──行方不明?
「それって」
「魔林の中で消息を絶っている。現地でも必死に探しているところだ」
ジードだって決まったわけじゃない。そうだ、まだわからない。
「ユウ?」
「誰がいなくなったのかは……」
「まだ報告が上がってきていない」
そうだ、落ち着け、落ち着くんだ。
頭のどこかで冷静な声が響くのに、俺の耳はテオの言葉をうまく聞き取ることが出来なかった。
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