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46.優しさと愛情 ②

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「⋯⋯今日のは、気にしなくていい」
「どうして?」
「心が狭いから」
「オリーのこと? オリーの心は狭くないよ」
「⋯⋯いや、案外ちっぽけなんだ。最近よくわかった」

 僕が首を傾げると、ようやくオリーは振り向いてくれた。

「オリーの心がちっぽけなら、僕はもっとずっと小さい気がする⋯⋯」
「⋯⋯ラウェルは強くて真っ直ぐだ。だから皆、お前を好きになる」

 オリーは僕に向かい合って、体を少し屈めた。ふわりと重なった唇は、柔らかくてあたたかい。ほんの一瞬の温もりに目を丸くしていると、ぎゅっと胸の中に抱き込まれる。大きくて広いオリーの胸の中にいるのが好きだ。そして、僕の心臓は早鐘のよう忙しく動き出す。以前はオリーに抱き着いても安心するだけだったのに、今ではドキドキする方が多い。
 ⋯⋯シオンに抱き着くのとは全然違うって、最近分かったんだ。

「時々、ミツドリを王宮の奥深くに囲った王族たちの気持ちがわかる気がする。⋯⋯俺は、馬鹿だな」
「僕の一族のこと?」
「そうだ。彼らを守りたい気持ちもあったと思うが、それ以上に⋯⋯、他の者に見せたくない気持ちもあったと思う。優しくて弱い、美しい生き物を」
「旅してる時も、領主の館で飼われてる小鳥たちは、綺麗な鳥籠の中に入ってた」
「⋯⋯籠から出したら逃げてしまうだろう。だから、ずっと自分の元に置いておくために丈夫な籠に入れるんだ」

 ミツドリたちも、大きな鳥籠に飼われているのと同じだったんだろうか。

「オリーも?」
「ん?」
「オリーも僕を籠の中に入れたい?」

 蒼空の瞳がとても辛そうに歪む。

「心配しなくていいよ。僕ね、小鳥じゃなくて、鷹や鷲みたいに強くて大きな鳥になるから。そうしたら誰も閉じ込めようなんて思わないでしょう?」
「ラウェルが?」
「うん。外に出て行っても、一人でまた帰ってくるような鳥になる。オリーだって、今はまだ僕が小さいから心配なんだよ。綺麗なだけじゃなくて、強い鳥になる」

 オリーは眉を顰めて、何だか複雑そうな顔をしていた。

「オリー、相談があるんだ」

 これからどうするのか。僕はオリーと真剣に話さなきゃならない。いつまでもここにはいられないし、頼ってばかりの子どもじゃだめなんだ。オリーがこの屋敷に来てくれる前は、一人でも生きて行かなきゃって思っていたんだから。

「この屋敷を出て行こうと思うんだ。ここには定期的に監察官たちがやってくる。今はまだ見つかっていないけれど、オリーと僕がいるのがわかったら、シオンたちは、さらに罰を受ける」
「ダートは、今も必死でお前を探している。俺は何としてもお前を見つけろと言われたんだ。それでも、この屋敷には魔力が及ばなくて気がつかなかった」

『⋯⋯この屋敷は、魔導士と相性が悪くてな。彼らの力が及ばんのだ。昔からな』

 監察官が話していた言葉が頭に浮かぶ。オリーは僕の両手を握った。

「ここに来てから、ずっとラウェルに言おうかどうしようかと迷っていた。ラウェルはまだ幼かったから、覚えていないかもしれない⋯⋯」
「オリー?」
「一緒に来てほしい」

 オリーは僕の手を取って、部屋を出た。
 屋敷の中を、まるでよく知っているかのようにオリーは歩いていく。次々に階段を上がり、一番上の階に来た。端の部屋まで行くと、オリーが扉の前で小さく呪文を唱える。
 部屋が開いた時、僕は目を瞠った。

「ここ⋯⋯。子ども部屋?」
「そうだ。ラウェルはこの上の物置部屋にいた時に俺を呼んだだろう?」

 頷いて、中に入った。部屋の中を見回せば、目を引くのは壁際の大きな本棚だ。たくさんの本が並んでいる。中には、絵の入った貴重なものもあった。そもそも本は高価で滅多に見られない。それを子どもに与えられるのだから、ここは貴族の中でもかなり裕福な家だろう。
 天板の広い机に背の低い椅子が二つ並んでいる。そういえば、物置部屋には大きさの違う子ども用の寝台があったな。
 オリーは部屋をぐるりと見回すと、くすりと笑った。

「懐かしいな」

 ⋯⋯なつかしい?

 オリーは部屋の角まで行くと、天井を見上げて、もう一度呪文を唱えた。
 天井の板の一部が外れて浮き上がり、ぽかりと四角い穴が開く。

「おいで、ラウェル」

 ⋯⋯あれ?

 手を差し出すオリーに重なるように、幼い子どもの姿が浮かぶ。前にも確かに、こんなことがあった。そう思った時には、ふわりと体が浮き上がっていた。
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