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25.想定外の作用 ※
しおりを挟むすぐ目の前に厚い胸板がある。まるで走り終えたばかりの選手のように、ジードの体は熱く火照っていた。太く逞しい腕に力が籠もって、俺は胸の中にしっかり抱き込まれている。
「ジ、ジード? どうした?」
「す、すまな……ユウ……」
はあ、はあとジードの熱く乱れた息が、すぐ頭の上にあった。顔を上げれば苦し気な表情の中の碧の瞳と目が合う。
ジードの肌には細かな汗がびっしりと浮かんでいる。手を伸ばして指先が触れた途端、ジードの眉間にぐっと皺が寄った。奥歯を噛み締めている様子に、俺は慌てた。
……何で? 具合が悪いのか?
「ジード? 苦しい? 俺、今すぐ、誰か呼んでくる!」
「……めだ。ユ……ウ……」
目の前がふっと暗くなった。
……えっ。
ジードの右手が俺の後頭部に回ってぐっと強い力が入る。鼻先が触れそうだと思った途端、俺の唇は、熱い唇で塞がれていた。
なに?
少し乾いた唇は柔らかくて、思わず、頬がかっと熱くなる。
動揺しているうちに開いた口の隙間から舌が入ってきた。ジードの舌はあっと言う間に俺の舌を絡めて吸い上げる。口の中に唾液がたまり、思わずごくりと飲み込めば、体がびくりと跳ねた。
……なんだ、これ。
ドクン、といきなり心臓が跳ねる。唾液には舌に残るような不思議な甘みがあった。
心臓が激しく脈打って、体が一気に熱くなる。うまく力が入らずに、がくがくと膝が震えた。あっと思った時には、ジードは俺の体を抱き上げてソファーにそっと横たえた。革張りのソファーに全身がふわりと沈みこむ。
横になった体の上に、ジードがゆっくりと覆いかぶさってくる。
「……っ、は……あ、ジード……」
「ユウッ!」
お互いの息遣いだけが、部屋の中に響いていく。ジードの両手が俺の手首を握りしめて、ゆっくりとソファーに押し付けた。ぎしりとソファーがジードの重みできしむ。
唇がもう一度重なると、頭の中のどこかがドロリと溶けていく。ジードの舌は、俺の歯の一つ一つを丁寧に辿った。上顎の内側を丁寧になぞられると背中がぞくぞくする。口の中に溜まった唾液が、何でこんなに甘く感じるんだろう。夢中で飲み込むと体がじわじわと熱くなって、酒に酔ったようにふわふわする。
キスって、こんなに気持ちよかったっけ?
ふっと唇が離される。少しだけ体と体の距離が開いて、ジードが体を起こそうとした。自分を見る瞳が、何かを必死で堪えているのがわかる。普段だったら、ジードが何を耐えているのか少しでもわかろうとしたはずなのに。
……それなのに。
頭の芯がまるで溶けてしまったように判断力の落ちた俺は、ジードの心を汲み取ることが出来なかった。
俺は、自分からジードの唇に手を伸ばした。ジードの体が、びくりと揺れる。
「……ジード」
「ユ、ユウ……」
ジードの唇をそっと右手の人差し指で撫でた。
「ユウ、やめ……!」
ジードが必死で、俺から体を離そうとする。
……嫌だ、離れたくない。
今、体を離してしまうのは、とても寂しい。ジードの首に手を回して、ずっと縋りついていたい。
ジードが、俺の手を取った。握られた手がとても熱い。離さないでほしい、と強く思った。
「ジード。離れ……、ないで」
「……ッ」
ジードの息が、荒く上下を繰り返す。
「ユウ、これ以上触れたら、俺は……。ユウを、傷つける。だから、もう……だめだ」
「……傷つける?」
俺は、思わず笑った。ジードが、そんなことをするはずがない。
「ジードは……、そんな、こと……しない」
「そんなことを……しない? ユウ、お前の目には、俺は……どう、映って……?」
「だって……ジードは騎士で。誰にでも、親切……で」
ジードが大きく息を吐いて、首を振る。
「そんな……わけがない。……き……なやつを前にして」
えっ? と思った時には、ジードの瞳がすぐ目の前にあった。
ああ、綺麗だなと思う。そうだ、初めて見た時から綺麗だと思っていた。魔獣から助けてくれたあの時から。
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