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28.凍宮

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 凍宮に戻って半月。

 ロフとブレンが、守り木の村につ日がやってきた。
 二人は揃って私の前にひざまずき、頭を垂れた。

「殿下がレーフェルトに戻られた以上、私たちの役目は終わりました。これからは村に戻って暮らします」
「役目?」

 ロフとブレンは顔を見合わせた後、決心したように告げた。

「殿下、守り木の村で私たちが共に暮らした蜂は、宿屋でご覧になった蜂たちです」

 空一面に広がる黒い煙が脳裏に浮かぶ。あれは、どれほどの数の蜂だったのか。

 私の目をじっと見て、ブレンが口を開いた。

「殿下は不思議な羽音をお聞きではありませんか?」
「時折、羽音とも言葉ともつかぬものなら聞こえる」

 気のせいだとは思えない。
 ……ブブブと鳴る羽音が、不思議な音を成し、細切れに言葉となって伝わってくる。
 明瞭に言葉となって表れたのは宿屋にいた時だが、今も思い出したように聞こえる。

「それこそが彼らの言葉です。殿下は『裁き』が選んだ方です」
「選んだ?」

 ロフが、ブレンの言葉を受けて語りだす。

「殿下。守り木の村で育つ民は『裁き』の言葉が聞こえます。彼らは本当に必要な時だけを伝えてくる。ただ、役目を果たした者には何も伝えません。私たちにはもう彼らの声が聞こえません」

「『裁き』は失われたはずだ。……兄の手によって」
「これは、わずかな者しか知らぬ話です」

 王室付きの騎士たちが、村を訪れた少し前。
『裁き』の中で巣別れを行ったものがあった。蜂たちは密かに新しい巣を作りはじめていた。

「騎士たちは、村にある手近な巣箱はどれも運んで行きました。残るは巣別れで飛んだ一つだけ。ただ、私たちでさえも行方がわからなかったのです」

 村長が命を絶った後、『裁き』を偶然見かけた村人が巣をようやく探し当てた。しかし、蜂たちは一斉に消えてしまう。

 ブレンが続けた。

「巣だけを残して、いなくなったそうです。その後、亡き王太子が愛馬と共に亡くなられたことを知りました」

 全身の毛が逆立った。そんなことがあるはずがない。
 蜂に襲われた兄様。無残な最期を遂げたブラオン。

「そんな……。それではまるで、兄は『裁き』に殺されたとでも」

 ロフとブレンが代わる代わる言葉を放つ。

「……もしかしたら、蜂たちの怒りだったのかもしれません」
「『裁き』は意思を持ちます。王とは彼らを助ける者、彼らは王の命を繋ぐもの」

「……王?」

 ロフとブレンは、私を静かに見つめた。二人の茶色の瞳は温かく、どこか痛みを秘めている。
 二人の言葉は謎めいて、それ以上は何も言わなかった。

「殿下、私たちは村に戻り『裁き』が来るのを待ちます。彼らは二度と現れないかもしれない。それでも戻って来てくれたなら、共に穏やかに暮らしたいのです」

「また、其方たちの村を訪れてもいいだろうか」
「もちろんです、殿下」

 いつかまた湖に行き、白く輝く羽を持つ鳥たちの姿が見たい。
 そう言うと、二人は静かに微笑んだ。
 
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