46 / 72
46.優しさと愛情 ②
しおりを挟む「⋯⋯今日のは、気にしなくていい」
「どうして?」
「心が狭いから」
「オリーのこと? オリーの心は狭くないよ」
「⋯⋯いや、案外ちっぽけなんだ。最近よくわかった」
僕が首を傾げると、ようやくオリーは振り向いてくれた。
「オリーの心がちっぽけなら、僕はもっとずっと小さい気がする⋯⋯」
「⋯⋯ラウェルは強くて真っ直ぐだ。だから皆、お前を好きになる」
オリーは僕に向かい合って、体を少し屈めた。ふわりと重なった唇は、柔らかくてあたたかい。ほんの一瞬の温もりに目を丸くしていると、ぎゅっと胸の中に抱き込まれる。大きくて広いオリーの胸の中にいるのが好きだ。そして、僕の心臓は早鐘のよう忙しく動き出す。以前はオリーに抱き着いても安心するだけだったのに、今ではドキドキする方が多い。
⋯⋯シオンに抱き着くのとは全然違うって、最近分かったんだ。
「時々、ミツドリを王宮の奥深くに囲った王族たちの気持ちがわかる気がする。⋯⋯俺は、馬鹿だな」
「僕の一族のこと?」
「そうだ。彼らを守りたい気持ちもあったと思うが、それ以上に⋯⋯、他の者に見せたくない気持ちもあったと思う。優しくて弱い、美しい生き物を」
「旅してる時も、領主の館で飼われてる小鳥たちは、綺麗な鳥籠の中に入ってた」
「⋯⋯籠から出したら逃げてしまうだろう。だから、ずっと自分の元に置いておくために丈夫な籠に入れるんだ」
ミツドリたちも、大きな鳥籠に飼われているのと同じだったんだろうか。
「オリーも?」
「ん?」
「オリーも僕を籠の中に入れたい?」
蒼空の瞳がとても辛そうに歪む。
「心配しなくていいよ。僕ね、小鳥じゃなくて、鷹や鷲みたいに強くて大きな鳥になるから。そうしたら誰も閉じ込めようなんて思わないでしょう?」
「ラウェルが?」
「うん。外に出て行っても、一人でまた帰ってくるような鳥になる。オリーだって、今はまだ僕が小さいから心配なんだよ。綺麗なだけじゃなくて、強い鳥になる」
オリーは眉を顰めて、何だか複雑そうな顔をしていた。
「オリー、相談があるんだ」
これからどうするのか。僕はオリーと真剣に話さなきゃならない。いつまでもここにはいられないし、頼ってばかりの子どもじゃだめなんだ。オリーがこの屋敷に来てくれる前は、一人でも生きて行かなきゃって思っていたんだから。
「この屋敷を出て行こうと思うんだ。ここには定期的に監察官たちがやってくる。今はまだ見つかっていないけれど、オリーと僕がいるのがわかったら、シオンたちは、さらに罰を受ける」
「ダートは、今も必死でお前を探している。俺は何としてもお前を見つけろと言われたんだ。それでも、この屋敷には魔力が及ばなくて気がつかなかった」
『⋯⋯この屋敷は、魔導士と相性が悪くてな。彼らの力が及ばんのだ。昔からな』
監察官が話していた言葉が頭に浮かぶ。オリーは僕の両手を握った。
「ここに来てから、ずっとラウェルに言おうかどうしようかと迷っていた。ラウェルはまだ幼かったから、覚えていないかもしれない⋯⋯」
「オリー?」
「一緒に来てほしい」
オリーは僕の手を取って、部屋を出た。
屋敷の中を、まるでよく知っているかのようにオリーは歩いていく。次々に階段を上がり、一番上の階に来た。端の部屋まで行くと、オリーが扉の前で小さく呪文を唱える。
部屋が開いた時、僕は目を瞠った。
「ここ⋯⋯。子ども部屋?」
「そうだ。ラウェルはこの上の物置部屋にいた時に俺を呼んだだろう?」
頷いて、中に入った。部屋の中を見回せば、目を引くのは壁際の大きな本棚だ。たくさんの本が並んでいる。中には、絵の入った貴重なものもあった。そもそも本は高価で滅多に見られない。それを子どもに与えられるのだから、ここは貴族の中でもかなり裕福な家だろう。
天板の広い机に背の低い椅子が二つ並んでいる。そういえば、物置部屋には大きさの違う子ども用の寝台があったな。
オリーは部屋をぐるりと見回すと、くすりと笑った。
「懐かしいな」
⋯⋯なつかしい?
オリーは部屋の角まで行くと、天井を見上げて、もう一度呪文を唱えた。
天井の板の一部が外れて浮き上がり、ぽかりと四角い穴が開く。
「おいで、ラウェル」
⋯⋯あれ?
手を差し出すオリーに重なるように、幼い子どもの姿が浮かぶ。前にも確かに、こんなことがあった。そう思った時には、ふわりと体が浮き上がっていた。
23
お気に入りに追加
119
あなたにおすすめの小説
天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる
ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。
※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。
※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話)
※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい?
※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。
※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。
※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。
申し訳ございません。あいにく先約がございまして。
ハリネズミ
BL
取引先の息子から何度もなんども食事に誘われる。
俺は決まって断りもんくを口にする。
「申し訳ございません。あいにく先約がございまして」
いつまで続くこの攻防。
表紙はまちば様(@Machiba0000)に描いていただきました🌸
素敵な表紙をありがとうございました🌸
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺(紗子)
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
騎士は魔石に跪く
叶崎みお
BL
森の中の小さな家でひとりぼっちで暮らしていたセオドアは、ある日全身傷だらけの男を拾う。ヒューゴと名乗った男は、魔女一族の村の唯一の男であり落ちこぼれの自分に優しく寄り添ってくれるようになった。ヒューゴを大事な存在だと思う気持ちを強くしていくセオドアだが、様々な理由から恋をするのに躊躇いがあり──一方ヒューゴもセオドアに言えない事情を抱えていた。
魔力にまつわる特殊体質騎士と力を失った青年が互いに存在を支えに前を向いていくお話です。
ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる