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第四部 婚礼

第36話 幸せの天秤② ※

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 シェンバーの腕の中で、イルマは嬉しそうに笑う。

「⋯⋯ありがと、シェン。ぼくは、女神の元で安らげそうにない⋯⋯」
「どうして? 女神がイルマを喜ばれないはずがないだろう」
「⋯⋯ぼくの天秤は、きっと不公平だ」

「不公平?」
「皆に幸せを与えるんじゃなくて、相手を選んでしまっている。⋯⋯それだけじゃない。気持ちの重さも違う」
「イルマ⋯⋯」
「⋯⋯皆の幸せを願うことが一番大事だって思ってきたのに、いつのまにか出来なくなっていたんだ」

 ──⋯⋯王族だから。祝福の子だから。
 フィスタと多くの民の幸せを一番に望むことが当り前だったのに。

 イルマは、シェンバーが今まで見たこともないような顔をした。困っているような、拗ねているような表情だった。黄金色の瞳が、真っ直ぐにシェンバーを見ている。

 ⋯⋯愛情深い女神の御子は、幸せの天秤を心に留めて生きてきたのだろう。生者の天秤は、いつだって不安定で欲望に塗れているものなのに。彼の中の清廉さを美しいと思う。でも、多くの人々に向けられる愛情よりも、自分に一心に向けてくれる愛情の方がずっと価値がある。

「愛情とは、欲深いものだな」
 嘆息して、柔らかな唇に唇を重ねる。戸惑っているイルマが可愛い。

「イルマも私も、幸せをもらってばかりだと言うなら、また人の世に戻って出会うことが出来る」
「⋯⋯次の世も?」
「そう、この次も」

 イルマは思わず笑った。なんて気の長い話だろう。それでも、柳眉の下に煌めくシェンバーの瞳は本気を告げている。

「また出会うの?」
「ぜひ、お願いしたい」
「困ったな。⋯⋯何だか、それも楽しみに思えてくる」

 シェンバーの胸は、眉を寄せるイルマの言葉に撃ち抜かれた。

 ⋯⋯腕の中の恋人は、どうしてこんなに自分の心を捕らえ、震わせるのだろう。


 シェンバーは、イルマの手首をつかんで寝台に押しつけた。口づけはどんどん深くなり、互いの体に火がつくのを感じる。舌を吸い上げれば、びくりと震える体に興奮が募った。

「シェン、んっ! も、もうすぐ食事⋯⋯」
「⋯⋯私はイルマの方がいい」
「え、あ、⋯⋯んッ!」

 イルマの声は、シェンバーの口づけでたちまち塞がれた。
 舌を絡められ吸い上げられるうちに、何度も教えられた喜びが体を支配する。口づけだけで、熱く疼くのがわかった。

 シェンバーはイルマの服を剥ぎ取ったかと思うと、すぐに自分も服を脱ぎ捨てた。互いに何も身につけずにいだき合う。

 イルマの唇から頬、首から鎖骨へとシェンバーの舌が這う。時折強く吸い上げられて、肌には次々に赤い花が咲く。
 シェンバーの手にかかると、イルマは何時もあっという間に、快感を引き出されてしまう。節くれだった指は、とても繊細な動きをする。まるで楽器にでもなったかのように、触れられる度にイルマの口からは甘い声が漏れた。

「んッ! シェン⋯⋯、シェン」

 名を呼ぶたびに口づけられて、イルマ自身はとうに勃ち上がっていた。シェンバーに優しく扱かれて、すぐに蜜をこぼす。シェンバーの指が奥に移れば、そこはひくりと疼いて熱い楔を求めている。

「んッ⋯⋯、あッ!」
「ああ、可愛いな」

 イルマが唇をかめば、啄むように口づけられた。

「⋯⋯イルマが、私を欲しがってくれて嬉しい。私はいつでもイルマが欲しいから」

 温められた香油が窄まりにたっぷりと注がれたかと思うと、焼けた杭のように熱い楔がイルマの中に挿入ってきた。

「あっ! シェン⋯⋯、シェン! いいッ」

 気持ちのいいところを攻め立てられ、イルマはあっけなく精を放つ。快楽に蕩けたまま、自分に縋る姿は何よりも淫靡だとシェンバーは思う。
 シェンバーの楔が打ちつけられるたびに、イルマの体に悦楽が走る。腰を掴まれ、思うままに揺さぶられて、瞳からは涙がこぼれた。気づいたシェンバーが体を屈めて目尻に口づける。楔の角度が変わって抉られると、イルマは堪らず、高い悲鳴を上げた。

「あ、⋯⋯ああっ! シェン!!」

 悲鳴を塞ぐように唇を重ねて、シェンバーはさらに奥まで突き上げた。イルマの体は素直だ。全身を朱に染めて快楽に身を委ねる姿に、シェンバーは興奮を抑えることが出来なかった。
 前から何度も貫いた後に、イルマの体をうつ伏せにする。引き抜いた太い楔を、今度は後ろからゆっくりとイルマの中に進めた。崩れそうなイルマの腰を離さずに何度も優しく擦り、思い切り最奥まで貫いた。

「や、あ! 深い⋯⋯」
「あ⋯⋯、あ。イルマ、こんなに深く繋がれるなんて⋯⋯」

 シェンバーはイルマの背中に口づけを落とし、背後から手を回してイルマの胸の粒を強く捏ねた。

「あっ! ああっ!」

 イルマの中がシェンバーを熱く締めつける。その激しさに、シェンバーの楔は勢いを増して膨れ上がった。

「⋯⋯イルマ!」

 イルマの中にシェンバーの精が熱く注がれ、朱に染まった体がびくびくと震えた。シェンバーが余韻に震える体をぎゅっと抱きしめれば、イルマの手足からは力が抜けていく。
 シェンバーは腕の中の愛しい存在を強く強く抱きしめた。
 
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