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21.体調不良?
しおりを挟む翌朝は、いつもよりもずっと早く目が覚めた。
俺は嬉しくてたまらなかった。レトとゼノのおかげで、ようやくジードに皮の蜜煮を渡すことが出来る。ジードは喜んでくれるだろうか。いや、まずは謝るところからだ。ひどい言葉を言ってしまったのだから、仲直りができればそれでいい。
テーブルの上で艶々と輝くピールを見て、ほっと息をつく。幻じゃなくて良かった。ショーウインドーに飾ったらぱっと人目を引きそうな輝きだった。チョコでコーティングが出来たら、元の世界でも売り物になりそう。
植物から紙を作る技術はこちらの世界でも発達している。元の世界のような多様なラッピングは出来ないけれど、俺はピールを丁寧に薄紙で包んだ。それぞれに細いリボンで縛り、二つを巾着になった革袋に入れた。
長期保存するなら、密閉して更に魔石で加工した方がいいのだろう。でも、今回は贈り物だ。ジードが受け取ってくれたら、それで十分だった。
さすがにジードはもう、実家から騎士団に戻っているのかな。……許嫁にも、出発を告げたのだろうか。
胸の奥がズキンと痛んだ。この気持ちの先にあるものを考えることは止めた。これ以上考えていたら、また余計なことを言ってしまいそうだから。
魔石を使ってお湯を沸かし、簡単な朝食をとった。パンにサグのクリームとスロゥのジャム、お茶を淹れて一息つく。卵料理ぐらい添えたいけど、こちらの卵は気軽に使えないのが残念だ。
俺はこちらで暮らすうちに、簡単な魔石の使い方を覚えた。こちらの世界でも、皆が皆、魔力を自在に使えるわけじゃない。魔力の少ない者や足りない分は、力の塊である魔石で補うのだ。
異世界人は従者をつけてもらうのが一般的らしいが、俺は貴族でも小さな子どもでもない。自分のことは自分でしたいと言ったら、レトが派遣された。レトにはずっと助けてもらってきたと感謝でいっぱいになった。
朝食を終えて、いつもの時間になってもレトが来ない。どうしたんだろう。最近は午前から一緒に料理につき合ってくれていた。時間に正確で、遅れたことのないレトだ。首を傾げていると、コンコン、とドアがノックされた。
ドアを開ければ、金髪の可愛らしい少年がぺこりとお辞儀をする。
「伝達に参りました。レト様は、本日体調不良で伺えないとのことです」
「えっ? た、体調不良って、どこが悪いの? ……まさか、食べ物とか」
自分で言った言葉に、息が止まりそうになった。
……待て待て待て。
昨夜、レトとゼノにはピールを土産に渡してある。もしかして、二人で食中毒なんてことになったらどうしよう。味と効能ばかり考えて、実際に食べてみてどうだったかの検証はまだ出来ていない。普段食べられている果実だから、加工しても特に問題はないと考えていた。一気に緊張で汗が噴き出す。
「食? いいえ、食べ物ではないようです。何でも、腰痛だとか」
「腰痛?」
「はい、レト様には、ご伴侶のゼノ様がついておられます。本日はお二人ともこちらにはいらっしゃいません。大変申し訳ないとのことです」
「あ、ありがとう。レトにお大事に、って伝えてくれる? ゆっくり休んでほしいって」
伝達役の少年は元気よく返事をして去っていった。
思わず大きく息をついた。レトには悪いが、体調不良の原因がピールではなくて、ほっとする。このところずっと一緒にピールを作り続けていた。レトも知らず知らず疲れがたまっていたのかもしれない。
「レト、ごめん。いつもたくさん働いてもらってたから……。ゼノがいるなら、大丈夫かな」
俺は騎士棟に向かって歩きだした。手にはジードに渡す革袋、そしてもし会えたらとエリクの分も多めに籠に入れてきた。エリクには、先々、騎士たちの食料として役立ちそうかと確認してもらいたかったのだ。
騎士棟の受付まで来ると、今までとは雰囲気が違っていた。行き交う人々は速足で、表情にもピリピリと緊張した空気が漂っている。
……第三騎士団の出発前だからか。
ジードの名前を告げると、今、第三騎士団は出発前の最終調整に入ったところだという。急な用かと聞かれて、俺は首を振った。餞別ならこちらで受け付けると言われて、どうしたらいいのかと手が震えた。自分が必死に渡しに来たものは、やけにちっぽけな気がする。仲直り、なんてくだらない子どもの発想のような気がした。
「あの、じゃ、じゃあ、これ……」
ジードへの革袋を渡そうとした時だった。
「ユウ様!」
騎士の一団が、がやがやと廊下を歩いて来る。先頭にいた者がこちらに向かって手を挙げた。
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