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しおりを挟む「アレックスさん!」
「キアランさん……大丈夫でしたか」
ああ、やっと来てくれた。数えてそんな日は経ていなかったがこの声を、姿を目に入れた瞬間、離れていた時を長く感じた。胸が締め付けられ泣きそうになるのをたえる。
キアランの方はと言うと、アレックスの近くにすぐ向かったのち、ロドルフォから庇うように二人の間に入った。双子の兄に冷たい視線を送っている。久方見ないキアランの拒絶。再会の感動から一転、自身に向けられているものでなくてもヒヤリと背中が冷たくなった。首筋や額からうっすらと汗をかいている。そんなに急いできたのか。
「文官室に泊まり込みするくらいに異常な量の仕事を割り振られてようやく帰宅したら、アレックスさんが誘拐されているなんて思わないでしょう。私達家族の事情にアレックスさんを巻き込まないでいただきたい。常識でものを考えてください」
家族に対してだからか、遠慮のない物言いだ。だが、その頑なな態度は穏やかな対話とは程遠い流れだ。それは双方とも納得する結論を迎えられない気がする。
「キアランさん、ここまで急いできたんでしょ?汗びっしょりじゃないですか。今日はもう日が暮れるから話し合う前に休みませんか?」
「そうですね。アレックスさん、近くの街の宿をとりましょう。こちらでお世話になるわけにはいきませんから」
キアランがアレックスの手を引いて門口へと向かおうとするとアレックスの護衛達が行く手を塞いだ。
「よう、ようやくお前達の仕事ができますね」
「キアランの元護衛が護衛をからかうんじゃない。キアラン、体を休めるならうちにすればいいだろう。生家に遠慮することもない」
「あの人がいるのでしょう?遠慮しておきます。父上も私と同じ空間にいるのが耐えられないでしょう」
「……構わないが」
庭の騒がしさが書斎にまで伝わったのだろう。ウドリゴ自らがやってくる。相変わらず何を考えているのかわからない顔だ。
「今から王都に帰ろうとしても馬車はもう動いていない。宿も取れる保証はない。杜撰だな」
「あなたには関係ないでしょう」
一触即発の空気だ。キアランはあからさまにウドリゴを睨め付けることはしていないが、見つめる視線に容赦がない。それが以前幼馴染のルークが言っていた氷のなんちゃらと呼ばれる所以か。
「とにかく、ここにいなさい」
「……かしこまりました。ただし、一晩だけです」
キアランは実の父親にそう言い放つと屋敷へと足を進めた。すれ違い様、苦渋の表情でキアランを見つめるウドリゴがいた。
「アレックスさん、明日には早く帰りましょう」
「ですがね……帰ってもまた追いかけてくると思うんですが」
「それは私がなんとかします」
その言い方だと何かしら策はあるのか。キアランを信じることもできる。しかしアレックスは逃げるだけが賢いやり方だとは思わない。もっと良いやり方があるのではと思う。夕方の鐘が鳴り始めたことでキアランは不服そうにウドリゴの提案に乗った。
ロドルフォの好意でアレックスが滞在していた部屋にベッドを一台運び入れてもらう。
「懐かしい……ここは私の部屋ですね。この家具の跡は子供の頃に万年筆でつけてしまったものです」
「へえキアランさんの部屋で過ごしてたんですか。じゃあこのベッドで色々と……いやなんでも」
どうやらこの部屋はキアランが子供から大人まで探した場所だったらしい。最初からこの部屋に案内されていたと言うことは、アレックスとキアランの関係はばれていたと言うことか。
とりあえず、このままだと話が脱線しかねないので言いたいことを飲み込んで本題を伝える。
「キアランさん、仕事的にはもう一日二日工面することってできますか?」
「え、ええ……数時間前まで仕事が山積みでしたので。しばらくは問題ないかと」
「それならその時間俺のために使ってくれます?」
ずるい言い方だとは思う。だが、そう伝えないとキアランは自身を連れて王都へと帰ってしまいそうだったのだ。今逃げたところでまたウドリゴは家へと訪ねてくるだろう。その時穏便な手段を取らないかもしれない……例えば、キアランが二度と王宮で働けなくなってしまうようにされるとか。天職だろう文官という職を。
ならば、明日ここで決着をつけて欲しい。
「わかりました。ただし、無意味だと感じたらすぐに一緒に帰りましょう。父上は自分の言い分のみを通そうと強引に説得してくるかもしれませんので」
「わかった」
キアランの強い言葉とは裏腹に瞳の奥には不安そうな気持ちが宿っている。不安なのだろう。ましてや、キアランの将来とアレックスと今後共にいられるかがかかっている。まぁ、アレックスの方は邪魔されてもキアランの事を死んでも離さないが。
そんな恋人を安心させるかのように優しくまっすぐな薄緑の髪を撫でる。手に心地よくずっと触れていたいくらいだ。
「ん……気持ちいいです」
「キアランさん、そんな声出されたら……」
欲望の火が、うっすらと灯る。同じ寝室で過ごすのである。久しぶりに再会した恋人、何も起こらないはずがない。
「キアランさん……」
「アレックスさん」
