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33.ユウのアルバイト
しおりを挟む王立研究所でバイトの日々が始まった。給料の相場がよくわからないので、レトが俺の代理人としてラダと話し合ってくれた。
「レト、何から何までありがとう」
「いえ、お気になさらず。ユウ様がこちらで暮らすのに御不自由がないようお手伝いするのが私の役目ですから。それに、ユウ様と作ったピールの今後が楽しみです」
客人の様子は定期的に宰相に報告義務がある。今回の仕事の経緯を話してきます! とレトは忙しそうだ。
俺は朝起きて食事をした後に研究所に向かう。レトはゼノと一緒に研究所に来て、俺の助手を務めてくれる。
主任のラダは材料と場所を確保してくれた。彼はとても研究熱心で、ゼノに魔石オーブンは増産できるかと尋ねた。
「試作品は出来上がっていますので、作ることは可能です。問題は材料の魔石の確保と予算ですね」
「出来れば、もう2、3台はあったほうがいいだろう。天日干しと、そのオーブンで作ったものと、どちらが効果が高いのかも調べてみたい」
ラダのやる気は素晴らしいと思うけれど、まずは再現だ。
「あのさ、ピールは偶然の産物みたいなものなんだ。レシピはあるけど、安定して作れるのかどうかは、やってみないとわからない。まずは作ってみてからだ」
俺の言葉に、ラダははっとしたように頷いた。
ピール作りが始まると、連日、文化祭間近の部活なみの忙しさだった。
計量して作って、記録して。また計量して、作って、記録する。
ラダは俺が頼んだものをすぐに手配して、作っている様子と出来たものををつぶさに観察しては、全てを一つのデータにまとめていく。
「つ……かれ……た」
「大丈夫ですか? ユウ様。あまり無理をなさらないでくださいね」
「うん。でも、早く完成したら、ジードたちのところまで運んでもらえるかなって」
「ああ、ラダ殿が言っておられましたね」
ここで初めて出来上がったピールを見て、魔力分析に走ったラダが言ったのだ。
これは、騎士団にとって大変な力になります、と。上機嫌のラダは、とんでもないことまで口にした。
「ユウ様さえよければ、うちでずっと働くのはいかがでしょう?」
きらきらした瞳に騙されてはいけない。この目には覚えがある。高校の部活で、うっかりいいよと安請け合いしたら、めちゃくちゃ働かされたことを思い出す。
「いや、俺は菓子を作りたいんであって、魔力を増強する食べ物を作りたいわけじゃないから」
「このピールなら、どちらも狙えますよ! 美味しくて魔力増強!!」
どっかの健康食品の宣伝か。
俺とレトはラダを無視して、せっせと果実の皮を剥いた。一石二鳥を狙えるなら、そんないいことはないけど、うまい話はそうそうない。
「ユウ様、今日はこの辺にしましょう。夕飯はどうされます?」
「それが、あんまりお腹減ってないんだよ。味見ばっかりしてるから」
「ああ……」
最近困っているのは味見だ。この世界の人には魔力があるから、下手に頼むことが出来ない。魔力のない俺ならいいかと食べ続けていたら、段々、味がわからなくなってきた。
ふと、ピールを食べた後のジードの姿が浮かんで頬が熱くなる。
……色っぽかったな、ジード。
俺は、ぶんぶんと首を振った。
いけないいけない、余計なことを考えてる場合じゃない。
「うーん、難しいとは思うんだけどさ。誰か食べ物の魔力が影響しないタイプって、いないかなあ……」
「そうですねえ。少量なら問題ないんですよね」
「食べてもすぐに力を放出できればいいんだけど……。誰か……、あっ!」
――――いた!!!
「いたぁ! すぐ近くに!」
レトとラダが目を丸くする。
「騎士たちだよ! 少し食べて、実際に戦ってもらえばいいんだ!」
「……あっ!」
レトが椅子から立ち上がる。
「第一騎士団ですね!」
「そうだよ! エリクたちに頼もう!」
騎士たちには、試食後すぐに模擬試合をしてもらえばいい。騎士たちが稽古を重ねる騎士棟は、研究所からは目と鼻の先だ。ラダはすぐに第一騎士団に連絡を取ってくれた。
「エリクー!」
「ユウ様!」
騎士団の受付の前に、きらきらと爽やかなイケメンが立っている。俺が走っていくと、満面の笑みで迎えてくれた。
「ユウ様、お元気そうで何よりです。最近はお顔を見る機会が少なくて寂しい毎日でした。お声を掛けていただければ、こちらからいくらでも伺いましたのに」
……ああ、爽やかさだけでなく、優しさが心に沁みる。
女神様はイケメンに、二物どころか山ほどのプレゼントを与えたんだな。
「頼むのはこちらだから、エリクが気にする必要なんかないよ。今回は本当にありがとう! みんな協力してくれるの?」
「もちろんですよ。さっきから、ユウ様に会いたくてうずうずしてる奴らばかりですからね」
エリクがちらりと後ろを見れば、体の大きな騎士たちが整列している姿が見えた。小さく手を振ってくれた騎士がいたので大きく振り返すと、あっという間に全員が我先にと手を振り返してくれる。
ユウ様ー! と笑顔で叫ぶ騎士たちは、何だか大型犬が揃って尻尾を振ってるみたいだ。
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