お人好しは無愛想ポメガを拾う

蔵持ひろ

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はじめての※

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「なん……嗅ぐなっ……」
「あんたのにおい、たまんないっ……」
「そんなわけ、ないだろっ……ひっ……」

 お互い身につけるものも無くなって佐々木が初めてしたのは雪隆の全身を嗅ぐことだった。男との行為は初めてだから手加減して欲しいと言っても、いうことを聞かない。佐々木が匂いフェチなんて初めて知った。確かによほど支度しなければ自分から言う嗜好ではないことはわかってはいるが……
 風呂に入っていないため暖房で軽く汗ばんだ体を男の目下に晒す。両腕を上げられ、湿った脇が見えた。処理もしていなくて生えっぱなしの毛に顔を埋められて、触れ合う気持ちよさより羞恥心が先に立つ。

「や、やめっ……やめろよ、犬みたいに……」

 そのままざらりと舌全体を使って舐め上げられる。ぬるっとした心地をそこで受け取るのははじめてで脳が混乱している。佐々木は片方を舐め終わると、もう片方へ移る。

「やだ。俺は、あんたにもらったパンツ、おかずにしてしこりまくったんだよ」

 変態的な行為をしていたのだと告白されて、雪隆の体が固まった。さっきまでの紳士的な態度はなんだったのか。強引すぎる。
 いや、下着を渡したのなんて結構前だと思うのだが、その時から雪隆に好意を抱いていたのか。全くわからなかった。
 好きな人の匂いだけで、佐々木のそれは先走りを溢していた。時折ふるりと震えて、雪隆は何故だか喉が鳴った。

「あー……一回抜かないと、やばい」

 佐々木は片方の手で自分の幹を握り上下に扱きはじめた。そこはもう完全に育ちきって白濁を噴き出してしまいそうだった。
 一人で達してしまうのは性行為をしているといえるだろうか。雪隆の姿を見て匂いを嗅ぐだけで、あとは自身で慰める。それでは前のオナニーの手助けと同じではないか。自然と雪隆の右手は熱いそこに手が伸びていく。

「……俺がやる」
「いいって」
「俺だって、触りたいんだよ……!」

 目の前の男は手の動きを止めると、しばらく沈黙したのち、口を開いた。

「じゃあ……体の向きを変えるから」

 佐々木の姿勢は始め、ベッドで仰向けになっている雪隆に覆いかぶさる形だった。
 体の向きを180度回転して頭の位置を変える。押し倒されていたのが、膝を立てたため二人の体の間に空白ができた。
 雪隆の口元に佐々木の屹立が、佐々木の顔面に雪隆の勃ちかけている陰茎が触れそうだ。シックスナインという愛撫をするための形。
 さっきまで先走りをこぼして達しようとしていたものが、今目の前にある。触れて欲しそうに震えて、雪隆の顔に近づいてくる。何故だか愛おしくなって頬擦りをした。佐々木の視線を感じる。それだけで興奮してしまう。
 唇の先を尖らせて、薄い皮膚で覆われた肉茎にキスをする。それだけで透明な蜜を溢れさせるのがなんだか可愛らしい。同性のものを舐めていると言う抵抗は不思議となかった。雪隆は愛でている様をちゃんと見てくれとでもいうように、舌を出して屹立全体を舐め上げた。佐々木の腰がびくりと揺れた。

「っ……あ、雪隆っ……」
「ん……ふ……」

 カリと筒の境目が敏感らしくて、硬くさせた舌先でなぞる。亀頭に円を描くように舌で舐める。雪隆は口を大きく開けて、かぶりついた。姿勢の関係か全てまでは飲み込めなかったが、できる限りの部分で口を上下に動かす。熱くはねる脈動を感じた。
 覆いかぶせられて苦しいと思わないのは、佐々木が頑張ってこちらに体重をかけてしまわないようにしているからか。もっと気持ち良くさせて、いい反応が欲しい。淫らなスイッチが押されてしまったかのように佐々木の屹立に奉仕した。

