宰相夫人の異世界転移〜息子と一緒に冒険しますわ〜

森樹

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魔導国家ヴェリス編

74話 意外と頼りになりますわね

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 円卓室での会議を一旦お開きにした後、クリスはエイルーク王族の代表とヴェリスの宰相を交え、今後の話し合いに参加していた。

 王族からはシアン王妃、ブラウン第一王子、ヴァイオレット第一王女、そして宰相のカッシュが参加している。
 クリス一行からは、クリスのみでの参加となり、先程より話し合いをスムーズに進めるのが目的だ。

 「では母上、父上の隠居は市民や貴族の混乱を避ける為にも、一年後を予定として宜しいですよね?」
 「はい。陛下は元々政務には携わっておりませんので、大きな問題はございません。私も覚悟が決まりましたわ。」

 覚悟の決まったシアンは、大胆にも自分の夫の隠居を即決した。隠居後に次期国王の後ろ盾としての存在感を出してくれるだけでも、価値はあるのだ。

 「ただ、悩む所は次期国王として立太子する人選ですわ。これは私の見解となるのですが、政務だけで考えればブラウンが適任なのですが…。」
 「えぇ。そうですね。私もブラウン兄様が国王となって頂けると嬉しいですわ。私の婚約者である、セージ様の所属するエイバン公爵家もお兄様の立太子を望んでおられますし、私も含めてお力添えになれるかと。」

 シアンとヴァイオレットは、長兄であり、政治や外交に強いブラウンを推すも、ブラウンはそれを理屈的に却下する。

 「いえ、母上。この国の魔力至上主義の風土ですと、並より少し上程度の私の魔力ではヴェリスの文化として見合わない所がございます。魔力至上主義の保守派と、魔力よりも政治や国家運営に注力すべきだと言う革新派の双方に納得のいく答えを考えると自ずと、次の国王はヴァイオレット、お前が適任なのだよ。」
 「…お兄様?私を次期女王に推薦すると言う事ですか?」

 ブラウンはヴァイオレットが立太子する事のポイントとして、物事を客観的に見る事の出来る性格、ラファエルの次に高い魔力、長女であるという立場、また各種公共事業の研究の成果、初代国王が女王であった事も踏まえ、国民からも否定的な意見はまずでない事を説明する。
 メリットは沢山あるが、差し当たって不安点が少ないのである。

 また、小さな不安点として残る政治や外交についてはブラウンやそのヴァイオレットの王配となるであろうセージが、今のカッシュ宰相やシアンの立ち位置として政治や外交に力を入れると回答した。
 エイバン公爵家の長男であるセージも、ブラウンと共に諸外国へと飛び回る外交官として既に活躍している。
 よって、ヴァイオレットには魔力至上主義の旗印とし最適かつ、またコミュニケーション能力や各種判断力含めて、父王とは違い国王としての資質も持ち合わせている事をコンコンと語った。

 そこに合いの手を入れるかの様に、カッシュ宰相もヴァイオレットの冷静な判断力や、現実主義な考え方、厳しさと優しさを双方持ち合わせたその資質を褒めそやし、宰相としての見解を示すと、ヴァイオレットは盛大に持ち上げられている事に顔を赤くしながらも、真剣に話を聞いていた。

 「と、言うわけだ。父上が好きにしろと言ったのであれば、私とカッシュ宰相は、ヴァイオレットを次期国王として推薦し、立太子としたい。これはヴァイオレットの高い魔力とこれまでの功績を含めての政治的判断でもある。」

 カッシュ宰相の合いの手も決め手となり、シアンもヴァイオレットの立太子には特に大きな問題点もない為、特に男が王位を継ぐという決まりも無いと、賛成の意を表明した。

 ヴァイオレットはブラウンを真剣に見つめ、何かを考えた後、諦めた様に口を開く。

 「…まぁ、正直に言いますと、ずっと婚約者がおりながら20を過ぎても降嫁の許可が出ていなかった時点で、こうなる可能性も考えておりました。覚悟もしていましたわ。エイバン公爵家もその可能性を考え、次男のエクリュ様にも公爵家の跡取り教育を並行して行って頂いてましたので、公爵家に多大な迷惑をかける事もございません。かしこまりました。本当は立太子選定についてはお父様の口から聞きたかった言葉ですが…致し方ありませんわね。」

 ヴァイオレットは一息ため息をついた後、クリスに視線を移し話しかける。

 「クリス様。この度は、エイルーク王家の問題に巻き込んでしまい、誠に申し訳ございません。クリス様のお陰で、諸々の問題が一気に片付いてきています。」
 「いえいえ。どれもこれも、私たちの都合でもありますし、お手伝いできたのであれば光栄ですわ。それに、全て殿下達の判断で行っている事ではありませんか。私は異世界人という立場を利用して言いたい放題言っただけですわよ。」

 クリスは優しい瞳でヴァイオレットを見つめて、彼女に激励を飛ばし、シアンにも先程のフォローを入れることにした。

 「次期王女決定の瞬間に立ち会えた事、光栄です。またヴァイオレット様に、既に覚悟があったというのも素晴らしい事ですわね。ヴァイオレット殿下とブラウン殿下のお2人がいれば、ヴェリスも安泰だと思います。シアン王妃陛下、貴女は子供の育て方を間違えたとお考えでしょうが、少なくともブラウン殿下とヴァイオレット殿下は正しく、真っ直ぐに育っていますわ。先程はシアン様を否定する様な事を言ってしまい、申し訳ありません。」

