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22.ピールの効能
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「あれ、エリク!」
「どうしてこちらに? 何か御用ですか?」
第一騎士団第一部隊の部隊長であるエリクが、満面の笑顔で俺の前に立った。ああ、かっこいいな、とうっとりする。俺は、そうだ! と手持ちの籠を差し出した。
「エリク! 実はスロゥとリュムでスイーツを作ってみたんだ。スイーツって言っても、戦場で食べてもらえればと思って作ったものなんだけど。まずはエリクに味見してもらえたら嬉しい」
「ああ! 先日ユウ様が取り組んでらしたものですね。へえ! これは綺麗だ」
エリクは、ピールを見て目を輝かせた。「では、早速」と言って籠の中のピールをつまむ。スロゥを先に、その後はリュムをゆっくり噛み締めた。
「美味しいです! ユウ様! ……それに、不思議ですね。何か力が身の内から湧いてくるような気が致します」
「ほんと? よかったら、もっと食べて」
「よろしいのですか?」
「うん! 昨日出来上がったばかりなんだ」
エリクが嬉しそうに、ピールを続けて食べようとした時だった。さっと大きな影が目の前に幾つも現れた。
「部隊長っ! 自分もご相伴にあずかりたいです!!」
「自分もですッ!」
俺とエリクの周りには、いつの間にか見上げるほどデカい男たちが集まっていた。前に見たような顔もある。見下ろされて怖かったけれど、皆、興味津々といった顔で覗き込んでくる。何だかその瞳は、家政部の部員たちが、出来上がったばかりの新作を初めて見る時の瞳に似ていた。期待でワクワクする瞳。俺は、懐かしくなって、手に持った籠を差し出した。
「あ、あの……。これ、口に合うかわからないけど。よかったら、どうぞ」
心臓がバクバクして飛び出そうだったけれど、ぱあっと明るい笑顔が幾つも目の前に広がる。
「やった!」
「いただきます!!」
「あッ、お前たち! 勝手にッ……」
エリクが慌てているうちに、籠の中のピールが次々に消えていく。さっと手が伸びてくるので、エリクが俺を庇うように前に立ち塞がった。
俺の手から籠を取り上げて、エリクが号令をかけると、騎士たちはあっという間に整列する。彼らは大人しく並び、エリクが持った籠の中からピールをつまんで口に入れる。大きな体の騎士たちが、わずかなピールを大人しく口にいれていく様は何とも不思議だった。籠の中は、あっという間に空っぽだ。
「す、少ししかなくてごめん。それ、試作品なんだ。よかったら感想を聞かせてください」
ピールを口にした後、騎士たちは甘いとか美味いとか口にしていたが、やがて一斉に顔を見合わせた。
「客人殿、この食べ物には何か、魔力を宿らせておりますか?」
「えっ? いや、何も?」
「……そうですか。いや、何か、不思議なのです。こう、体の中から力が湧き上がるような」
「そうです。体の端々にまで、力がみなぎっていくような気がします」
騎士たちが興奮したように言葉を繰り返す。エリクが空の籠を持って、神妙な顔をしながら俺の元に来た。
「ユウ様、誠に不思議ですが、私も皆と同じことを思っております。口にして少しすると、体の中にまるで火が巡るような……不思議な力と高揚感が訪れます」
「そ、そうなんだ。ごめん、俺も味見したけどよくわからなくて。昨日食べたはずのレトとゼノは今日会えてないし。もし、この後何か体調に変化があったら教えてくれないかな」
「ユウ様のお役に立つとあれば……! このエリク・ザウアー、すぐにお知らせ申し上げます」
エリクが俺の手を取って、そっと指先に口づけた。いつもの清々しい笑みではなく、どこか色っぽさが宿る目つきにひっ! と怯えた。
わっと騎士たちが盛り上がっているが、俺は慌てて手を引っ込めた。ふふ、とエリクが口元に笑みを浮かべたまま、俺に聞いた。
「ところでユウ様、今日はどんな御用で? こちらをお届けくださるためにいらしたのですか?」
「え。それもあるけど、ジードにもピールが渡したかったんだ。もうじき、辺境に旅立ってしまうから」
「ああ、成程。センブルクですね。それでは第三騎士団までご案内致しましょう」
「ほんと? 助かるよ、エリク! ありがとう」
エリクに促されて歩き始めると、騎士たちが大きな声で礼を言ってくれた。俺が振り返ってぺこりと頭を下げると歓声が上がる。
……喜ばれてよかった。また頑張って作ろう。