「んっ、んん……」
「雪隆……あんたフェラはじめて?うますぎ……」

 否定で咥えたまま首を横にふる。

「んん……」
「じゃあ、あんたが今までそうやってされたことがあるって思うと嫉妬したくなるんだけど」
「んっ……ふっ」

 今度は俺の番、との言葉が聞こえると、ちゅ、ちゅという音と太ももにくすぐったさが生まれる。一瞬ピリッとした痛み。ガサガサと佐々木が脱ぎ捨てられたズボンのポケットを漁っている。

「このふっとい太もも、全部かぶりつきたい」

 内腿を舐められた気配。確かに昔鍛えた脚は平均的な成人男性よりは太めかもしれない。雪隆はその言葉や子供がペタペタと触れるみたいだと思って油断していた。

「……っあ、ん……ああっ」

 半勃ちしはじめた陰茎に触れられる。ぬるりとした湿っぽい感触。口淫をされた。ペニスを躊躇いもなく口に含まれ、先走りを搾り取るように吸われる。そのまま上下に頭を動かされると身も世もなく声が漏れ出る。
 後ろの孔は雪隆の肉厚な臀部によって触れるのを阻んでいる。触りにくいのか指先で時折つつくのみだった。

「気持ちいい?」
「き…きもちい……」
「よかった」

 安堵したような声に、ひょっとして佐々木も緊張しているのかと思う。その事実はかえって雪隆をリラックスさせた。いつも余裕ぶってる佐々木も一緒なのだ。雪隆も、快感を享受した。
 互いが互いの屹立を咥える。気持ちよさでくぐもった声が漏れ出ていく。ちゅくちゅくと濡れた音のみが部屋中に響き渡る。先走りが溢れる小さな穴を舌で抉るようにされ腰がびくりとはねた。睾丸を持ち上げられ、爪の先で会陰をなぞられるとくすぐったいような腹の奥に何かが宿るような心地がする。

「ん……どうした?」

 やはり後孔はいじりにくかったのだろう、佐々木は体勢を変えようとのろのろと動きはじめた。
 雪隆を横向きに寝転がすと佐々木自身は後ろから覆いかぶさっていった。カサカサと袋を開ける音がする。
 
「……あ?何やって……ん」
「ローション付けてるだけ。その方が届くから」

 後ろから雪隆の胸へ、アナルへと手が伸びてくる。片方の乳房全体を円を描くように揉みしだいていると思ったら、後孔に粘着質な感覚。入口を指で押されているのか。一気に侵入することはやめたのか、小刻みに叩かれる。ぬちぬちと小さな音が聞こえる。

「気持ち悪くない?」
「大丈、夫……ちょっと変な感じなだけっ、だ……」

 実際入口に狙いを定めてじわりじわりと入ってくる佐々木の指は異物感こそあれど、吐き気等本当に大変な事態にはなっていない。解そうと苦戦しているのがわかるから、抜いて欲しいとは思わない。佐々木が指にまとわせていた潤滑剤も最初は冷たかったが、徐々に体温と馴染んでいき温度は気にならなくなっていった。
 ゆっくりと呼吸をしていると、体内の指が馴染んでいく気がする。太さから察するに一本の指で内側の腸壁を押し広げている。

「いいところがあったらすぐに言って」
「いいところ……?」

 佐々木の言っている意味がわからなかった雪隆だがすぐにその意味を知ることとなる。
 体内のしこり──陰茎に近い側の部分に指先で触れられ、体がびくりとはねる。見つけた、と佐々木が囁いた気がした。
 そこからは優しかったのが嘘のように容赦がなくなった。二本目の指がすぐに差し入れられ、片方はしこりを集中攻撃しもう片方は解そうと中を広げる。それは指が三本に増えても変わらなかった。
 快感で訳もわからなくなるくらいの長い時間。萎んでいた雪隆の性器もいつのまにやら反応しはじめていた。

「ほら見てみなよ。触ってないのに我慢汁垂れてる」
「やだっ……なんか、やめろよっ……んっ」
「だめ。解さないといけないから待ってて。……本当絶景」
「ふっ……ん」

