凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ

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番外編 秋 雛(ひな)の王子 ※

4.長夜 ① ※

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 寝台に行けばよかった、と思った時にはもう遅かった。  

 互いに身に纏うものはなく、ヴァンテルは私を後ろから抱きしめて離さない。
 肌に触れる手は、まるで壊れ物を扱うかのように優しいのに、口づけはどこか性急だ。

 耳朶から首元に舌を這わせたかと思うと、項を強く吸い上げる。さらには吸った後に柔らかく歯を立てられた。ぞくぞくと背筋に甘い痺れが駆けあがっていく。
 耳のすぐ下をもう一度舐められて、思わず声が出た。

「あッ!」
「……アルベルト様は、ここを舐められるのがお好きですね」

 はぁと切なく息を漏らせば、ヴァンテルの指先が尖った胸の先をきゅっと摘まむ。何度も体を重ね触れられているうちに、口づけられただけでそこが反応するようになった。
 爪の先で軽く弾くように弄られれば、体がびくびくと跳ねる。

「こんなに感じてくださるなんて」

 嬉し気な言葉が無性に悔しくなって、思わず叫んだ。

「……クリスだって!」

 ヴァンテルの中心に硬くそそり立つものが、さっきからずっと腰に当たっていた。

「……貴方に触れているのに感じないわけがありません。いつだって欲しくてたまらないのに」

 肩を一際強く吸い上げられて、抑えていた声が漏れる。
 ヴァンテルの唇が吸い上げた肌には、どれほどの紅い花が咲いているのだろう。

「クリス……、だめだ。見えるところは、やめて」
「アルベルト様、『印』は見える場所につけなければ意味がありません」

 首がちり、と熱くなった。……今のは、間違いなく痕になる。文句を言おうと思った瞬間に、口の中にヴァンテルの右手の人差し指が入れられる。

「ンッ!」

 左手で軽く顎を捉えられ、ヴァンテルの指が口の中を蹂躙する。上顎うわあごから舌をぐるりとかき回され、思わず差し入れられた指を吸う。

「……お上手です」

 ヴァンテルは小さく息を吐き、放した左手で、立ちあがった私の雄にそっと触れた。とうに濡れそぼっている雄は、かすめる様に指先が軽く触れていくだけ。
 ちゅくちゅくと必死で指を吸い上げれば、耳朶にヴァンテルの熱い舌が差し込まれる。もどかしさと苦しさがないまぜになって体の中を駆け巡る。

 ……もっと。

 もっと、欲しい。
 言葉に出来ずに体が震えて、じわじわと涙が浮かぶ。

「……ふ、ぅ」
「アルベルト様?」

 ヴァンテルが口の中から指を外して、私の頬に触れる。

「……う」

 涙がぼろぼろと零れて、長く美しい指先に伝う。
 ヴァンテルは驚いたのか、私の体を慌てて自分の方に向けると、膝の上に乗せて強く抱きしめた。
 目尻の涙を吸い、瞼に口づけ、慰めるように髪を撫でる。

「……お許しを。あまりにお可愛らしかったので」
「少しも、悪いと思ってないくせに……」

 恨みがましく言えば、青い瞳が見開かれて、ヴァンテルは小さく笑った。美しい瞳に情欲を滲ませたまま、唇と唇が重なる。

 割り開かれた唇の間に入った舌は、指とは違って優しく口の中を撫でていく。いたわるようにそろそろと、上顎から歯の裏側に触れる。
 舌先にトントンと触れた後に包み込むように舌を吸われると、もう一度、涙が零れた。

 ヴァンテルの長い睫毛が揺れて、抱きしめる腕に力が籠る。腿に当たる剛直は、ますます硬く熱い。
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