 そこまでクリスが言うと、シアンは一粒の涙を流したが、ハンカチで拭った後は凛とした表情でクリスを見つめ、王妃然とした態度で今後の事の話を進める。

 「クリスティーナ様。ありがとうございます。しかし、アンバー、アザレアの暴挙と、シェンナの愚かさは母親である私の責任でもございます。シェンナはこれから一層教育を進めていく次第ですが…。ねぇ、ヴァイオレット。アンバーとアザレアの処遇について、ヘリオトが提案した事を、あの席にいなかったブラウンとクリス様にお伝えして下さいな。」
 「かしこまりました。事件の事実を知る者には罰として映り、知らない者には美談として映る、都合のいい処遇ですわ。」

 円卓会議前に第四王子ヘリオトが提案した、北部【アルヴィジョ聖国跡地】へと研究に飛ばすという提案を話しつつ、しかしヴァイオレットはどこか腑に落ちていない様子である。ただ、ブラウンはそれに対して、悪くはないと評価をした。

 「なるほど。たしかに都合は良いが…ヴァイオレット、腑に落ちない顔をしているのは、まだ罰としては甘いと感じているな?」
 「はい、ヘリオトは経済に強く頼りになるのですが、あの子もお父様に似て良い意味でも悪い意味でも人情的です。厳しい提案が出来なかったのでしょう。」

 ヘリオトの提案を聞いた時、ヴァーミリオンを落ち着かせ説得するのに一役買った為、余計な口出しはしなかったが、2人をまとめて【アルヴィジョ聖国跡地】に飛ばしても、それは果たして罰となるのかと考えているのである。

 「双子をセットにして飛ばす必要は無いだろう?2人でいるから依存しあっておかしな方向へと進んだのだ。昔から2人でずっと行動していたからな。バラバラにする事そのものが、アンバーとアザレアにとっての罰ともなろう。」
 「ですわよね。…アザレアは聖国跡地研究に行かせるとして、アンバーは…そうねぇ。友好外交と自己研鑽という名目で、オーキッドが行っている、南方【ダロム連邦】へ行かせますか?オーキッドの元でいっしょに筋肉でも鍛えたら、それはそれはアンバーにとって罰になるでしょう?そのまま精神を鍛えてきたら宜しいのでは?」
 「…ヴァイオレット、いきなり投げやりになったな。筋肉留学はともかく、どうせならアンバーの特性を活かして国の発展につながる様に使いたいな…。」

 余談だが、オーキッドとは獣人国家ダロム連邦に、己を鍛え上げる為に筋肉留学に赴いている第二王子の事である。

 シアンは「国の為…王族としての責任…」と、呟いた後、こんなのはいかがかしらと提案をしてきた。

 「まずは、アンバーもアザレアも継承権は破棄の上、臣籍降下としますが表立って発表は致しません。余計な混乱を招きますからね。アザレアについて、単身アルヴィジョ跡地の西側を拠点とします。アンバーもアルヴィジョ跡地へと向かわせますが、あの子には、フェアリアとの国境の東側に派遣して、東西から発展と研究に努めて頂きましょう。勿論、会うことは禁止、手紙のやり取りは王宮を介し、中身を我々で確認をしてからとします。各々着ける護衛や従者にもその事を伝え、罰則を守らせるのです。」

 シアンの提案に、ブラウンもそれは中々に最善だと相槌を打つ。恐らく依存しあっている双子にとって、お互いが離されるのが一番の罰則となり得るのだ。そこそこ近くにいるのに会うことは叶わず、監視付きで手紙のやり取りも実質かなりの制限がかけられるとなると、双子にとっては廃嫡されて市井に平民として落とされる方がマシだと思える精神状態となるのが想像に難く無い。

 「成る程。この国には辺境伯が居ませんからね。アンバーとアザレアにそれぞれ北西部と北東部の辺境伯としての役割を持たせるのも良いですね。アルヴィジョ跡地も中々に広大ですし、良いのでは?」

 今後のある程度の方針が固まりつつあり、クリスも小さく頷きながらも話を聞いていた。クリスにとっては、途中までは頼りない王族達だと失望していたが、蓋を開けてみるとブラウンを筆頭に各々の持ち味を活かしてそれぞれが責任を全うしようと足掻いているのに好感を持てた。

 (上がどうしようもないと、中々身動きが取れない良い例ですわね。一度覚醒してしまえば、優秀な彼らの事、上手いことやっていけるでしょう。意外と頼りになりますわね。)

 ブラウンから、第三者としての意見を求められたが、アンバーとアザレアの件については、王族としての責任であれば継承権破棄と、依存し合う双子は離れ離れの上に辺境の地への派遣という、双子殿下からしたら厳しい結果となるのだ。
 取り立てて指摘する様な点も見当たらない為、クリスは優雅に肯定を返し、ブラウンは内心、非常に安心したのであった。


 そしてこの後、話はラファエルの問題へと発展した結果、後日クリス一行はラファエルを連れて【アルヴィジョ聖国跡地】の深部へと向かう事になるのであった。
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