どちらともなく唇を重ね合わせる。薄くて、緊張からかカサついていて。何度も何度も。ゆっくりと口を開き、舌を絡め合わせていく。一旦唇が離れていった時アレックスは気になっていた事を呟いた。
「……隣の部屋、誰かいるんじゃ無いか?」
「出ていく時と変わっていなければ兄上がいます」
「じゃあ声を抑えないと」
「ふふ、アレックスさんにできますかね……?」
悪戯っ子のように微笑んで、キアランはアレックスの寝巻きを一枚ずつ剥いでいく。負けじとアレックスもキアランを裸にしていった。
「ふふ……緊張してますか?」
キアランはアレックスを押し倒すと首元に顔を埋めた。唇で首から肩への輪郭をなぞると、柔らかな鎖骨付近に吸い付く。触れられていなくてすっかり消えてしまっていた独占欲の印が再びつけられた。
「今日は貴方を舐め尽くしたい……」
「またわけがわからないこと言ってるな」
「いいですか?」
「いいよ、ほら……」
許しを得たキアランはゆっくりと味わうように唇と舌を滑らせた。はじめに乳房へ。キアランに触れられ始めてからツンと硬く凝り始めた胸の飾りへと。円を描くように乳輪を舌で舐める。時々歯を使って甘噛みされると軽微な気持ちよさが腰へ伝わってびくりと跳ねる。
「あっ……く、ん…………はぁ……あっ馬鹿……」
胸から舌が離れたかと思ったら、キアランは片手で両腕を上げさせ脇の臭いを嗅がれる。
「貴方の体臭と石鹸が合わさりあって、いい香りですね……」
鼻を削らんばかりにぐいぐいと強く脇に顔を押し付け、脇毛が擦れてじゃりじゃりと音がする。痛く無いのかと気にしてしまうが本人は構わないらしい。それどころか、ぬめった感触に襲われる。
「ひっ……そこも舐めんな……あっ」
「しょっぱい……美味しいです」
唾液をたっぷりと抱えた舌が、敏感な脇を舐める。慌てて閉じようとしたら案外すんなり脇から顔を離してくれた。
そこで終わりだと思ったら大間違いだ。
「あっ……」
「どこもかしこも美味しいです……」
筋肉を部分的に理解するように二の腕、手首、首に戻ってきて胸を過ぎ、腹筋の筋肉ひとつひとつをなぶる。ひくりと反応する陰茎を避けながら男らしくふとましい太もも、ふくらはぎからもう一度胸へと戻ってきて胸の谷間に顔を埋めた。
「っ……はぁ……やっと落ち着いた……」
「落ち着いたって割には、ここはギンギンだけどな」
揶揄うようにキアランのペニスへと触れる。先走りがだくだくと流れ、裏筋を伝っている。落ち着いた声色と裏腹に興奮が伝わってくる。
「俺の番だな」
今度はアレックスがキアランを押し倒してずりずりと後ろに下がる。頭をキアランの腹のところまで下げるとふっくらとした大胸筋でキアランの凶暴な屹立を挟み込んだ。
「っ……熱……こういうのは好みか?」
「ああっ……アレックスさん、絶景です……」
心から感激したように潤んだ瞳がこちらを覗き込む。それが嬉しくて胸で上下に扱き始める。キアランの先走りだけでぬちゃぬちゃと音が響き、アレックスの胸元がじんわりと濡れていく。
「あっ……貴方の可憐な乳首がカリに引っかかってたまらないですっ……」
アレックス自身には少しの刺激しか感じないが、キアランの感じて荒くなる息と紅潮する頬を見ていると兆していった。
キアランには一生言わないつもりだが、実を言うと昔付き合っていた女性の恋人に胸での陰茎の愛撫をしたもらったことがある。性に貪欲だったその時はこんなものかと思っていたが、今の自身の感じ方は違った。胸で愛撫をする側にも関わらず。まさか、自分がするなんて思いもしなかった。
上目でキアランの様子を観察していたが、他のプレイもしたくなってきた。胸を押さえていた腕を離すと、うつ伏せになって誘う。意図を察したキアランはゆっくりと太ももで陰茎を挟んだ。
「今度はコッチな。素股」
「はい……」
ゆっくりと太ももの隙間を抜き差しされる。会陰に先端が当たり裏筋にキアランの柔らかくて硬い亀頭が触れる。
「んっ……」
「太くて硬くて張って……素敵な腿ですね」
大きな声が出そうになって咄嗟に枕を噛み締めた。ゆっくり、じっくりとストロークされて焦らされているような心地。アレックスの中に入っていないのに中を征服しようとする心地が感じられる。相手がただの男だったら、嫌悪感を感じて殴ってでも止めさせただろう。しかし、今素股でアレックスに緩やかな快感を与えているのはキアランだ。自身の愛しい人。そんな彼から与えられるものならば全て飲み込んで快楽へと変わってしまう。
「んぐぅ……ふ……ん……」
「あっ……いいです……達してしまいそう……」
静かにしていようと思っていたのに達すると聞いて姿勢を変えようとしたが、体に力が入らなくて止められない。
「あっ、出ます……汚れて、しまう」
「まっ、待てっ……」
より一層早く隙間から出し入れされて擬似性交の用だと感じた。一際深く入れたかと思うと、動きを止め熱い液体のようなものが尻にかかったようだった。
「お前、出たのか?」
「すみません、貴方の日に焼けた艶やかな筋肉にかけてしまって」
「違うって、かけたのは拭けばいいけどよ……入れなくていいのか?」
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