89 / 202
第二部 眼病の泉
第17話 艶事① ※
しおりを挟む思わず首を横に振れば、苛むように乳首を吸われる。
びくんと体が震えると、わざと舌先で転がされて、抑えていた声が少しずつ漏れる。
「んっ⋯⋯んッ! シェン、やめて」
「⋯⋯やめてほしい? それとも、こっちがいい?」
とっくに天を向いていたぼく自身に、シェンの指が触れる。突然の感触に先端から先走りが漏れたのが分かった。
「あっ!」
シェンが服の上から緩く握りしめただけで、とろとろと蜜が溢れて下着が濡れていく。
思わずシェンの手を振り切って体をよじれば、ぽろりと涙がこぼれた。
「イルマ?」
「ばか! シェンのばか⋯⋯。もう嫌い!」
こんなの、恥ずかしすぎる。体を丸めて、思わず顔を覆った。
「イルマ? ねえ、イルマ。⋯⋯嫌いって、本当に?」
なぜか焦ったようにシェンが言ってくる。そんなわけない、と叫びたいけれど、もうそれどころじゃない。肌が触れれば次々に愛された記憶が蘇ってきて、どうにもならない。
「⋯⋯ごめん。久しぶりで、あんまり可愛くて、止められなかった」
熱いシェンの肌が、後ろから覆いかぶさってくる。シェンの吐息が肩にかかるたびに、ぼくの体はどうしようもなく震える。それをどう捉えたのか、シェンはしきりに謝ってきた。
「市場でイルマを見た時も我慢できなかった。本当は、こっそり姿を見るだけにしようと思ったのに」
「えっ?」
シェンは、ぼくの体を後ろからぎゅっと抱きしめる。
「あれは⋯⋯、あれはやっぱりシェンだったの?」
「うん。タブラにいた間に市場で2回イルマを見た。最初に男がイルマにぶつかりそうになった時は、飛び出そうとしたところを近衛たちに二人がかりで止められた」
怪我がなくて良かった、と髪にそっと口づけられる。
「⋯⋯待って。シェン」
ぼくは体の向きを変えて、真正面からシェンを見た。両手でシェンの頬を包んで、ぐっと顔を近づける。部屋の中はわずかな月明かりしかなくて、瞳の変化がよくわからない。
思わず、声が震えた。
「い、いつから、目が見えてるの?」
シェンは穏やかに微笑んで言った。
「見える、と言っていいのかわからないな。今は、見えないから」
見えたり見えなかったりって、どういうことなんだ?
続けて問おうとすれば、唇と唇が重なる。最初とは違って優しく舌が絡められた。宥めるように優しく舌を吸われ、シェンの腕がぼくの背中に回る。
今までとは違う穏やかさに、少しずつ心が落ち着いていく。何度も髪を撫でられ、額やこめかみに口づけられてほっとする。
ぼくはシェンの胸にぴたりと頬を寄せた。
「⋯⋯イルマ」
「さっき、嫌いって言ったけど、本気じゃないよ。シェ、シェンに触れたら⋯⋯」
言いよどむと、もう一度強く抱きしめられた。
「うん、わかってる。ごめん。イルマが恥ずかしがってるだけだって、わかってるんだ」
シェンが切なげに眉を顰めた。
「それでも、心が揺れる。イルマの言葉に、どうしていいのかわからなくなる⋯⋯」
項垂れるシェンの姿にびっくりして、まじまじと見つめた。
女神が愛情込めて作ったと言われても少しも不思議じゃない。こんなに美しい人が、自分の言った言葉一つで動揺するなんて。
シェンは、ふぅと小さなため息をついた。
「私はイルマの前では少しも冷静でいられない」
「⋯⋯その方がいい。ぼくは強くて揺るがないシェンも好きだけど」
フィスタとスターディアの国境の町で、多くの騎士が跪いていた姿が目に浮かんだ。
「弱かったり、悩んだりしてるシェンも⋯⋯好きだ」
「⋯⋯イルマ。どうして貴方は、そんな言葉を口に出来るんだろう」
シェンは、今にも泣きそうな表情をしていた。
ぼくが自分からシェンにちゅっと口づけると、シェンは真っ赤な顔になる。
「ああ、もう!」
黄金の髪をかき上げて、美貌の王子はぼくを睨んだ。
応援ありがとうございます!
33
お気に入りに追加
1,011
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる