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魔導国家ヴェリス編

75話 さて、冒険再開しますわよ。

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 あの円卓室の断罪から、一週間が経った。

 魔導国家ヴェリスは急な国王の隠居宣言に連ねてヴァイオレットの立太子宣言で次期女王内定の報せに国中が沸いた。
 また、アンバー・アザレア両殿下の北部地域開拓出向の話も同時に発表され、それは新たな発展の一歩として国民は浮き足立ったのである。

 表向きは、市民にとって明るい朗報として伝えられたのだ。逆境を糧に市民の賛同や人気取りとしてのパフォーマンスに利用するのは為政者として当然であろう。

 しかし、一部の上級貴族や王宮勤めの官司など、どこからか王家の裏側のドロドロした事実を知ってしまい、戦々恐々としていたが、きっちりと責任を取っている点を踏まえ、やぶ蛇にならぬ様に事実を知るものは皆、口を閉ざしている。

 今、ヴェリスの王宮は急激な政変に非常に慌ただしく様々な人々が走り回っているが、クリス一行はどこ吹く風で旅の準備を進めていた。

 「母上、僕たちがこれから向かう、アルヴィジョ跡地という場所は、どんなところなのですか?」
 「冒険者の観光地となっている、巨大遺跡都市ダンジョンですわ。広大な遺跡跡が、まるごとダンジョン化しておりまして、跡地周辺には冒険者達の治外法権の街が広く連立している様ですわよ。」

 今、クリス達は、アンバーやアザレアが派遣される予定の【アルヴィジョ聖国跡地】へと冒険に向かおうとして、準備を進めていた。

 余談だが、跡地周辺にある冒険達の治外法権の街は、アルヴィジョ跡地を囲む様に各地に点在している。
 アンバーとアザレアはそれらを綺麗にまとめる様に指示されているのであり、並大抵の努力や時間では解決できない問題が山積みとなっているのは想像に難くない。

 これから双子や、運悪く巻き添えになってしまったその婚約者達、そこに付き従う従者や護衛騎士達は、一からの開拓に胃を痛める事となる。
 ただ、全く手付けずの地を自分達が整備して行くという事に、各々がやり甲斐を見つけ、イキイキと誇りを持って仕事をし出す様になって行き、アンバーとアザレアも過去に自分達の仕出かした事を反省し、政務と開拓に心から励む様になるのは、未来の話。

 閑話休題。

 話は元に戻るが、何故クリス達がアルヴィジョ聖国跡地へと向かう事になっているのかを語るとしよう。
 …それは全てクリスの口車に乗せられたブラウン達王族が、あたかも王家が指示したかの様に見せかけてクリスの手のひらで踊らされた結果なのである。

 では、少しだけ過去のやり取りを、時を遡って見てみる事としよう。

****

~一週間前:ヴァイオレット立太子決定の後~

 「さて、王家の取るべき行動の最終着地点は見えた訳です。後は皆様の頑張り次第という事ですわね。では、私のお願い事を聞いて頂けますか?」

 クリスのあからさまな話題の切り替えに、ブラウン達王族は、警戒の色を濃くしたのは致し方無いだろう。

 「あらあら。そんなに警戒しなくても大丈夫ですわよ。ラファエル様が私達一行に同行をする許可を頂きたいのですの。」

 コロコロと微笑みながら、畳んだ扇子を艶っぽく自分の顎に当てがい、クリスはブラウンを見つめた。

 「…クリスティーナ様、その件ですが、確かにラファエルは我々に不信感を抱いている事でしょう。しかし、クリス様のお陰で私も含めて私達家族は目が覚めました。二度とこの様な事は起こしませんし、起こさせません。ラファエルを真の家族として、新たな一歩を踏み出したいのです。」

 ブラウンはそう言って、クリスに頭を下げる。その気持ちは嘘偽り無く、今まで遠巻きにしていた分、これからは家族としてしっかりと向き合いたいという気持ちが現れていた。

 それは、ヴァイオレットとシアンも同様で、ラファエルは将来この国に必ず必要になる人材であるとも訴えかけてきたのは、クリスの想定内でもあった。

 今のブラウン達のこの真摯な姿勢を見たら、ラファエルも気持ちが揺らいだ可能性は僅かながらにあるかも知れないが、クリスとしてはほぼ無いと踏んでいる。

 既にラファエルはこの短い期間でクリス一行に馴染み、特にアクセルに対して心を開いているのだ。
 そして残念ながら、今まで冷遇してきた人間が、真に心を入れ替えたとしても、ラファエルにとって彼らを真の家族と思うには既に手遅れになっているとも言える。

 しかし、今、前向きになっている王族達に、その事実を伝えるのも酷というものであろう。
 クリスがその様な思いを表に出すはずもなく、表面上はブラウンに同調するそぶりで、違ったアプローチにて交渉へと掛け合うのであった。

 「えぇ、理解できますわ。これまでの歪な淀みが晴れた今、ラファエル様とも信頼関係を築きなおしたいというお気持ちもわかります。」

 クリスはワザとらしいくらいに慈愛の微笑みを浮かべつつ、言い聞かせる様にブラウン達に語りかけた。

 「しかし、ブラウン様。私がブラウン様の立場だと仮定すると…国の利益を考えれば、私達にラファエル様を預ける事を選択致しますわ。」
 「…それは…何故でしょうか?」

 国の利益の為に、異母弟をクリス一行に預けるという理屈が、いまいちピンときていないブラウン達だが、クリスは優雅な所作でたたんでいる扇の先端を自分自身へと向け、自身たっぷりの表情でブラウン達を諭していくのであった。

