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13.病魔 ヴァンテル視点
②
しおりを挟む一か月が過ぎた頃。
アルベルト殿下が倒れたとの一報が入った。
私は自分を呪った。どうしてもっと、殿下と周りの様子を真摯に見てこなかったのか。
アルベルト殿下は優しい方だ。心配させぬように、自分から辛いなどとは決して言ってこない。
殿下の部屋には、侍医と侍従たちがいた。
人払いをして、侍医と二人きりで話を聞く。殿下はまるで息をしていないかのように血の気のない顔で、ぐっすりと眠りについていた。
ご様子はどうかと聞けば、侍医は眉を顰めて小声になる。
「過度の睡眠不足による疲労。それに栄養状態もよくありません。侍従たちに聞けば、ろくに食事も召し上がらずに朝から晩まで教師がつききりだったと……」
「誰がそんな暮らしをさせろと言った!!」
怒りのあまり、廊下に響くほどの大声で叫んだ。
兄王子の側に付いていた者たちから見れば、アルベルト殿下は、さぞ不甲斐ない存在だったのだろう。体が弱く世情に疎い。次代の国王となる王太子が、ものもろくに知らない子どものままでは困る。少しでも早く、少しでも世継ぎとしてふさわしく。そう急き立てたのは、わかりきっていた。
朝から晩まで綿密に組まれた課程をこなすなど、殿下の今までの生活を考えれば有り得ないことだ。
「……ですが、それだけが問題なのではありません」
侍医は顔色を悪くしたまま、言いよどむ。私は、先の言葉を急かした。侍医は逡巡の末に、重い口を開いた。
「アルベルト殿下は、国王陛下と同じご病気です」
「病? それは、生来、虚弱でいらしたということではなく?」
侍医は首を振った。
「ロサーナ王家は、領地の分散を防ぐ為に、長く血族婚を繰り返してきました。それは閣下もご存知のはず」
自分も王家に連なる者の一人だ。よくわかっている。
「御血筋に元々の因子があったと考えられています。王族の男子の半分が発症致します。お体の中に、あらゆる病に抵抗する御力が足りないのです。過剰な労働は体への負担となり、成長されてからは人の何倍も老いを加速させていく。おそらく、国王陛下はご存知でしたでしょう。ご自身と同じ病の王子を、できるだけ人々から隔離し、あらゆる病への感染を防ごうとしたのです」
……何だと?
ただ、殿下のお体が弱いだけだと思っていた。療養として小宮殿にいるのだと。亡き王太子の過剰な愛情が、他の者からより遠ざけているだけだと。
「体にも心にもご負担の無い環境が必要です。静かにゆっくりと日々をお過ごしになることが、御命を少しでも伸ばすこととなりましょう」
「……殿下の御命は、どれほど」
返答を聞くのも恐ろしかった。侍医は、ためらいながら首を振る。
「はっきりとは申せません。ただ、玉座になどお就きになれば、長くは……」
「では、陛下は? 同じご病気だと言うのなら国王陛下はなぜお元気なのだ? 長きに渡って玉座にお就きではないか!?」
「……薬がございます」
「薬?」
「とある地方に伝わる万能薬がございまして、陛下のお体にはそれがよく効きます。陛下はずっと、それを服用していらっしゃいました。手に入らなくなって以来、床に臥せられたままです」
薬の正体は、すぐにわかった。
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村長との約束の薬は、父から陛下に献上されていたのか。だがそれも、永遠に失われてしまった。
家督を譲られる前に、守り木の村の長は自決した。父は床に臥せることが増え、村を守ることができなかったと私に打ち明けた。湖のほとりの村には、今はもう誰も住んでいない。
──どうしたらいい?
あの方を、これからどうやったら守れるのだ。
「学ばねばならぬことがたくさんあるから、と長椅子で仮眠をとるような生活を、お続けだったようです。殿下のお体の為には、あってはならぬことです」
……止めなくては。殿下を。
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