上 下
98 / 202
第二部 眼病の泉

第26話 相愛② ※

しおりを挟む
 
 シェンと繋がったまま、孔の縁からはとろとろと白濁が溢れ続けている。抱き合ったまま、何度も口づける。口の端から溢れる唾液を互いに吸い上げて舌を絡めた。

「⋯⋯まだ足りない」
 体を倒されて、繋がったままの場所をゆっくりと擦り上げられる。

 後孔の中で、おさまっていたはずのシェンの雄が再び力を持つ。滑りが良くなった場所は、ただ気持ちがいいだけだ。肉壁を擦られれば、ぐちゅぐちゅとひっきりなしに水音が聞こえる。
 ギリギリのところまで引き抜かれ、浅い場所を捏ねるように突かれる。

「あっんッ! シェン!」
 自分の口から洩れる声が、高くかすれていく。これは本当にぼくの声なのか。

「気持ちいい?」
 たまらず何度も頷く。満足げに微笑んだ恋人が小さく舌を出して、ぼくの唇を舐めた。

「言って⋯⋯イルマ」
 ──言わないと、ずっとこのままだよ。
 甘い言葉にわずかに毒が混じる。

 すり潰すように一点を責められて、透明な液がたらたらと先端からこぼれていく。
「⋯⋯ん。あッ! シェン、挿れて!! 気持ちいいから⋯⋯もっと⋯⋯!」

 初めて触れ合った時のように、媚薬はもう必要なかった。
 手前ばかり刺激していたシェンの怒張は、奥まで一気に突き進む。奥の奥まで激しく突きあげられ、足先までが痺れて力が入らない。

「⋯⋯あああッ!」
 律動が繰り返され、膝裏を抱え上げられて熱が打ちつけられる。
 搾り取るように中が蠢くと、目の前の美しい顔が切なげに歪む。
 壮絶に淫靡な顔に、心が震えた。

 何度も繰り返し欲が吐き出され、ぼくの中の全てが暴かれ、塗り替えられていく。
 自分の中に知らなかった欲が刻みつけられ、何度も耳元で繰り返し囁かれる。

「愛している、イルマ。──私だけのものだ」と。



 ──いつの間に、眠っていたのだろう。

 瞼を開ければ、穏やかな瑠璃色の瞳が自分を見ていた。
 ぼくを抱きしめている腕に力がこもる。黄金の瞳と瑠璃色の瞳。お互いの中に、たった一人の姿が映っている。

「ずいぶん長い時間、かかった気がする」
「⋯⋯?」
「⋯⋯自分の気持ちに素直になるまで。初めて会った時も、再び会った時も。ずっと、この瞳に惹かれていた。この瞳が自分だけを見てほしいと願っていた」
 シェンが、ぼくの瞼に口づけた。

「⋯⋯ぼくは長い間、自分の瞳が好きじゃなかった。だけど、シェンがそう言うなら、この瞳も悪くない」
「今はイルマが何色の瞳でもいい。⋯⋯私は、イルマならそれだけでいい」
 シェンはそう言ってぼくを抱きしめた。優しい口づけが、いくつも顔中に降ってくる。

 砂漠の朝は早い。もうじき夜が明ける。
 ラヤンの村を出てタブラへ。そして、南の離宮に帰ることを考えたら少しでも眠った方がいい。頭のどこかでそう考えているのに、この腕が自分からは離せそうにない。

 じっとシェンを見つめていたら、ふっと視線を逸らされた。

 ぼくはシェンの首に唇を寄せる。シェンの体がびくんと震えて、腿に硬いものが当たった。
「そんな瞳で見られたら、何度でも欲しくなる」
 囁く言葉を塞ぐように唇を合わせる。

『人を好きになるってのは、きれいなことばかりじゃない。みっともなくて、辛くて、苦い。それでも、どうしようもないんだ』

 いつか聞いたラウド兄上の言葉が、不意に浮かびあがる。
 砂漠に来るまで、たくさんの気持ちを味わってきた。

「ねえ、シェン。ぼくは、シェンを好きになってよかった」
「⋯⋯うん」
 ぼくを強く抱きしめるシェンの耳が赤くなっている。

 ──明日は旅立てないかもしれないな。
 うっすらとそう思いながら、愛しい相手の背中に手を回す。

「イルマ。⋯⋯愛してる」
 何度も囁かれる愛の言葉に、同じように言葉を返した。
「シェン、ぼくも」

 シェンが、ゆっくりとぼくの体に愛撫の口づけを降らせていく。
 何度もおさまっては立ち上る欲望に、ぼくたちは、ただ従順に身を任せた。
 
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

【完結】かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜

倉橋 玲
BL
**完結!** スパダリ国王陛下×訳あり不幸体質少年。剣と魔法の世界で繰り広げられる、一風変わった厨二全開王道ファンタジーBL。 金の国の若き刺青師、天ヶ谷鏡哉は、ある事件をきっかけに、グランデル王国の国王陛下に見初められてしまう。愛情に臆病な少年が国王陛下に溺愛される様子と、様々な国家を巻き込んだ世界の存亡に関わる陰謀とをミックスした、本格ファンタジー×BL。 従来のBL小説の枠を越え、ストーリーに重きを置いた新しいBLです。がっつりとしたBLが読みたい方には不向きですが、緻密に練られた(※当社比)ストーリーの中に垣間見えるBL要素がお好きな方には、自信を持ってオススメできます。 宣伝動画を制作いたしました。なかなかの出来ですので、よろしければご覧ください! https://www.youtube.com/watch?v=IYNZQmQJ0bE&feature=youtu.be ※この作品は他サイトでも公開されています。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風
ファンタジー
気がついたら、俺は乙女ゲーの悪役令嬢になってました。 こいつは悪役令嬢らしく皆に嫌われ、周囲に味方はほぼいません。 完全没落まで一年という短い期間しか残っていません。 この無理ゲーの攻略方法を、誰か教えてください。 ライトオタクを自認する高校生男子・弓原陽が辿る、悪役令嬢としての一年間。 彼は令嬢の身体を得て、この世界で何を考え、何を為すのか……彼の乙女ゲーム攻略が始まる。 ※書籍化に伴いダイジェスト化しております。ご了承ください。(旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

処理中です...