【騎士とスイーツ】異世界で菓子作りに励んだらイケメン騎士と仲良くなりました

尾高志咲/しさ

文字の大きさ
上 下
19 / 90

18.ピールと挑戦

しおりを挟む
 
 俺はレトと一緒に、果物を前に話し合った。
 こちらの世界でも果物は大切な栄養源だ。身近で手に入る甘味だから、人々は料理にもよく利用する。ただ、スイーツのような菓子にするとなると、当たり前のようにあったものを使えない状況は厳しい。砂糖だって乳製品だって、今の日本なら簡単に手に入る。でもここは、そうじゃない。考えろ、ないものよりあるものだ。

「ユウ様の世界では果物の利用法が多いのですか?」
「こっちと同じで、そのまま食べたり、ジュースや酒にする。後は焼いたり、砂糖を加えて煮たり、干したり」

 ……干す?

 エリクの言葉を思い出した。

『果物は貴重な栄養源です。戦いが長引けば長引くほど、皆、疲弊します。食べ物の力は大きくて、もっと携帯できればいいのですが』

 じいちゃんが鹿や猪を追って山に入る時に、持っていくものを聞いたことがある。食べ物は高エネルギーで、保存性が高くて持ち運びしやすいものがいい。レーズンやナッツが鞄に入っていた。魔獣に挑むのと野生の獣は違うだろうが、戦うのは人だ。

「……そうか、干せばいいんだ」

 俺の高校の家政部では、バレンタインは一番の書き入れ時だ。この時期だけは注文を受けて手作りの品を販売する。
 試作的に作ってみた商品の中に、驚くほど人気が高いものがあった。オレンジピールのチョコがけだ。オレンジの皮なんて捨てる場所だろ、という意見を先輩が一喝した。皮には栄養が詰まっている。ビタミン・食物繊維・カロテン。実際にはピールづくりに結構手間がかかって少量販売になったが、後々まで問い合わせが来た。

 果物そのものは無理でも、干せば携帯できる。
 ドライフルーツなら、保存の為に大量の魔石はいらない。でも、今から作るには時間が足りないだろうか。
 チョコはない、砂糖もない。でも、花の蜜はある。

「レト、俺、作ってみたいものがあるんだ」

 レトに、ドライフルーツの説明をした。ああ、それならと公爵家のレシピの中から一つを見せてくれた。干した果物を戻して水と酒と花の蜜につけた記述がある。
 ただ、この国は温暖で湿度が高い。果物を干すとうまく乾かずにかびたり腐ったりするので、北部で保存用として作られたものを取り寄せたとある。日に干すなら、暖かくて湿度の高い場所よりも寒暖の差があって乾燥した場所の方がいい。

 ……ドライフルーツを市場で見かけなかったのは腐るからだったのか。

 水分が多すぎるものは生で食べた方がいいし、水分が少ないものは硬くなりすぎたら食べられない。乾かしても、元の味は残るのだろうか。今ある果物の中で、たくさんあるものはスロゥと、居酒屋でもらったリュムだった。スロゥは水気たっぷりでリュムは酸味がたっぷり。

「……中身がだめなら、皮はどうだろう」
「試してみましょうか」

 俺とレトは、部屋の中の小さな台所で、片端から残った果物の皮を剥いた。

 剥いた実は、薄く切って並べて、日に干す。

 皮は、オレンジピールを作るのと同じ方法でやってみた。三回ほどゆでこぼしたものを細く切る。鍋に切った皮と花の蜜と水を入れて煮詰めた。何回もゆでこぼしたスロゥの皮はあんなにギラギラしていたのに、やや色が落ちて、きらきら、位になった。リュムの皮も、少し明るい緑に落ち着いた。ちょっと、ジードの瞳の色を思い出す。
 蜜が絡んだ皮を大きなざるに並べて、干す。

 問題は時間だった。乾かなければ間に合わない。

「電子レンジ、いや、オーブンか。早く乾燥できるものがあれば……」
「ちょっと待ってくださいね! 何とかなるかもしれません」

 レトが嬉々として、部屋を出て行った。
 俺は目の前に並んだ薄切りの果物たちを眺める。 

 これが無事に出来上がったら、ジードは食べてくれるだろうか。



 高1の時の話だ。バレンタインの少し前に、俺は好きな人にチョコレートケーキを渡した。好きだとも言えず、ただ食べてほしいと焼いたケーキを無理やり押し付けた。

『ケーキ、すごく美味しかった。……みんなで食べさせてもらった。おかげですごくやる気が湧いたし、皆のデザインも増えたんだ』

『……お前の気持ちはさ、伝わらなかったかもしれないけど。お前のケーキで美術部は頑張れたんだよ』

 優しいあの人は喜んでくれた。あの人の為に焼いたケーキは、部員みんなの為に焼いたと勘違いされたけれど、それでも誰かの役に立った。

「……今度こそ、ちゃんと言おう」

 ジードに伝えよう。
 これは、お前の為に作ったんだ。だから、どうか食べてほしいと。

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

没落貴族の愛され方

シオ
BL
魔法が衰退し、科学技術が躍進を続ける現代に似た世界観です。没落貴族のセナが、勝ち組貴族のラーフに溺愛されつつも、それに気付かない物語です。 ※攻めの女性との絡みが一話のみあります。苦手な方はご注意ください。

異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます

野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。 得た職は冒険者ギルドの職員だった。 金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。 マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。 夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。 以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

異世界転移して出会っためちゃくちゃ好きな男が全く手を出してこない

春野ひより
BL
前触れもなく異世界転移したトップアイドル、アオイ。 路頭に迷いかけたアオイを拾ったのは娼館のガメツイ女主人で、アオイは半ば強制的に男娼としてデビューすることに。しかし、絶対に抱かれたくないアオイは初めての客である美しい男に交渉する。 「――僕を見てほしいんです」 奇跡的に男に気に入られたアオイ。足繁く通う男。男はアオイに惜しみなく金を注ぎ、アオイは美しい男に恋をするが、男は「私は貴方のファンです」と言うばかりで頑としてアオイを抱かなくて――。 愛されるには理由が必要だと思っているし、理由が無くなれば捨てられて当然だと思っている受けが「それでも愛して欲しい」と手を伸ばせるようになるまでの話です。 金を使うことでしか愛を伝えられない不器用な人外×自分に付けられた値段でしか愛を実感できない不器用な青年

ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~

ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。 *マークはR回。(後半になります) ・ご都合主義のなーろっぱです。 ・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。 腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手) ・イラストは青城硝子先生です。

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

【完結】討伐される魔王に転生したので世界平和を目指したら、勇者に溺愛されました

じゅん
BL
 人間領に進撃許可を出そうとしていた美しき魔王は、突如、前世の記憶を思い出す。 「ここ、RPGゲームの世界じゃん! しかもぼく、勇者に倒されて死んじゃうんですけど!」  ぼくは前世では病弱で、18歳で死んでしまった。今度こそ長生きしたい!  勇者に討たれないためには「人と魔族が争わない平和な世の中にすればいい」と、魔王になったぼくは考えて、勇者に協力してもらうことにした。本来は天敵だけど、勇者は魔族だからって差別しない人格者だ。  勇者に誠意を試されるものの、信頼を得ることに成功!   世界平和を進めていくうちに、だんだん勇者との距離が近くなり――。 ※注: R15の回には、小見出しに☆、 R18の回には、小見出しに★をつけています。

処理中です...