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1章:魔眼の魔女の探索記
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「……いや、なんていうか」
そこから先の言葉がつむげず、誤魔化すようにカイは酒を飲んだ。エルはカイをじっと見つめたまま動かないので、気まずい沈黙が流れる。
「……カイさん」
いたたまれなくなり空のグラスを傾けようとしたカイに、エルは意を決したように彼の名を呼んだ。
「……何」
「ありがとうございます」
「は?」
急に感謝の意を告げられ、カイは怪訝な声をあげた。
「急に何?」
「見えているなら良かった、そう言ってくれる人は沢山いました。私自身、そう思っていましたしね。でも貴方は、帯布を着けていること自体をおかしいと言ってくれた。」
そう言ってエルは、帯布の巻かれた自分の目元にそっと触れた。
「さっきの貴方の言葉を聞いて、胸のつっかえが取れたというんでしょうか。これまでずっと感じていた違和感がスッと無くなった気がして、それで気づいたんです。本当の私は、これを取りたがっていたのだと。うつむいて、フードを深く被ったまま歩くのは、もう嫌なのだと」
ふわりと微笑んだエルは、カイに向かってペコリと頭を下げた。
「私の心の叫びに気づかせてくれて、本当にありがとうございます、カイさん」
カイは呆気に取られて言葉が出なかった。しかし、何故自分がこの少女にこんなにも心を揺さぶられるのかが、何となく分かった。
根本的なところで、カイとエルは似通ったものを持っていた。自分で望んだ訳でもない、人とは違うものを必死に背負って、その潰されそうな心情を誰にも気づかれる事なく隠し続ける。──自分達のその努力が報われる時は、果たしてくるのか?
カイはその疑問に行き着いた瞬間、何かずっしりとした重たいものに胸の奥にもたれ掛かられたような気がして、乾いた笑いをこぼした。それは彼にとって愚問だった。
「……隠してるくせに、気づかれるわけがない、か」
「?カイさん、何か言いましたか?」
「いや、何でもない。ひとりごとだ」
カイはエルに向かって、初めて本心から笑いかけた。カイの中で、彼女への評価はずいぶんと変わっていた。スリの自分を利用する狡猾さは、きっと彼女が自分自身を守るために身に付けた武器。この先に多少困難があっても、彼女は機転を利かせてなんとかしてしまえるだろう。
そういえば、とカイは再び口を開いた。
「お前にあのクソ野郎の魔術が効かなかったのは、どういう仕組み?話しかけてたようにも見えた」
「……実は、私にも良くわかってないんですが、この目が原因なんじゃないかなと」
「目?」
「はい。これ以外に魔術に関するものは持っていないと思うので。恐らく魔女の魔力残滓が目から漏れていて、それが関係しているのでしょうが、それ以上は今はわかりません。
でも、先程ご覧になったとおりに、他人が使う魔術は何故か私の言葉に従うんです。どの程度までなのかはわかりませんが、今まで操れなかった魔術はありません」
「それは、お前も魔術師ってこと?」
「いいえ、私は魔術師ではありません。わたしは魔術が使えないので」
「使えない……?確かによくわからないな。明らかに魔術の臭いがするのに魔術じゃないなら、その目はいったいなんだ?」
「なんなんでしょうねぇ」
「お前、かなり呑気だよな……」
カイは目の前で美味しそうにブドウを頬張るエルに呆れた視線を向けた。
頭は良いが、同時にあわせ持つこの呑気さと若干の天然は危うい。自分に似通った境遇の相手に、カイは生まれて初めて、無意識に、他人に対して『心配』という感情を抱いていた。
そこから先の言葉がつむげず、誤魔化すようにカイは酒を飲んだ。エルはカイをじっと見つめたまま動かないので、気まずい沈黙が流れる。
「……カイさん」
いたたまれなくなり空のグラスを傾けようとしたカイに、エルは意を決したように彼の名を呼んだ。
「……何」
「ありがとうございます」
「は?」
急に感謝の意を告げられ、カイは怪訝な声をあげた。
「急に何?」
「見えているなら良かった、そう言ってくれる人は沢山いました。私自身、そう思っていましたしね。でも貴方は、帯布を着けていること自体をおかしいと言ってくれた。」
そう言ってエルは、帯布の巻かれた自分の目元にそっと触れた。
「さっきの貴方の言葉を聞いて、胸のつっかえが取れたというんでしょうか。これまでずっと感じていた違和感がスッと無くなった気がして、それで気づいたんです。本当の私は、これを取りたがっていたのだと。うつむいて、フードを深く被ったまま歩くのは、もう嫌なのだと」
ふわりと微笑んだエルは、カイに向かってペコリと頭を下げた。
「私の心の叫びに気づかせてくれて、本当にありがとうございます、カイさん」
カイは呆気に取られて言葉が出なかった。しかし、何故自分がこの少女にこんなにも心を揺さぶられるのかが、何となく分かった。
根本的なところで、カイとエルは似通ったものを持っていた。自分で望んだ訳でもない、人とは違うものを必死に背負って、その潰されそうな心情を誰にも気づかれる事なく隠し続ける。──自分達のその努力が報われる時は、果たしてくるのか?
カイはその疑問に行き着いた瞬間、何かずっしりとした重たいものに胸の奥にもたれ掛かられたような気がして、乾いた笑いをこぼした。それは彼にとって愚問だった。
「……隠してるくせに、気づかれるわけがない、か」
「?カイさん、何か言いましたか?」
「いや、何でもない。ひとりごとだ」
カイはエルに向かって、初めて本心から笑いかけた。カイの中で、彼女への評価はずいぶんと変わっていた。スリの自分を利用する狡猾さは、きっと彼女が自分自身を守るために身に付けた武器。この先に多少困難があっても、彼女は機転を利かせてなんとかしてしまえるだろう。
そういえば、とカイは再び口を開いた。
「お前にあのクソ野郎の魔術が効かなかったのは、どういう仕組み?話しかけてたようにも見えた」
「……実は、私にも良くわかってないんですが、この目が原因なんじゃないかなと」
「目?」
「はい。これ以外に魔術に関するものは持っていないと思うので。恐らく魔女の魔力残滓が目から漏れていて、それが関係しているのでしょうが、それ以上は今はわかりません。
でも、先程ご覧になったとおりに、他人が使う魔術は何故か私の言葉に従うんです。どの程度までなのかはわかりませんが、今まで操れなかった魔術はありません」
「それは、お前も魔術師ってこと?」
「いいえ、私は魔術師ではありません。わたしは魔術が使えないので」
「使えない……?確かによくわからないな。明らかに魔術の臭いがするのに魔術じゃないなら、その目はいったいなんだ?」
「なんなんでしょうねぇ」
「お前、かなり呑気だよな……」
カイは目の前で美味しそうにブドウを頬張るエルに呆れた視線を向けた。
頭は良いが、同時にあわせ持つこの呑気さと若干の天然は危うい。自分に似通った境遇の相手に、カイは生まれて初めて、無意識に、他人に対して『心配』という感情を抱いていた。
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