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13.病魔 ヴァンテル視点

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 私は、毎日のように殿下を見舞った。殿下は決して学ぶことを止めようとはなさらない。

 侍従や側仕えをことごとく入れ替え、生活の見直しをさせた。殿下のお体に少しでも良いものをと周囲に命じ、自分でも探した。ライエンから食事で病を治すという変わり種の料理人の話を聞いたのも、その頃だった。

「殿下。ご無理をなさいますな。お体に障ります。時間はまだたっぷりあるのです。ゆっくりお過ごしを」
「……学んでいる間は、兄様のことを考えずに済む。眠れば、兄様は、ブラオンは、なぜあんなひどい最期を……と夢に見る。それに、学ばねばならぬことは無限にある」

 殿下の瞳は私を見ていなかった。彼は煉獄にいる一人の男を追っている。幼い頃から、彼を慈しみ育てた太陽。彼から殿下に注がれた愛情は、偏狭ではあっても間違いなく光だったのだ。


 日ごとに、宮中伯たちの口からアルベルト殿下の名前を耳にするようになった。

「風にも倒れると聞いていたが、大層努力なさっておいでだ。飲み込みもお早い」
「元々が素直な気質でいらっしゃるのだろう。誰の話にも分け隔てなく耳を傾けられる」
「正教会からの支持も高い。何度もお出ましになり、祈りと対話を続けておられるそうだ」

 アルベルト殿下の大きな美徳の一つに、謙虚さがあった。尊大な第一王子にはなかった弱者への優しさにも人々は惹かれた。

 ──第二王子は賢く公平で、愛情深い。努力を惜しまず、人に誠意を貫こうとする。

 アルベルト殿下は、今まさに王太子として認められようとしていた。

 そんな中で、殿下の婚約者を望む声が上がった。病弱王子と言われたアルベルト殿下に婚約者はいなかった。だが、王太子ともなれば話が違う。
 多くの令嬢の中からノーエ侯爵令嬢の名が上がった時、私は耳を疑った。

「それで……、殿下は何と?」
「皆のよいようにと仰っておいでです」

 私が政務の後に殿下を訪れた時。殿下は手紙を書いていた。

「……恥ずかしい話だけれど、女性に贈る手紙一つまともに書いたことがないんだ。贈り物のやり取りをしたこともないし。先方にとって、私はさぞかしつまらない男だろうな」

 自嘲気味に話す殿下を、私がどんな気持ちで見ていたか。殿下は何も気づかずに続けた。

「昔、クリスにもらった贈り物は、どれも嬉しかった。クリスは、人にものを贈る時は何を考えて贈る?」


 ──相手が何を喜ぶか、いつも心にかけています。受け取ってくれた時の笑顔を考えて贈ります。
 その言葉だけは、口にしたくなかった。


「女性なら誰でも、美しいものが……、お好きでしょう」

 昔聞いた言葉を告げれば、殿下は成程と納得する。

「やっぱり聞いてよかった。ありがとう、クリス」

 そんな言葉など、聞きたくもなかった。


 殿下がノーエ侯爵令嬢と手紙の遣り取りを行い、贈り物を交換するようになった頃。
 一通の手紙が私の許に届いた。

「二人きりで話す機会を」と。

 差し出し人の名は、シャルロッテ・ノーエ。
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