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第二部 眼病の泉

第17話 艶事① ※

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 思わず首を横に振れば、さいなむように乳首を吸われる。
 びくんと体が震えると、わざと舌先で転がされて、抑えていた声が少しずつ漏れる。

「んっ⋯⋯んッ! シェン、やめて」
「⋯⋯やめてほしい? それとも、こっちがいい?」
 とっくに天を向いていたぼく自身に、シェンの指が触れる。突然の感触に先端から先走りが漏れたのが分かった。
「あっ!」
 シェンが服の上から緩く握りしめただけで、とろとろと蜜が溢れて下着が濡れていく。
 思わずシェンの手を振り切って体をよじれば、ぽろりと涙がこぼれた。

「イルマ?」
「ばか! シェンのばか⋯⋯。もう嫌い!」
 こんなの、恥ずかしすぎる。体を丸めて、思わず顔を覆った。
「イルマ? ねえ、イルマ。⋯⋯嫌いって、本当に?」

 なぜか焦ったようにシェンが言ってくる。そんなわけない、と叫びたいけれど、もうそれどころじゃない。肌が触れれば次々に愛された記憶が蘇ってきて、どうにもならない。

「⋯⋯ごめん。久しぶりで、あんまり可愛くて、止められなかった」
 熱いシェンの肌が、後ろから覆いかぶさってくる。シェンの吐息が肩にかかるたびに、ぼくの体はどうしようもなく震える。それをどう捉えたのか、シェンはしきりに謝ってきた。

「市場でイルマを見た時も我慢できなかった。本当は、こっそり姿を見るだけにしようと思ったのに」
「えっ?」
 シェンは、ぼくの体を後ろからぎゅっと抱きしめる。
「あれは⋯⋯、あれはやっぱりシェンだったの?」
「うん。タブラにいた間に市場で2回イルマを見た。最初に男がイルマにぶつかりそうになった時は、飛び出そうとしたところを近衛たちに二人がかりで止められた」
 怪我がなくて良かった、と髪にそっと口づけられる。

「⋯⋯待って。シェン」
 ぼくは体の向きを変えて、真正面からシェンを見た。両手でシェンの頬を包んで、ぐっと顔を近づける。部屋の中はわずかな月明かりしかなくて、瞳の変化がよくわからない。
 思わず、声が震えた。
「い、いつから、目が見えてるの?」
 シェンは穏やかに微笑んで言った。
「見える、と言っていいのかわからないな。今は、見えないから」
 
 見えたり見えなかったりって、どういうことなんだ?

 続けて問おうとすれば、唇と唇が重なる。最初とは違って優しく舌が絡められた。宥めるように優しく舌を吸われ、シェンの腕がぼくの背中に回る。
 今までとは違う穏やかさに、少しずつ心が落ち着いていく。何度も髪を撫でられ、額やこめかみに口づけられてほっとする。
 ぼくはシェンの胸にぴたりと頬を寄せた。

「⋯⋯イルマ」
「さっき、嫌いって言ったけど、本気じゃないよ。シェ、シェンに触れたら⋯⋯」
 言いよどむと、もう一度強く抱きしめられた。
「うん、わかってる。ごめん。イルマが恥ずかしがってるだけだって、わかってるんだ」
 シェンが切なげに眉を顰めた。
「それでも、心が揺れる。イルマの言葉に、どうしていいのかわからなくなる⋯⋯」

 項垂れるシェンの姿にびっくりして、まじまじと見つめた。
 女神が愛情込めて作ったと言われても少しも不思議じゃない。こんなに美しい人が、自分の言った言葉一つで動揺するなんて。

 シェンは、ふぅと小さなため息をついた。
「私はイルマの前では少しも冷静でいられない」
「⋯⋯その方がいい。ぼくは強くて揺るがないシェンも好きだけど」
 フィスタとスターディアの国境の町で、多くの騎士が跪いていた姿が目に浮かんだ。
「弱かったり、悩んだりしてるシェンも⋯⋯好きだ」
「⋯⋯イルマ。どうして貴方あなたは、そんな言葉を口に出来るんだろう」
 シェンは、今にも泣きそうな表情をしていた。

 ぼくが自分からシェンにちゅっと口づけると、シェンは真っ赤な顔になる。
「ああ、もう!」
 黄金の髪をかき上げて、美貌の王子はぼくを睨んだ。
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