宰相夫人の異世界転移〜息子と一緒に冒険しますわ〜

森樹

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魔導国家ヴェリス編

68話 【閑話】ヴァイオレットとヘリオトの意見と提案

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 ヴェリス王宮の円卓室にて、軟禁されているアンバーとアザレア、クリスと共に貴賓室に居るブラウンを除いた王族が一堂に集まって、ヴァーミリオンの話を聞いていた。

 「…以上がラファエル失踪の事実だ。原因となったアンバーとアザレアは軟禁の上、どの様な処罰とするか検討中である。此度の件は王族全体の責任として見られる危険もあり、事実はほんの一部の人間しか知らぬ。大ごとには…したくない故、ラファエルの意見を聴いてから、検討しようと思うてな。なお、ラファエルを救い、保護していただいた英雄クリスティーナ達は、既にブラウンが貴賓室でもてなしをしておる。後ほど、この場に招待の上、礼を伝えるつもりである。」

 ラファエルが知らぬ間に死にかけていた事、またその原因がアンバーとアザレアであるという事実を聞いた、第一王女ヴァイオレット、第四王子ヘリオト、第三王女シェンナは、三者三様の表情を浮かべていた。

 ヴァイオレットは何かを考える表情を浮かべ、ヘリオトは厳しい顔をしつつも父王を見つめ、シェンナは驚愕を隠しきれない顔で、両手で口元を覆う様に驚いていた。

 「お父様、質問を宜しいでしょうか?」
 「あぁ。」

 ヴァイオレットが、美しくも悩ましい表情を浮かべて、ヴァーミリオンに詰め寄る。

 「アンバーとアザレアの件です。箝口令を引いていても何処からか、話というものは漏れ出るもの。処罰を与えたというパフォーマンスをしつつも、外交や市井の者たちに混乱をきたさぬ様、取り計らわねばなりません。そこは既に動いていらっしゃるのでしょうか?」
 「未だだ。処罰の内容を考えねばならぬでな。」
 「多大な混乱を王宮に招こうとしたのです。例え血の繋がった子供であろうと、兄弟であろうと、王宮に置いておく事はエイルーク王家として許される事ではありません。結論を先延ばしにしているのは良いとは思えませんわ。」
 「…わかっている。しかし、未だ揉み消す事も、事実可能なのだ。」
 「お父様、お優しいのは結構ですが…如何なものかと…。ブラウン兄様からは何も言われなかったので?」
 「言われておる!しかし、その話はラファエルの意見を聞いてからだ!」

 ヒステリックに叫んだ父王を見て、ヴァイオレットは口をつぐんだ。

 (ブラウン兄様も、この父上を見てきっと呆れてしまったのね…。損な役回りだこと。お父様も優柔不断極まりない。隣に座っているお母様も疲れ切った顔をしてお可哀想に…。)

 ヴァイオレットは王族としての矜持を持ち合わせている。よって、例えそれが今まで可愛がっていた弟妹であろうが、今回ばかりは取り返しの付かない事件の為、厳しい処罰を与えなければ対外的にも宜しく無いと瞬時に理解していた。

 ブラウンもそれをわかっているはずで、既に上申したが今回の様に却下されたのであろう。

 ヘリオトが続いて発言をしてきた。

 「アンバー兄様もアザレア姉様も、経済の発展に大きく寄与して頂いています。ここで廃嫡などで市井に放流するのは愚の骨頂かと。僕なんかが差し出がましい意見を言うかも知れませんが、父上が言うように、未だ市井の者達に誤魔化しが効くのであれば、北部【アルヴィジョ聖国跡地】に年月を決めてダンジョン研究や魔法研究に飛ばす…というのはどうでしょうか?」
 「…ヘリオト、その理由を具体的に説明できるか?」
 「北部【アルヴィジョ聖国跡地】は、ヴェリスの北側に有りますが、300年ほど前の愚かな戦争の後、戒めの意味も込めてどこの国も手つけずの野ざらし状態となっています。他国から見たら、ヴェリスの管轄として映っている地域ですよね?」