 「私達、おそらくは周辺各国にも知れ渡る英雄として、名が行き渡っておりますでしょ?自分で言うのもなんですが。スウェントル国王にも熱烈に引き抜きに合いましたもの。いつでも王城を訪ねても良いとまで言われていますのよ。」

 誇張でも何でもなく、ブラウン達もスウェントルの英雄としてのクリス一行の活躍は、国を跨いで有名なのだ。
 今回、そもそも事件が発生していなければ、魔導国家ヴェリスの貴賓としてもてなし、色々と話を聞かせて貰おうとも考えており、あわよくばヴェリスに仕えて貰おうとも考えていたのは事実。

 ブラウンは、真剣な表情で頷きながら、クリスの次の言葉を待っている。

 「スウェントル王国が、多大な利益をもたらす我々の他国への旅立ちに対し、何故了承して頂いたか、ご理解出来ますか?」

 そう言われて、確かに英雄と呼ばれているクリス一行ならば、例え冒険者であれどあの手この手で引き止めるはずであるとブラウンも言われて気がつき、クリスに「なぜなのでしょうか…?」と控えめに質問をした。

 「一緒にいるモニカとポールが、スウェントル王国の貴族の従者として勤めていた実績があります。所謂、私達親子の【首輪】として勘違いして下さったからですわ。実際に、別にどこの国にも所属していないのに、【の英雄】と呼ばれているのは、スウェントル王国の子爵の従者経験のある、モニカとポールの存在の影響も大きいのです。」

 なるほど…とヴァイオレットが頷き、つぶやく様にクリスの言葉に同調するのであった。

 「確かに、クリスティーナ様一行に、魔導国家ヴェリスの手の者が居ると他国引き抜きにの牽制にもなりますし、スウェントルだけの英雄とも言い切れなくなりますわね。」
 「はい。そこで、提案なのですが…」

・ラファエルを冒険者とし、クリス一行で鍛え上げる。
・異世界の知識をラファエルに落とし込み、その後ラファエルが王宮に戻ってきたらそれは好きに使っても良いと約束。
・ラファエルを預けるのに、Aランク冒険者では箔がつかないのであれば、魔導国家ヴェリスでSランクやSSランク冒険者と表される様な偉業を成し遂げてみせる事も検討。ただし、その場合は、ラファエルも同行し、ラファエルも一緒に同ランクへの飛び級ランクアップとする事。
・エイルーク王家がスウェントルの英雄と懇意になる事によって、両国の友好的なコミュニケーションへと利用できる事。
・世界を旅しつつも異世界研究や魔法研究で何か新しい発見があれば、ラファエルを通じて滞りなくヴェリス魔導研究機関へと連絡が出来る事。
・エイルーク王家の一員を預かる英雄パーティという事で、他国の引き抜きに合いにくくなるというクリス側のメリットと、アクセルという同年代もいる事で、ラファエルも心穏やかに旅ができる事。
・ラファエルの安全は、この世界の軍隊をも1人で相手に出来る程の実力を持つクリスとアクセルが守るのだから、寧ろこの世界で一番安全である事。

 などなど、クリスの流れる様な説得でブラウン達は「なるほど…王家としてのメリットも多大にあるのか…。」と、説得されたのである。

 そして、なぜ【アルヴィジョ聖国跡地】深部へと向かう事になったかと言うと、表向きはヴェリスの発展と、派遣されるアンバーとアザレアの負担を少しだけ軽減すると言う名目でブラウンに提案したら、心から感謝されて是非とも跡地での新発見があればラファエル共々SSランク冒険者への推薦も大いにあり得ると回答を頂いたのだ。

 しかし、そのクリスの本当の思惑は、最初に大きな手柄を第三者が挙げる事によって、表向きの口上とは真逆でラファエルを害そうとしたアンバーとアザレアのこれからの研究と発展に対する心理的プレッシャーを高める為の単純な嫌がらせが八割、残り二割が純粋な歴史的跡地がダンジョン化したというところを見て回りたいという好奇心である。


 こうして、クリス一行にラファエルが同行の上、巨大遺跡都市ダンジョン【アルヴィジョ聖国跡地】へと赴く事になったのである。

****

 「さて、皆さま、準備は良いですか?跡地まで、馬車で3日程掛かります。道中も村落は有るでしょうが、最悪馬車での寝泊まりも覚悟して下さいな。」
 「「「はい!」」」

 ラファエルは初めての冒険という事で浮足だっており、アクセルにこれまでの冒険の話を聞いたりしてはしゃいでいた。

 「ラファエル君!僕が、ラファエル君に色々と教えてあげるからね。ポールとモニカも、僕が戦い方や、聖宝石の使い方を教えたんだよ!」
 「へー、アクセル君の魔力展開、凄いもんね。僕も戦える様になるのかな?」
 「うん!ラファエル君は後衛担当として、まずは高い魔力を聖宝石に馴染ませ、使い慣れる所から始めようね!」

 こうして、アクセルの脳筋術式ブートキャンプがラファエルに施される事になるのだが、それはまた別の話。

 新たな仲間を加えたクリス一行は、ヴェリス北部の名物遺跡へと旅立つのであった。


ーーーーーーーーー

この話、難産でした。
構想はあるのですが、書けば書くほど説明臭くて面白みが自分で感じられなかったんです。
今の森樹の実力では、これが限界…。もっと簡潔にバランスよく書きたいなぁ…。

でも、やっとこさ円卓論争から抜け出して、冒険者(笑)としての活動が再開出来ます!

まだまだ未熟者で、稚拙な文章で申し訳ありませんが、これからもよろしくお願いします!
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