 ふとましい太ももを開かれ、筋肉のついた豊満な胸は揉みしだかれる。時折慰めるように指の腹で乳首を弾かれるのがたまらない。後ろの孔はとろけて佐々木の屹立を受け入れる準備は万端なように思える。それでも弱点をしつこいほどいじられ続けている。固く結んだ唇からかすかに鼻にかかった掠れ声。そして、触れていないのに透明な蜜を垂れ流すペニス。
 言葉で煽られ、実際の自分自身の性器を薄目でみて更に追い詰められる。あまりの羞恥に足を閉じようとすると、佐々木の片足が絡んで思い切り開かれてしまう。気持ちよさでガクガクしていた足腰では雪隆に防ぐ術はなかった。
 じわじわとした気持ちよさが続く。それでも達することができないのは、直接屹立に触れられていないからだろう。それでも雪隆はねだることはできなかった。これから抱かれるとはいえ、年上としてのプライドもある。そのうえ口を開こうとすると意味のない喘ぎ声を出してしまうのを恐れたからだ。

「ねえ、イきたい?」

 佐々木の言葉に沸騰した脳は素直に首を縦に振らせた。雪隆のうなじに口付けた後言葉を続ける。

「じゃあさ自分でいじれる?」

 胸に手を伸ばしていた佐々木は一旦手を離すと雪隆の手をとり雪隆の屹立に触れさせる。そこは想像以上に熱かった。

「あ、あ……っん」
「そうそう上手……」

 一度扱いてしまうともう止まらない。先走りを絡ませ手を一心に動かす。時折鈴口を抉ったり裏筋を押しつぶすように扱く。どんどん重くなって今にも限界を迎えそうだ。

「……いく、」
「どうぞ…っ……いいよ」

 尾てい骨に屹立が押しつけられているのがわかる。先走りとローションの粘り気で佐々木が腰を下に下ろせば今にもすんなり挿入できそうだ。
 それでも佐々木は入ってこない。手淫で興奮していた体では焦らされているようにしか思えない。

「ん、あっ……早く、いれろよっ……」

 気持ち良くなるまでだめだと否定される。いかせるためだろう、佐々木の攻めは一気に激しくなった。呼吸が荒くもう自分がどんな言葉を発しているとか意識できなくなった。

「や、いくっいくっ……ぅんーーーー」

 太ももが硬くはり、ペニスがびくびくと白濁をほとばしらせる。熱くなってかいた汗とドロリとした精液にシーツが汚される。
 雪隆は仰向けに横たわって息を切らした。男なら射精すれば誰でも体がだるくはなるが、今はセックスの最中だ。目を閉じ休みたかったが目の前にはお預け状態の男がいる。雪隆の大事なところを柔らかくすることに注進するあまり、自分の屹立をほったらかしにした男が。

「ほら、こいよ」

 両手を広げベッドに投げ出し佐々木に向かって微笑んだ。全てを明け渡すような心地になる。
 佐々木は無言で見つめると、雪隆の上にのしかかった。いつもよりも熱を帯びた淡褐色の瞳。今にも獲物を食い殺さんばかりの様子にぞくりと体が震える。それは恐ろしさか、被虐的な歓喜か。両脚を開き上げられ奥まった穴が晒される。佐々木の亀頭の先が入り口にあてられるとひくひくと小刻みに動く。まるで少しずつ食むような動きが恥ずかしい。

「ん、くっ……はっ……」

 佐々木は雪隆の体の状態にからかいの言葉を投げかけなかった。そんなことを言う余裕さえなかったのかもしれない。
 熱い楔が打ち込まれる。はじめは苦しかったが、切先の一番太いところを通り過ぎると幾分かましになる。佐々木は一旦動きを止め浅く呼吸をしている。瞼を閉じて眉間に皺を寄せている。男だからなんとなくわかる、本当は最後まで貫いてしまいたいのに屹立が体に馴染むまで耐えているのだ。苦しいのは自分だって同じのはずなのに、不思議と嬉しさが先に立った。

「いいって……遠慮するなよ……く」

 佐々木の腰に足を巻き付かせ、より深く繋がるようにする。カリの出っぱったところが雪隆の前立腺を擦っていった。思わず締め付けてしまう。呻き声が聞こえてくる。佐々木も気持ちがよかったのか。
 
