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38.王太子との出会い
しおりを挟む言葉は静かだけれど、何だか空気が重い。まるで猛獣同士が威嚇し合ってるみたいだ。俺は猛獣使いではないので、さっさとこんな緊迫した空気から逃げ出したい。
「王太子殿下と客人の御出ましにございます。皆様、温かい拍手を!」
え? おう……たいし? ちょっと待って。
国王一家とは前に挨拶も会食もしたけど、銀髪に藍色の瞳なんか見かけなかった。皆、金髪に青い瞳の一族だったはずだ。
宰相の言葉に、すぐさま万雷の拍手が湧き起こる。
混乱して頭の中が真っ白になっていると、ぱっとレトの言葉が浮かんだ。
『ユウ様、いいですか? 身分が上の方に、こちらから話しかけたり質問したりはだめですよー!』
レトが金魚みたいにパクパクしてたわけがわかった。
ごめん、レト。せっかく教えてもらったのに、だめだって言われたことばかりしてたよ……。
衝撃で固くなっている俺の隣で、王太子殿下は美しい微笑みを浮かべている。
国王陛下が、ゆっくりと立ちあがる。見事な体格の陛下は、豪華な服の上からでも筋骨隆々としてるのがわかる。元々は力自慢の第二王子で騎士団を率いていたが、兄王が病で亡くなり、代わりに王位に就いたと聞いた。
「南部で多く発生した魔獣たちの討伐に際し、客人の作り出した食物が騎士たちを大いに助けたと聞く。誠に喜ばしい。客人の叡智とたゆまぬ努力に深く感謝する」
「あ、ありがとうございます」
陛下の視線はとても温かい。
「客人と共に力を尽くした者たちも、大儀であった」
威厳に満ちた言葉に、後ろに並んでいたラダやレトにゼノ、研究所の所長が涙ぐんでいる。まるで、部活でコンクール入賞した時みたいだ。
今夜のメインである表彰が済むと、どっと力が抜けた。
……もう俺、帰ってもいいかな。そろそろ限界なんだけど。
ラダやレトたちはあっという間にたくさんの人々に囲まれているが、俺のところには誰も来ない。それはどうやら、ぴたりと離れずに隣に立っている人物のせいらしい。貴族たちからは興味津々と言った視線を感じるのに、遠巻きにされているだけだった。
俺より20センチは背の高い王太子殿下を見上げると、銀色の長い睫毛が揺れる。
「何か聞きたいことがありそうだな」
「いえ、今までお会いしたことがないなと思って。それに、王族の方たちは皆、金髪に青い瞳だと思っていました」
「違いない。私は王族には異質な外観と、少々変わった魔力を持っている。だから、あまり外には出ないようにしているんだ。揺れでやって来た客人の話は聞いていたけれど、会うのは今日が初めてだな」
……王太子なのに人前に出ないんて。よっぽど特別な力なのかな。
「ただ、この力は魔力のない者にはきかない」
「じゃあ、同じですね」
「同じ?」
「元々魔力のない俺と、魔力が俺にきかない殿下なら、二人とも何もないから一緒かなって。……あっ! ロワグロ!!」
殿下の後ろの長いテーブルには、山ほどの御馳走が並んでいる。段々になった皿の一番上に、高級食材であるロワグロが見えた。公爵家に招かれた時以来だ。
「さすが、王様の夜会……! あのロワグロが、山ほどあるなんて!!」
ふらふらと近づいていくと、真珠色に輝くフルーツが、銀皿に宝石のように並んでいる。他にもこんがり焼かれた肉や魚がふんだんにある。脇に控えた給仕係に向かって、思わず叫んだ。
「すみません、ロワグロください! あと、そっちの肉も!」
俺の言葉に給仕係は頷き、次々に皿に盛ってくれる。
疲れた時には、甘いものが一番だ。
幸せな気持ちで振り返ると、呆然と俺を見ている王太子殿下がいた。
「あ、すみません。つい夢中になって」
「……客人殿は、ロワグロが好物なのか?」
「え? いえ、食べられるときに食べておこうと思って。高級品はそうそう食べられないし」
砂糖やスイーツのない世界では、甘いものは貴重だ。ましてやロワグロは貴族のフルーツ! もう二度とお目にかかれないかもしれない。
「殿下も食べませんか? お腹すいたし」
「そう、だな。客人殿が……、そう言うのなら」
俺はその晩、殿下と一緒に隣の部屋に用意されたテーブル席に移動して、山盛りのロワグロを平らげた。
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