【騎士とスイーツ】異世界で菓子作りに励んだらイケメン騎士と仲良くなりました

尾高志咲/しさ

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16.仲違いと後悔

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 ──気に入らない?

 その言葉に、昨日見た光景が脳裏に浮かぶ。屋台で微笑み合う二人、令嬢を胸に抱くジード。思い出した途端、自分の中に、痛いような哀しいような気持ちが浮かぶ。自分でも思いがけない言葉が口に出た。

「……俺さ、昨日、市場から泥棒が自分たちに向かってくるのが見えたんだよ。その時にジードを見かけた。泥棒を見たなら、ジードはなぜ、すぐに捕らえようとしなかったんだ。屋台の店主も買い物客も被害に遭っていた。騎士なら、すぐに駆けつけるべきなんじゃないのか?」

 ジードが目を見開いた。
 もうやめろ、と心のどこかで声がする。それなのに、俺の口は勝手に言葉を続けた。

「エリクは、俺が側にいてもすぐにあいつらに立ち向かったよ。あの姿こそ……、本物の騎士だと思う」

 顔をあげれば、ジードは呆然とした顔で俺を見ていた。くしゃりと顔が歪み、絞りだすような声が聞こえた。

「そ……れは、たしかに……。俺の取った行動に、ユウは呆れていたんだな。俺が何もしなかったと」

 そんなことはない。ジードは令嬢を守っていた。そこに触れずにジードを責める俺が卑怯だ。マジで最悪。完全に八つ当たりなんだ。それなのに。

「それに、ジードは忙しいんだろ。許嫁とも会わなきゃいけないし、俺の護衛どころじゃないじゃないか」

 ジードが息を呑む気配がする。

「……勝手なことを言った。不快な思いをさせてすまない」

 俺はただ黙っているしか出来なかった。ジードに言った言葉に自分で驚いている。そして、ジードが許嫁のことを否定しなかったことにも、少なからずショックを受けていた。

 長い沈黙の後、大聖堂の鐘が鳴った。俺たちは立ち上がって、互いに反対の方向に歩き出す。昼食をとらなかったことにも気がつかなかった。


 ああ、こんなに自分が最低な人間だとは思わなかった。
 もうどうしたらいいのかわからない。

 王宮の廊下を歩きながら、俺は頭の中がぐちゃぐちゃだった。



「で」
「……うん」
「ジードにひどいことを言ってしまった、と」

 うつむく俺の前に座って、じっと見つめてくるのはスフェンだ。まさか、スフェンに居酒屋に連れてこられるとは思わなかった。

「お客さま、本日のおすすめはいかがです? バジュラの燻製の盛り合わせになります!」
「ああ、それもくれ。私はボトル、後、彼には酒ではない飲み物を」
「承知しましたあ!」

 すぐにスフェンの前にはワインのように赤い酒のボトルとグラス、俺の前にはスロゥの生絞りジュースが置かれた。こちらでは15が成人らしくて酒を勧められることも多いが、俺は何時も断っている。

 香ばしくあぶった肉や、サグのチーズ、木の実と果実が盛られた皿などが、店員にどんどん運ばれてきた。
 夕暮れ時の店は繁盛していて、食事や軽く飲もうと言う人々でたちまち満席になる。

「スフェンって、お屋敷で豪勢な食事ばかりしてると思ってた……」
「そうでもない。仕事が忙しくなったら、そうそう屋敷にも戻れないし」

 役所勤めってどこも大変なんだな。

 ジードと別れた後、ふらふらと自分の部屋に向かって歩いていたら、スフェンに声をかけられた。いつも通りの華やかな笑顔を見て挨拶を返そうとしたら、真剣な顔で大丈夫か? と聞かれた。
 スフェンが言うには、俺は人生が終わったような顔をしていたらしい。ちびちびとジュースを飲みながら、今日あったことをぼそぼそと話し続けた。

 辛抱強く話を聞き続けたスフェンは、眉間に皺を寄せながらグラスの酒をあおる。

「……まったく面倒だな、君たちは。そして、私は何でこんなに損な役回りなんだ」

 スフェンは、俺を真っ直ぐに見て言った。

「いいか、ユウ。ジードは後一週間で旅立つ。三か月とは言うが無事に帰れる保証はないんだ。君はこんなところで仲違いしたままでいいのかい?」
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