9 / 90
8.琥珀のピアス
しおりを挟む「ジードにはあんなこと言ったけど、冷蔵庫とオーブンが欲しいよ……」
「ユウ様。先日から仰っているそれですが、魔石で冷却と過熱ならできますよ!」
「温度が大事なんだ。どちらも、一定に保ちたい」
「固定もできるかと思いますが、魔石を使った道具をお求めなら担当部署に聞いたほうがいいですね」
レトは、俺の言葉を手元に幾つも書きつけた。文字の翻訳だけでなく、話を聞いて次々に必要なことをまとめてくれる。とても優秀な人だとわかるのに、俺にずっと付き合ってもらっていてもいいんだろうか。
「レト、本当は俺、もっと違うことを勉強した方がいいのかな」
「いいえ、そんなことはありません。ユウ様の目標は明確ですし、先々に繋がると判断しています。客人の中には将来を思い描けないまま、儚くなった方もいます。ユウ様は、こちらでの暮らしを考えてくださっているでしょう?」
「うん。だって、折角ジードに命を助けてもらったんだし。生きてれば、いつか運よく帰れるかもしれないし」
「そうそう、その意気ですよ! ああ、もうすぐ、約束のお時間ですね?」
そうだ、今日は公爵令息のスフェンと夕食を約束した日だった。王都の公爵家の屋敷にはジードと一緒に行くことになっている。
俺は慌てて支度をした。レトのアドバイスで、絹のシャツに上下揃いの華やかな花の刺繍が入った服を着る。耳には琥珀のピアスだ。
元の世界では耳に穴を幾つも開けて、髪も金色に染めていた。姉が美容師で好きにさせていただけだが、今は色が抜けて、すっかり黒髪に戻ってしまった。瞳だけは昔から明るい茶が入ったままだけど。瞳を見て、琥珀のようだと言ったのはジードだった。
支度をした俺を、レトがため息をついて見つめた。
「よくお似合いです。特にその琥珀は見事ですね」
「この間、誕生日だったって言ったら、ジードがくれた。気い遣わせて悪かったよな」
レトが何か言いかけた時に、扉がコンコンと鳴った。
目の前に立つジードは、騎士の礼装を身に着けていた。体にぴしっと合った黒の上下は筋肉質な体を見事に浮き上がらせ、金髪は後ろに流している。
「うっわ、カッコいい!」
「ユ、ユウこそ」
「ああ、派手だよなー、こっちの服って。今まではどこに行くにも制服だったけど、レトが用意してくれたんだ。この琥珀もさ、初めてつけたんだけど、どうかな? ジード?」
騎士は目を瞠り、なぜか耳の先まで真っ赤になっていた。
公爵家の屋敷に着くと、スフェンが玄関に出迎えてくれた。美しく整えられた庭も豪華な屋敷も、まるで映画の世界のようだ。
「ようこそ、ユウ! ジード、君も一緒とは嬉しい限りだ」
「こちらこそ、貴殿の厚情に心から感謝する。……だが、少しは言葉に合った顔をした方がいいぞ、スフェン」
「その言葉を、そっくりそのまま君に返したいな、ジード。今にも噛みつきそうな顔をしているぞ。最近は、ユウの行く場所には必ず君がついてくると評判だ」
玄関前で、二人は微妙な空気を醸し出している。
たしか貴族学校の同級生だって聞いてたけど、あんまり仲は良くなかったのかな。
「スフェン、今日は招待してくれてありがとう。楽しみにしてたんだ」
「ユウ! ああ、その華やかなコートはすごくよく似合ってる。ユウの愛らしい顔立ちや繊細さを引き立てているね」
今日も勘違いだらけの発言が、いっそ清々しいな。俺の手を取ろうとしたスフェンとの間に、すかさずジードが入ってくれた。
「ユウ? ……その、耳の琥珀は?」
「ああ、ジードが誕生日のプレゼントにくれたんだ」
そう言った瞬間、スフェンは眉を寄せて唇を噛み締めた。
「まさか、本気だったとは……」
「本気?」
「ユウ、何も聞いていないのか? それは……」
「スフェン!」
ジードの他を圧するような低い声に、スフェンは黙った。
「琥珀は……。ユウの誕生祝に贈ったものだ。それだけだ」
琥珀のピアスがどんな意味になるのか、この時の俺は、全く何もわかってはいなかった。
55
お気に入りに追加
783
あなたにおすすめの小説

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

【完結】愛され属性のランディー
cyan
BL
みんなから愛されるランディーが最後に選ぶのは誰?
幼い頃のトラウマを克服すべく、隣国を挟んで更にその先の帝国の学園へ入学を決めたランディー。
純粋が故に騙されたり、簡単に攫われたり、丸め込まれたりするランディーを温かく見守ってほしい。
初期に道徳的に問題がありそうなシーンが出てきますので苦手な方はご注意ください。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞

みなしご白虎が獣人異世界でしあわせになるまで
キザキ ケイ
BL
親を亡くしたアルビノの小さなトラは、異世界へ渡った────……
気がつくと知らない場所にいた真っ白な子トラのタビトは、子ライオンのレグルスと出会い、彼が「獣人」であることを知る。
獣人はケモノとヒト両方の姿を持っていて、でも獣人は恐ろしい人間とは違うらしい。
故郷に帰りたいけれど、方法が分からず途方に暮れるタビトは、レグルスとふれあい、傷ついた心を癒やされながら共に成長していく。
しかし、珍しい見た目のタビトを狙うものが現れて────?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる