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魔導国家ヴェリス編

81話 己が罪

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 クリス達は自重することなく、アルヴィジョ王城跡地のダンジョンを突き進んでいた。

 出てくる魔物も、高位アンデットがワラワラと湧いて来て、まさしく凄腕の冒険者でも進むのに苦労しそうな状況にも関わらず、クリスやアクセル、ラファエルの浄化魔法で全く気にすることなく先に進んでいる。

 またこのダンジョンにも罠が大量に設置されているのだが、あらかじめポールが先陣を切って、罠の解除や回避に努めているため、一回も罠を発動させる事なく進めている。このダンジョンの罠は一度発動したら中々消えることがなく、下手をすれば閉じ込められる危険性もあったため、初心者ダンジョンの時のように力業で進めようとは流石にクリス親子も思わなかった。

 ところどころで拾う事の出来る宝箱からは、魔力の込められた宝石や、高純度の魔石など、クリスにとって今後の研究に役に立ちそうなものが大量に出てきている。アンデットを倒したときに落とす魔石も、高ランクなだけあり、純度の高い魔石が多いのも僥倖であった。

 こちらの世界のアイテムで、聖宝石に近い物を作成できればとも考えているのだが、スウェントル王国で一度、仕組みの開示や共同研究を断っているため、それをヴェリスに開示をするというのも道理に合わないとクリスは考えていた。
 しかし、この世界で魔法の研究が進んでいるのは間違いなく魔道国家ヴェリスであり、自分たちの帰還についての研究をスウェントル王国に遠慮して遅れさせるのも勿体ない。さて、どうしたものかと少し頭を悩ませつつ、スウェントル王国には別途便宜を図る事も検討すべきかと思考していた。

 ダンジョン探索に話を戻すが、通常の冒険者なら三日はかけて潜るダンジョンを、ほんの数時間でかなりの深層まで来てしまったクリス達。その後をただ着いてくるだけのジェンガ達のほうが、なぜか息切れを起こして極度の緊張状態に陥っている様子だ。

 「ジェンガさん達、大丈夫ですか?あまり無理はなさらぬように…」
 「いえ、大丈夫です。ここまで来たのですから…。」
 「そうッスよ。クリスティーナ様達の後を着いて行っているだけッスけど、未踏破ダンジョンを見て回る。こんな機会、逃せませんて。」

 ジェンガとスピナーは疲れた表情をしているが、目はキラキラと輝いていた。ウーノだけは無表情のままだが、内心興奮している様子なのが伝わってくる。

 「そうですね。軽い気持ちで同行を提案してしまったので、迷惑になっていなければ宜しいのですが。」
 「そんな滅相も無い!むしろ迷惑をかけているのは我々なのは自覚しております故に。」

 そんな話をしながらも、一行はダンジョンを淡々と進む。道中、ジェンガがうっかり罠を発動し大量の酸が降ってきた所をクリスの結界で防いだり、ウーノがいつのまにか迷子になり半泣きになっていた所をポールが見つけ出し救出するなどのアクシデントはあったが、高難度未踏破ダンジョンの最下層とは思えない程のスムーズさでボス部屋と思われる大きな門の前へとたどり着いた。

 「クリスティーナ殿…本当に迷惑をかけて申し訳ない…。」

 ジェンガ達三人は、道中に自分たちが足手まといになっている事に申し訳なさで落ち込んでいた。

 「いえいえ、同行提案をした者として、責任は私にございますので気になさらないでくださいな。ジェンガさん達が凄腕なのは理解しております故、このダンジョンでの失敗で自信を無くさないよう、お願いしますわね。」

 クリスのその言葉は、自分達を気遣ってくれているのが理解出来るからこそ傷ついていた。ジェンガ達は自分達の不甲斐なさに腹を立て、今すぐにでは無理でも、必ずもう一度このダンジョンを自分たちの力で踏破する事を固く誓うのであった。