胸にじわりと広がる嬉しさに何だか泣きそうになりながら、俺はエリクの後を追った。
「どうしてこちらに? 何か御用ですか?」
第一騎士団第一部隊の部隊長であるエリクが、満面の笑顔で俺の前に立った。ああ、かっこいいな、とうっとりする。俺は、そうだ! と手持ちの籠を差し出した。
「エリク! 実はスロゥとリュムでスイーツを作ってみたんだ。スイーツって言っても、戦場で食べてもらえればと思って作ったものなんだけど。まずはエリクに味見してもらえたら嬉しい」
「ああ! 先日ユウ様が取り組んでらしたものですね。へえ! これは綺麗だ」
エリクは、ピールを見て目を輝かせた。「では、早速」と言って籠の中のピールをつまむ。スロゥを先に、その後はリュムをゆっくり噛み締めた。
「美味しいです! ユウ様! ……それに、不思議ですね。何か力が身の内から湧いてくるような気が致します」
「ほんと? よかったら、もっと食べて」
「よろしいのですか?」
「うん! 昨日出来上がったばかりなんだ」
エリクが嬉しそうに、ピールを続けて食べようとした時だった。さっと大きな影が目の前に幾つも現れた。
「部隊長っ! 自分もご相伴にあずかりたいです!!」
「自分もですッ!」
俺とエリクの周りには、いつの間にか見上げるほどデカい男たちが集まっていた。前に見たような顔もある。見下ろされて怖かったけれど、皆、興味津々といった顔で覗き込んでくる。何だかその瞳は、家政部の部員たちが、出来上がったばかりの新作を初めて見る時の瞳に似ていた。期待でワクワクする瞳。俺は、懐かしくなって、手に持った籠を差し出した。
「あ、あの……。これ、口に合うかわからないけど。よかったら、どうぞ」
心臓がバクバクして飛び出そうだったけれど、ぱあっと明るい笑顔が幾つも目の前に広がる。
「やった!」
「いただきます!!」
「あッ、お前たち! 勝手にッ……」
エリクが慌てているうちに、籠の中のピールが次々に消えていく。さっと手が伸びてくるので、エリクが俺を庇うように前に立ち塞がった。
俺の手から籠を取り上げて、エリクが号令をかけると、騎士たちはあっという間に整列する。彼らは大人しく並び、エリクが持った籠の中からピールをつまんで口に入れる。大きな体の騎士たちが、わずかなピールを大人しく口にいれていく様は何とも不思議だった。籠の中は、あっという間に空っぽだ。
「す、少ししかなくてごめん。それ、試作品なんだ。よかったら感想を聞かせてください」
ピールを口にした後、騎士たちは甘いとか美味いとか口にしていたが、やがて一斉に顔を見合わせた。
「客人殿、この食べ物には何か、魔力を宿らせておりますか?」
「えっ? いや、何も?」
「……そうですか。いや、何か、不思議なのです。こう、体の中から力が湧き上がるような」
「そうです。体の端々にまで、力がみなぎっていくような気がします」
騎士たちが興奮したように言葉を繰り返す。エリクが空の籠を持って、神妙な顔をしながら俺の元に来た。
「ユウ様、誠に不思議ですが、私も皆と同じことを思っております。口にして少しすると、体の中にまるで火が巡るような……不思議な力と高揚感が訪れます」
「そ、そうなんだ。ごめん、俺も味見したけどよくわからなくて。昨日食べたはずのレトとゼノは今日会えてないし。もし、この後何か体調に変化があったら教えてくれないかな」
「ユウ様のお役に立つとあれば……! このエリク・ザウアー、すぐにお知らせ申し上げます」
エリクが俺の手を取って、そっと指先に口づけた。いつもの清々しい笑みではなく、どこか色っぽさが宿る目つきにひっ! と怯えた。
わっと騎士たちが盛り上がっているが、俺は慌てて手を引っ込めた。ふふ、とエリクが口元に笑みを浮かべたまま、俺に聞いた。
「ところでユウ様、今日はどんな御用で? こちらをお届けくださるためにいらしたのですか?」
「え。それもあるけど、ジードにもピールが渡したかったんだ。もうじき、辺境に旅立ってしまうから」
「ああ、成程。センブルクですね。それでは第三騎士団までご案内致しましょう」
「ほんと? 助かるよ、エリク! ありがとう」
エリクに促されて歩き始めると、騎士たちが大きな声で礼を言ってくれた。俺が振り返ってぺこりと頭を下げると歓声が上がる。
……喜ばれてよかった。また頑張って作ろう。
胸にじわりと広がる嬉しさに何だか泣きそうになりながら、俺はエリクの後を追った。
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