「んっ……余裕そう、続けるからっ……」

 佐々木に体重をかけられ一気に圧迫感が増す。下生えのザリザリとした感触を接合部付近に感じ、全て収まったのだとわかった。
 佐々木が息をついたのを聞いて、雪隆は背中に手を回していたのを下げ脇腹、銃創のあるところに触れる。名誉の負傷と言っていたがきっと仕事中に犯人と争って受けた傷なのだろう。無事で良かった。体を重ねているからか、そう強く思う。

「っ……う……」

 出ていくのもゆっくりだった。ギリギリまで引き抜いたと思ったらまたゆっくりと侵入してくる。じわじわと体内でこそばゆいような感じ。圧迫感があったが緩やかな快感を追う。もっと、強くこすってほしい。無意識に雪隆の体が動いた。

「んっ、んっ……佐々木っ……」
「自分で腰揺らしてるの……足りない?」
「ん……あああっ、あっ、ん……!!」

 佐々木の煽りにこくこくと頷くと、望み通りと言わんばかりに両腰を掴まれ一気に貫かれる。
 そこからは嵐のような時間だった。
 喉が枯れるのも厭わず喘がされ、しこり以外にも奥の気持ちいいところを見つけられてしまった。

「ささっ……佐々木ぃ……だめ、やぁっ、あっあっあっあっ……」
「気持ち、いいの間違いでしょっ……やばっ……」

 弱いところを全て擦られてより体が敏感になっていく。部屋中に濁った淫靡な水音と腰を打ち付ける乾いた音が響いていった。時折腰を回すように動かされ、アナルが広げられる。それすらもいい。
 全部が、気持ちいい。硬い陰茎がしこりを擦る度触れてもいない自身の屹立から先走りが溢れ陰毛をぐしょぐしょに濡らす。激しい挿入で泡立ったローションが押し出されシーツが汚れる。そんなことを考える間も無く頭が焼き切れてしまうような快感で塗りつぶされる。
 
「ああ……もっと、もっと……突いて、くれっ……」

 はしたないおねだりをしている自覚はなく、だらりと口を開け舌を出す。そこに佐々木の舌が絡みつき、上も舌も掻き回される。互いの汗でしっとりとした肌が心地よい。
 限界が近づいてくる。佐々木の腰の動きも一層激しくなり、佐々木自身が達するための動きに変わっていく。それでも気持ち良いと思うのだから、雪隆も後孔の快感に囚われているのかもしれない。

「好き、好き……雪隆……なまえっよんで……」
「ひ、博明っ……博明」

 そんな年下の願いも可愛いものですぐに叶えてしまう。佐々木は腰を掴んでいた手を雪隆の体に回し、はがいじめにする。逃さないとでも言うような力強さに佐々木の雄らしさを感じて後孔を締め付けてしまう。

「っ……中に出す」
「いい……いいっ……」
「……っ……」
「あ──…………」

 数回大きな衝撃の後、奥深くに埋め込まれた楔が今まで以上に大きくなった。喉が上がって息が止まる。射精の瞬間の快感に無意識に声が漏れる。佐々木は動きを止めたまま体内で濡れた感触がして、数秒。
 不思議な充足感を噛み締め目を閉じる。
 佐々木は息を切らしたままごろりと雪隆のそばに横たわった気配がする。汗で額に張り付いた髪の毛を優しく払われた。広くなったそこに触れるだけの口づけを落とされる。雪隆は幸せの中微睡んでいった。


 数日後、雪隆の住むマンションの前で元気な鳴き声が聞こえてきた。相変わらず大柄な男に向かって怯えもなく吠えてくるのは黒毛のポメラニアン。真っ直ぐに淡褐色の瞳をこちらに向けている。
 それは今なら威嚇というより求愛に感じてしまうのだから、もう末期かもしれない。わんこになった佐々木の脇を持ち上げて目線を同じにする。吠え声が一瞬で止んで、ポメラニアンはゆっくりと瞬きをした。敵意のない、信頼の証。
 雪隆も同じように親愛の証を返すのだった。
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