 「さて、豪華で大きな門ですわね。もしかすると、最終ボスの可能性も考えられます。皆さま、準備はよろしいですか?」
 「「「はい!」」」

 クリス達が近づくと自動的に観音開きに扉が開いた。

 中は大聖堂の様な装飾の壁面と柱、そして地下なのに不気味な光を放つステンドグラスが天井を彩り、荘厳な雰囲気かつ不気味な空気を漂わせていた。

 そして中央に佇むのは二人の男女。美しい顔立ちをしており控えめながらも美しい装飾の入った服装は、元々高貴な身分の者達だと思わせる。
 しかし、非常に青白い肌の色は生者のそれでは無く、またその瞳には虚無を感じさせ何も映してはいない。静かにお互いが寄り添って、ただただ佇んでいた。

 「…亡霊ですか。話の出来るタイプだと厄介ですわね…。襲い掛かるしか能のない者であればよいのですが。」

 クリスは美しい男女の亡霊を一瞥すると、ジェンガ達三人を結界で保護し、結界から外に出ないように注意をする。
 そして、アクセルとラファエルに対象の亡霊を相手にするように指示をだした。

 「良いですか?あれは、おそらくアルヴィジョダンジョン深部のボスです。それを、この国の第五王子であるラファエル様がメインとなって討伐した、という実績を作る事によって、ヴェリスの民に対する王家のアピールへとつながり、またそれだけの戦力が英雄と共にあるという我々の宣伝効果にもつながります。幸いにも、ジェンガさん達という目撃者もいますので、ダンジョン踏破の信ぴょう性も高まりましょう。」
 「は、はい。でも、亡霊相手に、戦えるのでしょうか?」
 「亡霊は基本的に聖属性と光属性魔法が弱点です。ラファエル様はまんべんなく属性魔法を使いこなせるようですが、特に聖属性魔法に秀でていると見受けられますので、問題はないでしょう。危険があれば、私がお手伝いいたしますわ。アクセルさん、ラファエル様のサポートをお願いしますわね。ここで私が手を出すと、ラファエル様の手柄にならないので、同年代の貴方が適任ですの。」
 「はい!母上。任せてください。」

 そうして、アクセルとラファエルは二人の美男美女の亡霊に一歩ずつ近づいていく。

 その亡霊達は虚ろな瞳でアクセルとラファエルを見つめていた。
 アクセルとラファエルは、警戒心をあらわに、一定の距離まで近づいてから攻撃姿勢へと移る。

 アクセルは身体強化の術式を展開し、いつでも飛び出せるようにし、また薄くラファエルと自分に状態異常無効の結界を施していた。

 亡霊系の魔物は混乱や毒などの状態異常をばらまくことが多い事を知識として知っている為の行動である。
 アクセルの的確な行動を見ていたクリスは、(さすが私の息子だわ。)と満足気な顔をしてうなづいていた。

 ラファエルは、杖の先に聖属性魔法を展開し、いつでも射出できるよう準備をしていた。

 「ラファエル君、相手はどのような能力を持っているかわからない魔物だよ。様子見せず、先手を打とう。」
 「わかった!聖なる花の刃セイントフラワリーカッター!」

 ラファエルの放った花の刃が、二人の亡霊に襲い掛かり、間違いなくダメージを与えている事を視認できた。
 しかし、男女の亡霊は抵抗することなく、ただ悲し気な瞳でラファエルとアクセルを見つめていた。

 『…』
 「!?まって、ラファエル君、何か口を動かしている!」

 アクセルが次の術式展開へと移行していたラファエルを止め、亡霊が何を話しようとしているか確認をする。

 『…あぁ…やっと。解放…されるのか。』
 『早く。私たちを浄化してくださいまし…。』

 敵意なく、辛そうな声で自らの浄化を求める亡霊達を前に、アクセルとラファエルは意思のない亡霊だと思ったからこそ戸惑いなく攻撃できたが、しっかりと意思のある者と分かったとたんに攻撃に戸惑いを覚えてしまったのは致し方無い事だろう。

 『…少年たちよ。早く、我々を解放してくれ。』
 『永遠とも思える時間、私たちはこの部屋から出る事がかないませんでした。死してなお、この地に縫い付けられたるは己が罪。ようやく、この場へとたどり着ける者が現れたのです。我々に慈悲を…。』

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お久しぶりです。
約一か月振りの更新です。

これからも亀更新ですが、適度に更新していきますので、よろしくお願いします。
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