 そこまでヘリオトが言うと、シアン王妃が納得の表情をし、続きの発言をする。

 「なるほど…ずっと放置されて、跡地そのものがダンジョン化した今、冒険者の観光地化が進んでいると聞き及んでいますわ。年月を決めて…であれば市井の者には発展の為に身を犠牲にして頑張っている美談と映り、内部事情を知っておる者には北部の厳しい環境に飛ばされて、発展を命ぜられた処罰と映るという事ですわね?」
 「はい。アンバー兄様も、アザレア姉様も、優れた魔法使いかつ、研究者です。北の聖国跡地の開発をして頂けると、人の動きも盛んになり経済発展の効果もあるのではないか…と。効果が出ればその時点で温情を与え、王宮に戻ってくるのも一つではないかと思うのですが、これは僕個人の意見ですので参考までに。」

 ヘリオトは、先日一緒にチェスをしていた優しい兄が、まさか末の弟を害そうと動いていたとは思いもしなかった事に、自分自身に腹が立っていた。

 (もっと、兄様と姉様のお話を聞いてあげれたら良かったな…。父上は優しくも優柔不断な方だ。子供の処罰を決める事も出来ないくらいに…それは愚かだけど、人としてみるなら僕は好きなんだよな。王族向いてないんだよね…父上も。僕も。)

 内心、ヘリオトは痛いくらいに父王の気持ちを理解していたのだ。
 できる事なら、揉み消して子供に罰を与えたくないという、甘い感情と王族というしがらみでストレスを抱えまくっているであろう、ヴァーミリオンの気持ちがよく分かっていた。

 そこで、北部地域の開拓と開発に、アンバーとアザレアは能力的に最適なのではないかと以前から思っていたのを、処罰として利用できればと思い、ここぞとばかりに提案したヘリオトは、兄弟の中でもとりわけ頭の回転が速いといえよう。

 「…ヘリオト。参考になる意見、感謝する。今すぐには決められないが、少し心が軽くなった気がする。検討させてくれ。」
 「いえいえ、僕なんかの言葉で力になれるのであれば。」

 ヴァイオレットはその光景を見つつ、ヘリオトの評価を改めていた。

 (従者と必要以上に仲良くしたり、こっそりと王宮を抜け出すなど問題行動の多い子だけど、非常に頼りになるわね。少し甘い気もしますが…お父様の説得と、この国を見据えての判断は中々素晴らしいものだわ。見習う点もありますね。)

 引き続き、ヴァイオレットが別の問題提起を行った。

 「別件の問題は、クリスティーナ様一行に着いて行くと言っている、ラファエルですね。クリスティーナ様が異世界への転移魔法研究にラファエルの魔力を欲していると言ってますけど、建前ですよね?どう考えても、ラファエルが王宮から逃げ出そうとしている事でしょう?クリスティーナ様達がこの場に来た時に、頃合いを見て私の方からクリスティーナ様とラファエルに質問させてくださいな?」
 「…あぁ、宜しく頼む。」

 矢継ぎ早に、問題提起とアンバーとアザレアの事件について父王と冷静に話し合うヴァイオレットとヘリオトを、ただ眺めるしか出来ないでいるシェンナは内心憤っていた。

 (なんで?アンバー兄様とアザレア姉様が罰を受けなければならないの?ラファエルが無事だったんならいいじゃない!なんでヴィオ姉様もヘリオト兄様も冷静に話が出来るの!?)

 シェンナは納得が出来ないまま、場の空気に口を挟めずじっと座っているのであった。


ーーーーーー

宗教国家アルヴィジョ聖国について…参考までに、13話にひっそりと詳細説明入れてます~。
昔に愚かな侵略戦争を仕掛けて滅びた国で、その跡地がダンジョン化し冒険者の腕試しの地かつ観光地化しています。
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